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336、結晶の使い方
「ただいま。ちょっと手こずっちゃったわ」
フッと現れたエミリさんは、身体中に傷を作って帰ってきた。
クラッシュが勢いよく立ち上がって駆け寄る。
「母さん大丈夫?!」
「これくらい平気よ。でも私よりセイジが心配。この試練、セイジにとってすごくきついかも」
「セイジさんが?」
「だって、私、サラと戦ってきたのよ。サラの姿をした魔王と。私でもちょっと攻撃するのを躊躇っちゃったわ」
「でも、母さん。試練は一人一人全然別物らしいよ」
「あら、そうなの? 皆が魔王を倒すんだと思ってたわ」
エミリさんの試練の内容に、そこにいる全員が息を呑んでいた。
サラさんの姿の魔王と対峙って。魔王討伐組には一番辛い試練だよ。
「俺は父さんを助けて来たよ。見て、これ。昔母さんに貰ったんだって」
クラッシュが首から下げた結晶をエミリさんに見せると、エミリさんはそれを凝視してからクラッシュの顔を見て、一瞬顔を歪ませてクラッシュの背中に腕を回した。
「頑張ったわね、クラッシュ」
「母さんこそ」
クラッシュもエミリさんの背中に腕を回そうとして、エミリさんの傷に顔を顰める。エミリさんに抱き着かれたままカバンからハイパーポーションを取り出して、丁寧に傷に掛けていった。
エミリさんは勇者の隣に腰を下ろして、はぁと溜め息を吐いた。
「あんな試練二度と受けたくないわ」
「俺の方は魔王はあの黒いでか物だったが。エミリはサラの姿だったのか。もしかしてサラは魔王を取り込んで前よりもパワーアップしてたりしてな」
「……それはそれで、素敵ね。でも……サラはまだ本当に生きてるのかしら」
「エミリ」
ポツリと零した不安の滲んだエミリさんの呟きに、勇者が咎めるような声音で牽制した。
ハッとしたエミリさんが、ごめんなさい、と苦笑する。
「そうよね。私がそんなことを言ったら、今までずっとしてきた私たちの行動がすべて意味なくなっちゃうものね」
「生きてます!」
俺は我慢できなくなって、思わず立ち上がってエミリさんにそう叫んだ。
「マック?」
「サラさんは、生きてるんです。そして、サラさんなりに皆を支えようとしてるんです。俺の試練だって……」
内緒よって言われたけど、黙っていられなかった。だって、本当に生きてるのかわからない状態で進むのと、明確に生きてるってわかって進むのとじゃ、心の重さが雲泥の差だから。
でも、その先を続けようとした俺の声は、言葉を紡ぐことが出来なくなった。
まるで沈黙の呪いを掛けられたみたいに、サラさんはさっき俺の試練に出てきて元気そうでしたっていう言葉を発することが出来なかった。
口だけがパクパクと動く。
「あれ、声が……出る?」
他のことを話すと、普通に声が出るけど、試練に出てきたサラさんのことを話そうとすると、途端に声が出なくなる。
「だから、…………ああ、もう! 言えない!」
じれったくて思わずそう叫ぶと、ヴィデロさんが背中を優しく撫でてくれたので、少しだけ落ち着いた。
「マック。もしかして、サラに会ったの?」
返事が出来ないのでエミリさんの問いに頷くと、エミリさんと勇者が顔を見合わせて肩を竦めた。
「もしかして、内緒って言われなかった? サラってね、内緒にして欲しい時は、魔法でそのことだけを話せないようにするのが得意だったの。そういう細かい魔法がほんと得意なのよ。きっとサラに魔法を掛けられちゃったのね。サラらしいわ」
くすくすと笑い始めたエミリさんは、口元を手で隠し、笑いながら一粒だけ涙を零した。
「マックの所に出てきたサラって、どんな感じだった? 内容を話さなくてもいいなら、多分声が出ると思うから、教えてくれない?」
零れた涙を軽く手で拭い、エミリさんがね、と首を傾げる。
勇者も静かに、聞き耳を立てているようだった。
さっきまで騒がしかった洞窟が、静まっている。皆、俺たちの会話に注目しているらしい。
「水色っぽい白っぽいストレートの髪の毛で、見た目滅茶苦茶美人でした。でも、笑うといきなり周りが明るくなるようなそんな感じでした。白いローブを着ていて、初期装備っぽい感じの服を着ていて、ドレスとか着たらすごく似合うのにって思いました」
「サラだわ」
「サラだな」
俺の説明に、2人が頷く。「笑顔で無茶振りするのよね」「たまに恐ろしいことを平気でやるからな」という二人の会話を聞いて、この二人にそこまで言わしめるサラさんの本当の恐ろしさは、その魔法の実力じゃなくて人となりなんじゃないか、なんて思う。でも、そんな行動も傍から見ていると可愛らしく見えるっていうのはすごくいいと思う。
「ところでマックの試練ってどんなんだったんだよ」
鎧を着替えた雄太が俺に質問してきた。
「調薬と錬金術をやらされたよ」
サラさんのことを出さなければ普通に声を出せるから、俺はさらっと答えた。
「何作ったんだ? 試練っていうからなんかすっげえの作らされたっぽいけど」
「結晶と蘇生薬だよ」
軽く答えた俺に、雄太が目を剥いた。
一拍遅れて「……はぁぁ?!」なんて素っ頓狂な声を出す。
え、俺なんかおかしいこと言った?
