どうも、崖っぷち王女です~転生先が滅亡寸前の小国だった私は、幼馴染の騎士とクセモノな兄二人に囲まれながら【禁忌の術】で国を救います!

宮田花壇

文字の大きさ
14 / 41

第14話

しおりを挟む
 そうして袋詰めが終わった後は、ついに待ちに待ったお楽しみの時間。

「んぅ~! おいしい!」
「うまいっ! 適度な塩気とふっくらした白身……川魚とはまた全然違う!」

 二人で焚き火をしながら焼き上げた魚にかぶりつく。
 獲ったばかりの魚に、作ったばかりの塩を軽く振ったもの。
 たったそれだけなのに、香ばしい匂いが潮風と一緒に広がって、もう最高!

「いやぁ、本当にウマいな。山越えの疲れも吹っ飛ぶ」
「ほんとね」

 焼けた皮がぱりっと音を立て、旨みが口いっぱいに満ちていく。
 味もさることながら、塩も魚も求め続けて手に入れたことへの感動もある。
 日本じゃ焼き魚なんて珍しくなかったけど、この国にとってはひと際贅沢な一品。
 とにかく体に沁みた。

「改めてありがとね、ギル。私をここに連れてきてくれて」

 しばらく舌鼓を打った後、私はおもむろに切り出した。

「何を言うかと思えば。全部君のおかげじゃないか」
「それは違うわ。もともと私はずっと前からここに海があることを知っていたの。だから塩を作れることもわかってた。今日やった方法も工房で何度もシミュレーションしてた。なのに、実際に来たのは今日がやっと初めて。なぜかわかる?」
「それは……」
「たしかに錬金術はすごい。でも、一人じゃできることは限られる」

 私は武人じゃない。
 どんなに錬金術で武器を作っても、剣を振るう腕がなければ敵の前には立てない。
 だから、何度も地図を広げては泣く泣く諦めてきた。

「とても歯がゆい時間だったわ。けど、ギルが来てくれたから、こうして塩をみんなのもとへ届けられる。……だから、ありがとう」
「そう言われると照れるな。でも、礼を言うのは俺も同じだ。君が夢を見続けてくれていたから、俺もこの国のために戦える。フェルトの騎士になってよかった」

 波が静かに寄せては返し、焚き火の炎が揺れる。
 穏やかな時間が、そこにはあった。


 ***


 腹ごしらえを終えた私たちは、すぐに海を出発した。
 来た道をそのまま引き返し、再び死の山脈を抜けていく。
 麓へ着くころには、時刻はすっかり真夜中だった。

「帰りはほとんど魔物に遭わなかったな」
「特殊なアイテムを使ったからね」
「アイテム?」

 私は首から下げたペンダントを持ち上げ、月明かりにかざす。
 往路では着けていなかったものだ。

「そのペンダントがどうかしたのか?」
「これ、錬金術で魔除けの術式を施してあるの。実験中でまだ半信半疑だったけど、ちゃんと効いてくれるみたい」
「へぇ。てっきり、ただのオシャレかと思った」
「こんな山で誰に可愛く見せるのよ」
「たしかに」

 ギルが素直に頷く。
 てっきり「俺に?」とか言うかと思ったけど、そんなキャラじゃなかったわね。

「ところでそれ……最初から使ってれば、もっと楽に海まで辿り着けたんじゃ?」
「まあね。でも今回はどんな魔物がいるかを調べる目的もあったでしょ。最初から使ったら、肝心のデータが取れないわ」

 そう。だから本当は帰りも使いたくなかったけど、この荷物と疲労じゃあね。

 ついでに言えば、このペンダントには“効く相手”と“効かない相手”がはっきり分かれる。
 材料は魔力を帯びる特殊な植物を使った。実を食べられないように、魔物が嫌がる匂いを発する植物だ。
 その匂いを基に、【概念強化】を施した。

 とはいえ、必ずしもすべての魔物が匂いを嫌がるとは限らない。そして、それがどの魔物かは実際に山に入ってみないとわからない。
 運が良ければこれ一つで森を抜けられる可能性もあったけど、効かない種が繁殖している危険だってある。
 だから今日は、それも含めてテスト。

「そういうことか。それで、結果は?」
「今日遭遇した二十種のうち、効かなかったのは五種類ってとこね」
「なるほどな。つまり、死の山脈は依然として危険地帯のままってことか」
「ええ。だから塩を安定供給させようと思ったら、もっと安全で確実に海へ至るルートを整備しなきゃいけない。毎回私たちが取りに行くわけにもいかないしね」

 そんなことをしていたら他の仕事が何もできなくなってしまう。
 まあでも、この事実が確認できただけでも今回は大きな収穫ね。

 そんな会話をしている間に、私たちは城まで辿り着いた。

「あれ? なんか城門の辺りがやけに明るいな」
「どうやらお忍びで死の山脈に向かったのがバレちゃったみたいね。きっとグロウ兄様でしょう。ばっちり出くわしちゃったし」
「王女がこんな時間まで戻らないとなれば、そりゃ騒ぎにもなるか……なあ、これって止めなかった俺も怒られる?」
「でしょうね。でも大丈夫。この塩を見せれば、全部ひっくり返るわ」

