これは報われない恋だ。

朝陽天満

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337、帰ってきた……!

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 俺も自分の結晶を取り出した。

 「アイテム」「使う」のコマンドを選べば使えるんだけど、一度は挑戦してみたい握力の限界。

 俺は結晶を握りしめて、力を込めた。



 結晶は無事光となって俺の中に吸収された。

 もちろん、手で握りつぶしたわけじゃない。

 必殺コマンド「使う」を選択したとも! 全然砕けないじゃないか! 皆握力どうなってるんだよ! 



 ステータス欄を見ても、今までと同じMPだった。何が変わったのかはわからない。でも次レベルが上がった時、MPが増えてるのを期待しよう。きっと結晶錬金、今のままのMPじゃ、作れないから。絶対にサラさんが力を貸してくれたよ。だってそうじゃなかったらあのMPとスタミナギリギリとかありえないもん。

 と思ってハッとする。

 レシピレシピ。



 俺はサラさんのレシピを取り出して、中を調べた。

 あの結晶のレシピ、載ってるのかな。素材は覚えてはいるんだけど、本当に作れるのかな。

 ペラペラとページを繰って行く。結局は、最後のページになるまで、レシピは載ってなかった。

 まあ、そうだよね。限界突破アイテムをそんなひょいひょい作る事なんて、普通出来ないよね。

 でもここに来る途中の部屋で大量にあった素材を使った錬金レシピが数点新しく載っていたので、まだ帰ってこない二人を待つ間、錬金をすることにした。

 『白金の獅子』だったら、錬金術師だってことが知られてもいいかなって思って。既にユーリナさんはもう知ってるし。

 ドイリーを敷いて釜を取り出していると、雄太たちがわらわらと周りに集まって来た。



「何作るんだ? 面白い物か?」

「面白いかどうかもわからないもの」

「何だそりゃ」

「作ってみないと詳細が出てこないから」



 ということで素材を取り出して、釜に謎液体を満たす。

 エミリさんが「懐かしいわ」なんて呟いてるのが耳に入って、少しだけさっきのサラさんの顔を思い出した。

 素材を入れては掻き混ぜて、次の素材を入れて、三つ目を入れたところで、ヴィデロさんが声を上げた。



「帰ってきた」

「え?」



 皆が一斉に一点に視線を向ける。

 そこには、セイジさんが座っている姿があった。



「セイジ、遅かったな」

「ああ……」



 勇者の呼びかけに、セイジさんが答えている。答えてるってことは、蘇生薬を使う事態にはならなそうだ。

 とホッと胸を撫で下ろしていると、手元でボン、と音がして、錬金が失敗したことを教えてくれた。

 雄太が丁度失敗シーンを見ていて、腹を抱えて横に転がったけど、無視無視。



 セイジさんは、パッと見にはどこも怪我をしている様子はなかったけど、どことなく表情が陰っているみたいだった。

 やっぱりサラさんの姿をした魔王と戦ってきたとか。

 失敗した錬金術などそっちのけでセイジさんに注目していると、セイジさんは立ち上がろうとして、ふらり、と身体を傾げた。



「セイジ!」



 咄嗟にその身体を支えた勇者に、セイジさんが「悪い」と謝る。

 やっぱりどこか怪我してるとか。



「わり……サラの代わりに……ここに、魔王を吸収してきちまったら、なんか、ここが苦しくてよ……」



 だんだんと声が掠れて行くセイジさんは、自分の胸元をぎゅうっと握った。

 その手が震えている。



「お前、あの時の……」

「ああ……」



 勇者とエミリさんの顔が歪む。

 何かを思い出してるみたいだった。

 ドキドキしながら三人を見守っていると、セイジさんは胸元を抑えたまま、腰のカバンに手を入れた。

 ゴソゴソとして、取り出したのは、透明な結晶。



「サラの結晶、貰って来た……アル、ちょっと、持っててくれ……」

「セイジ。どこかがおかしいなら、すぐに回復しろ。何が必要だ? ポーションか? キュアポーションか?」



 震える手で結晶を勇者に渡そうとしたセイジさんは、勇者の言葉に首を振った。

 ぽろり、と手から結晶が落ちていく。

 そしてその手が、力なく下にぶら下がる。

 勇者に支えられながら、セイジさんの意識が途切れたのが、その力のなくなった手でわかった。



「セイジ!」

「セイジさん!」

「ルーチェ!」



『ルークが大変なことになるのよ』



 サラさんの声が、耳元で聞こえてきた気がした。



「セイジさんは……!」



 勇者はセイジさんの身体をゆっくりと地面に下ろすと、セイジさんが抑えていた胸元をはだけた。

 皆が一斉に息を飲む。



 胸元は、黒く変色し、それが目に見えてじわじわと身体中に広がっていた。



「魔王を、代わりに取り込んできたから……!」



 エミリさんが目を見開いて、そう呟く。

 大変なことって、そういうことか!

 これ、穢れた魔素で出来ている魔王を取り込んだ穢れってことだよな。



「マック! 聖水! 早く!」



 クラッシュが泣きそうな顔をして俺に視線を向ける。

 俺は頷いて、震える手で最高ランクの聖水を出して、クラッシュに渡した。

 クラッシュが勢いよくセイジさんに聖水を掛けると、かかった場所から黒い色素が抜けていった。でも、一本じゃ足りないくらい広範囲の穢れに、俺の奥歯がギリっと鳴る。

 クラッシュと一緒に聖水をセイジさんにかけまくると、ようやく黒くなったセイジさんの肌が通常の色に戻った。

 でも、おかしい。

 あれだけの穢れ、浄化する際はすごく苦しくて痛いはずなんだけど、セイジさんはピクリともしないんだ。



「セイジ……ルーチェ、ルーチェ!」



 勇者に頬を叩かれても、セイジさんはピクリとも動かない。

 手を胸元に当てて、勇者が顔を盛大に歪めた。

 もしかして、心臓、動いてない、とか……。



 俺は、さっき作った蘇生薬を取り出した。

 サラさんは、セイジさんがこうなるってことを、わかってたのかな。

 魔王を取り込む苦しさとか、一番わかってるのはサラさんだもん。だからこそ、ヴィデロさんとヴィルさんの力を借りてまで、俺の所に現れたのかな。

 目を開けないセイジさんは、どんな思いで魔王をこの身体に取り込んできたんだろう。

 はだけられた胸元に手を当てると、鼓動が全くなかった。

 この世界の人だって、ちゃんと心臓は動いてる。ヴィデロさんの心臓の音を聞くと、すごく安心するから。

 だから、こんな、鼓動がないのはおかしいんだ。

 俺はセイジさんの身体に、サラさん監修のもと作った蘇生薬を、ドボドボと掛けた。

 頼む、俺の蘇生薬。ちゃんと効いて、セイジさんを生き返らせてくれ……!



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