首を傾げていると、雄太が「蘇生薬って……おま、夢のアイテムを……!」と俺の肩をがしっと掴んだ。
「夢のアイテム? これ、魔王の所に乗り込んだ時に必要になるアイテムだから、プレイヤーが使う物じゃないはずだけど」
「そうなのか? もし店主さんの所で蘇生薬を売り出したら、真っ先に買いに走ろうと思ったのに! だって、死に戻りするんじゃなくてその場で復活だろ?! めちゃ強の魔物戦で、俄然有利になるじゃん!」
「あ……そっか。考えもしなかった」
「おいいいい、他のゲームは蘇生アイテムとか復活の魔法とか、ポピュラーにあるだろうが!」
雄太に言われて苦笑する。確かにゲームだったらそういうアイテムもあると思う。でも、ここはゲームじゃなくて異世界っていう本当の世界だから。
目でそう訴えると、雄太はハッとしたように口を噤んだ。
「わり。でも、もし量産できるようになったら売ってくれ。全財産投げうって買うわ」
「その前に鎧で金がなくなるだろ。って、量産できるような物でもないけど」
なんか必要になるんだって、と何気なく続けようとして、またも声が出なくなる。サラさんの魔法、ピンポイントに効いて本当に性能抜群。
必要になるかもっていうのは黙ってて欲しいってことかな。でもあんなこと言うなら、サラさんはセイジさんの試練の内容を知っているってこと、だよな。
でも、勇者は魔物型の魔王、エミリさんはサラさん型の魔王、ってことは、同じ願いを入り口で望んだセイジさんは……?
つい考えに耽ってしまっていると、そんな俺を見た雄太が「とにかく頼んだぜ」と俺の肩をバンバン叩いた。
「頼まれても困るんだけど」
「大いに困って悩んでそして腕を上げて蘇生薬を量産してくれ」
「無茶振り過ぎだろ。雄太はどんな試練だったんだよ」
雄太のボディにブローで返すと、雄太は「効かぬわ!」と仁王立ちで受ける姿勢を取った。俺の代わりにこの腹にヴィデロさんが一発入れてくれないかな、と思いながらガンガン攻撃を入れる。
「俺の試練は魔物100匹切り。最初はウノ周辺に出てくる魔物だったから楽勝だったんだけど、段々と強くなってって、エルフの里に行く道で出てくる魔物とか、大量発生時に出てきた魔大陸の魔物とか出てきて、最後ほんと辛かった。勿論全部消してきたけどな。最後の魔物のドロップ品が結晶だったんだけど、もしかして、これが限界突破アイテムか?」
「そうだよ。使うと身体的枷が外れるって。使ったらきっともっとレベルが上がるようになるんじゃないかな」
「おっしゃあ! 使うわ!」
雄太は喜び勇んで、インベントリから取り出した結晶をその場で使った。
結晶は雄太の手の上で粉々になったかと思うと、それが光に変わって、雄太の周りを包み込み、段々と雄太に吸収されていった。
使うとあんな風になるんだ。すごい。
俺たちの場合アイテムを選ぶと「使う 装備する」とかのコマンドも端の方に出てくるんだけど、ヴィデロさんたちはどうやって使うんだろう。
と思っていたら、勇者が早速結晶を握りつぶしていた。
洞窟内がドヨドヨとどよめく中、勇者の手によって粉々になった結晶が、雄太の時と同じように光になって勇者の身体に消えていった。度胸が凄い。あれ、壊れてなくなったらと思うとちょっと勇気がいるってのに。エミリさんも同じように結晶を粉々にしていた。え、待って、皆握力どうなってるんだ? 結晶って手で握ってあんな風に壊れるものだったっけ?
皆の握力に戦慄していると、ヴィデロさんが自分の結晶を見下ろしていた。
「ヴィデロさんは使わないの?」
「……マックに貰ったものだから、壊すのが惜しくて。クラッシュみたいに首に下げておこうか考えてる」
俺の問いに答えたヴィデロさんに、俺は撃沈した。
思わず抱き着いて、「好き!」と思う。でもヴィデロさんがちょっと笑っていたから、もしかしたら声に出てたかも。
「俺は、使って欲しい。多分試練の俺も、ヴィデロさんに使って欲しくて託したんだと思う。だから、使って」
もしかしたら、自分で作ったからレシピがあるかもしれないしね。そしたらまた作れるから、なんて、ずるいかな。……レシピにはなってなさそうだなあ。でも素材はわかったから今度挑戦してみよう。うん。
ヴィデロさんは、手のひらの結晶をしばらく眺めてから、口元を緩めて、手のひらでパキン、と結晶を砕いた。
だから、皆の握力どうなってるんだってば。
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