 案の定、城壁の手前まで近づくと、兵士たちは血相を変えて駆け寄ってきた。

「フェルト王女! よくぞご無事で! 今捜索隊を編成していたところで――」
「心配かけてごめんなさい。でも、まずは何も言わずにこれを見てほしいの」
「?」

 荷を下ろして袋の口をほどく。

「こ、これはまさか……!」
「塩だ! これは塩だ!」
「嘘だろ! しかもこんなに大量の!」

 兵士たちの表情が一変する。
 自国で塩を手に入れられることがどれほどの意味を持つか、国の者なら誰でも理解している。
 誰もが息を飲み、目を見開いて袋の中身を凝視していた。

「こ、こんなものいったいどこで……」
「詳細は後で話すわ。それよりもみんな、こんな夜更けに悪いけどグロウ兄様とリヒテル兄様へ伝えてきて。『フェルトが塩を持ち帰ってきた』って」

 それだけで十分。
 たとえ深夜だろうと、兄たちはすぐにでも会議を開くでしょう。
 手段は違うけど、彼らもまた本気で国を救おうとしている人たち。一刻も早く事情を知りたがるに決まってる。

 さて、今夜はもう一仕事ね。

 城に戻った後。
 私は長旅の疲れを落とす間もなく、体を清め、汚れた衣服を着替える。砂と潮の匂いを洗い流し、香草を少しだけ焚いて髪を整えた。
 そうして簡単な食事を口にしたところで、すぐに二人の兄たちから呼び出しが届く。
 理由は言うまでもない。

 塩。

 空が白み始めているこんな時間に、王族三人が揃って会議を開く――それだけで、この発見がどれほどの意味を持つかがわかる。
 疲れよりも心の中で高鳴る鼓動のほうが勝っていた。
 兄たちもまた、この国をどうにかしようと懸命に動いている。だからこそ、今すぐにでも話をしたいのだ。

 私はギルとともに廊下を歩いた。
 城の中はまだ夜の名残をとどめ、静まり返っている。
 けれど、会議室へ続く回廊の先だけは灯がともっていた。

 扉の前で深呼吸を一つ。
 今夜は正念場だ。

 この先に待つ二人の兄。
 彼らをどうにかして同じ方向へ向かわせなければならない。
 まずは少し情報を整理しておこう。


 第一王子、グロウ・アストリア。二十六歳。
 王国最強の武人であり、軍の最高指揮官。
 濃い金髪を短く刈り、鋭い眼光はまるで獣のよう。肩幅は広く、鎧を纏えばその姿はまさに武の象徴だ。

 普段はほとんど笑わず、常に緊張感を纏っている。今この瞬間も、恐らくは私が“塩を持ち帰った”と聞いて苛立っているはずだ。
 昼間に出会ったとき、私の目的に気づけなかった自分への怒り。
 そして、何も話さずに動いた妹への不信。
 両方ある。

 彼の理想は、武力による救国。
 奪われた土地を取り戻し、民と誇りを取り戻すこと。
 誰よりも真っ直ぐだが、誰よりも危うい兄。


 続いて第二王子、リヒテル・アストリア。二十二歳。
 薄金の髪を肩まで伸ばし、切れ長の瞳は底の知れない輝きを秘めている。
 表情ひとつで場を和ませ、仕草ひとつで人を従える――そういう人だ。

 外交では他国の要人を虜にし、音楽や芸術にも通じている。
 実質的に国の内政を取り仕切り、政治の舵を握っているのは彼だといっても過言ではない。

 リヒテル兄様の信じるのは、政治による救国。
 隣国より強大な国の庇護を得て、生き残る道を模索している。
 生粋の現実主義者で、情よりも数字を信じて理屈で国を動かす。
 誰よりも冷静だが、誰よりも冷たい兄。


 武を担うグロウ兄様。
 政を司るリヒテル兄様。
 そして――どちらにも属さない私。

 王族でありながら、役職も権限もない。
 唯一誇れるのは錬金術の腕だけで、国政に関わる資格は持っていない。
 これまでは、個人的な開拓支援や便利グッズの研究で貢献してきたつもりだったけれど……結局、それもまた延命措置に過ぎない。

 リヒテル兄様は一定の評価をくれたものの、それも所詮は“趣味の範囲”としてだ。
 本当の意味で国を変えるには、政治と軍、どちらの協力も必要。
 そして今夜――ようやくその両方が、私の前に揃った。

 つまり、ここが“真のはじまり”。

 今までは何をしても影響がない、ちっぽけな妹だからこそ放置されてきた。
 けれど、塩を持ち帰った今は違う。
 国の命運を握る資源を手にした以上、お兄様たちも私を軽んじられない。
 だから、今夜の目的は一つ――。
 この塩をもって、二人の兄を味方に引き入れる。

 私は深呼吸をし、会議室の扉を開いた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

碧天のノアズアーク

世良シンア
ファンタジー
両親の顔を知らない双子の兄弟。 あらゆる害悪から双子を守る二人の従者。 かけがえのない仲間を失った若き女冒険者。 病に苦しむ母を救うために懸命に生きる少女。 幼い頃から血にまみれた世界で生きる幼い暗殺者。 両親に売られ生きる意味を失くした女盗賊。 一族を殺され激しい復讐心に囚われた隻眼の女剣士。 Sランク冒険者の一人として活躍する亜人国家の第二王子。 自分という存在を心底嫌悪する龍人の男。 俗世とは隔絶して生きる最強の一族族長の息子。 強い自責の念に蝕まれ自分を見失った青年。 性別も年齢も性格も違う十三人。決して交わることのなかった者たちが、ノア=オーガストの不思議な引力により一つの方舟へと乗り込んでいく。そして方舟はいくつもの荒波を越えて、飽くなき探究心を原動力に世界中を冒険する。この方舟の終着点は果たして…… ※『side〇〇』という風に、それぞれのキャラ視点を通して物語が進んでいきます。そのため主人公だけでなく様々なキャラの視点が入り混じります。視点がコロコロと変わりますがご容赦いただけると幸いです。 ※一話ごとの字数がまちまちとなっています。ご了承ください。 ※物語が進んでいく中で、投稿済みの話を修正する場合があります。ご了承ください。 ※初執筆の作品です。誤字脱字など至らぬ点が多々あると思いますが、温かい目で見守ってくださると大変ありがたいです。

『ゴミ溜め場の聖女』と蔑まれた浄化師の私、一族に使い潰されかけたので前世の知識で独立します

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
呪いを浄化する『浄化師』の一族に生まれたセレン。 しかし、微弱な魔力しか持たない彼女は『ゴミ溜め場の聖女』と蔑まれ、命を削る危険な呪具の浄化ばかりを押し付けられる日々を送っていた。 ある日、一族の次期当主である兄に、身代わりとして死の呪いがかかった遺物の浄化を強要される。 死を覚悟した瞬間、セレンは前世の記憶を思い出す。――自分が、歴史的な遺物を修復する『文化財修復師』だったことを。 「これは、呪いじゃない。……経年劣化による、素材の悲鳴だ」 化学知識と修復技術。前世のスキルを応用し、奇跡的に生還したセレンは、搾取されるだけの人生に別れを告げる。 これは、ガラクタ同然の呪具に秘められた真の価値を見出す少女が、自らの工房を立ち上げ、やがて国中の誰もが無視できない存在へと成り上がっていく物語。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

分析能力で旅をする ~転生した理由を探すためにレインは世界を回る

しき
ファンタジー
ある日、目を覚ましたレインは、別世界へ転生していた。 そこで出会った魔女:シェーラの元でこの世界のことを知る。 しかし、この世界へ転生した理由はレイン自身もシェーラもわからず、何故この世界に来てしまったのか、その理由を探す旅に出る。

どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――  乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】! ★★  乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ! ★★  この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。

月が出ない空の下で ~異世界移住準備施設・寮暮らし~

於田縫紀
ファンタジー
 交通事故で死んだ筈の私は、地球ではない星の一室にいた。ここは地球からみて異世界で、人口不足の為に他世界から移民を求めており、私も移民として転移させられたらしい。ただし移民だから言葉は通じないし生活習慣も違う。だから正式居住までの1年間、寮がある施設で勉強することになるようだ。  突然何もかも変わって、身体まで若返ってしまった私の、異世界居住の為の日々が始まった。  チートなし、戦闘なし、魔物無し、貴族や国王なし、恋愛たぶんなしというお話です。魔法だけはありますが、ファンタジーという意味では微妙な存在だったりします。基本的に異世界での日常生活+α程度のお話です。  なお、カクヨムでも同じタイトルで投稿しています。

ある平凡な女、転生する

眼鏡から鱗
ファンタジー
平々凡々な暮らしをしていた私。 しかし、会社帰りに事故ってお陀仏。 次に、気がついたらとっても良い部屋でした。 えっ、なんで? ※ゆる〜く、頭空っぽにして読んで下さい(笑) ※大変更新が遅いので申し訳ないですが、気長にお待ちください。 ★作品の中にある画像は、全てAI生成にて貼り付けたものとなります。イメージですので顔や服装については、皆様のご想像で脳内変換を宜しくお願いします。★

転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流

犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。 しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。 遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。 彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。 転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。 そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。 人は、娯楽で癒されます。 動物や従魔たちには、何もありません。 私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!

処理中です...