どうも、崖っぷち王女です~転生先が滅亡寸前の小国だった私は、幼馴染の騎士とクセモノな兄二人に囲まれながら【禁忌の術】で国を救います!

宮田花壇

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第13話

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 ――それから半日。

 険しい森の道を抜け、ようやく視界が開けた。
 死の山脈を抜ける道のりは想像以上に過酷だった。
 ブレード・タイガー以外にも、翼を持つ狼、岩肌に擬態したサソリ、氷を吐く蛇など、二十種近い魔物と遭遇した。
 幸い、すべてギルが斬り伏せてくれたおかげで怪我もせずに済んでいる。
 彼がいなければ、私は今ごろここに立ってはいないだろう。
 我が騎士ながら、つくづく素晴らしい剣士だわ。

 そして、その成果も十分すぎる。
 採取した素材の中には、これまでアストリア王国では記録にない種類も含まれていた。
 研究にも軍事利用にも、どちらにも応用が利く。
 これらもやがて国を救う礎になるかもしれない――そんな予感を抱きながら、私は視線を前に戻した。

「……っ!」

 次の瞬間、思わず息を呑んだ。

「やったわ! 本当に海があったわ、ギル!」
「うおおっ、潮の香りに波の音……そしてどこまでも続く水! これが海か!」

 目の前に広がるのは、果てしない青。
 陽光を反射してきらめく水面が視界いっぱいに広がっている。
 風が髪を撫で、潮の匂いが鼻をくすぐった。
 もとはインドア派だった私だけに、前世では訪れても大した感動もなかった(それどころかどうせ陽キャグループの遊び場でしょ、と毛嫌いしていた節すらある)。
 けど、今は違う。

 海……つまり塩!

 これがあれば、もう他国に金をむしり取られ続ける必要はなくなる!
 塩に払っていた莫大な輸入費を他の事業に回せる!
 そうすれば、今まで貧困に喘いでいた人々を救うことができる!

 稲の改良も進めているけれど、塩はもっと即効性がある。
 この発見は確実にアストリア王国を変える。

 ありがとうございます、師匠! 師匠の地図は紛れもなく本物でした!(歩きながら「これでもし海がなかったらあのクマを燃やす」とか言っちゃってごめんなさい!)

「よーし、それじゃあ早速塩を作りましょう! お兄様たちに成果を見せつけるためにも、できるだけ持てるだけ持って帰るわよ!」
「ああ! 俺もまだ体力には余裕がある! じゃんじゃん作ってくれ!」
「ふふ、あれだけ戦ってまだそんなに元気なの? 呆れるわね」
「それが俺の取り柄だからな。君の騎士を甘く見てもらっちゃ困る」
「そうね。助かるわ」

 持参したリュックには、道中で集めた魔物素材がぎっしり詰まっている。
 もっとも、私も魔力で身体能力を強化できるので同じくらいの量を担いでいるから人のことは言えない。
 でも、ギルはそれに加えて魔物との戦闘も担当していた。
 全くもって馬鹿げた体力だ。

「ところでフェルト、塩を作るって言ってもどうやって? この場ですぐできるのか?」
「任せて。それこそ私を誰だと思っているの?」
「フッ。ああ、そうだったな」

 私は胸を張り、目の前に広がる海を見つめた。

 そうとも、私は錬金術士。禁忌を行う者。
 今の私にできないことなんてない。

「何か手伝えることはあるか? できることがあるなら何でも言ってくれ」
「ありがとう。でも今のところは大丈夫。それよりも荷物が増えるから、今のうちに休んで体力を温存しといて」
「そっか。じゃあ、せっかくだし魚でも獲りながら待ってようかな」
「いいわね。そういえば朝から何も食べてないものね」

 この国で一日三食というのは、もはや贅沢の象徴だ。
 民が飢えている中で、王族である自分だけそれはできない。

「ああ、俺も戦闘続きで腹ペコだ。というわけで、ちょっと行ってくる。そっちは頼む」

 そう言うなり、ギルは服を脱ぎ捨てて下着姿で海へ飛び込んだ。
 ……そういえば、たしかローム帝国は国のど真ん中を大きな川が流れていたわね。
 しばし潜った後、ギルはさっそく大物を仕留め、「とったどー」と言わんばかりに水面から顔を出して手を振ってきた。
 さすが。魔物を仕留めるのと同じく、狩りの腕も鍛えられてるってわけね。まさか素手で魚を捕まえてくるとは思わなかったけど。
 それにしてもおいしそう。あんな大きくて食べ応えある魚、見ているだけでお腹が鳴ってきちゃった。
 海の魚なんて、口にするのはいつ以来かしら。

「でも、女の子の前でいきなりパンツ一丁ってどうなのかしら」

 もう少し恥ずかしがるとか躊躇いがあってもいいような気がするけど……まあでも、男の子ってそういうものか。
 それはともかく、本当に気持ちよさそうね。山道を歩いて汗もかいたし、私も泳いでさっぱりしたい。
 ……う~、でもダメよ。まずは塩を作らないと。あんまり時間をかけたら、城に帰る時間がどんどん遅くなっちゃう。さすがに死の山脈でのキャンプなんて絶対嫌だもの。

 というわけで、私は作業を進め。
 まずは地形の整備。錬金術で砂を操作し、四角い巨大なプールを作る。
 砂を固めて壁を作り、その内側に“強固”の概念強化を施した。
 これで海水を貯めても崩れない。

「おお、すごい。このプールに水を貯めるのか。こんな大きなプール、普通に作ろうとしたらそれだけで何週間もかかりそうなのに」

 獲物を片手に戻ってきたギルが驚きの声を上げる。

「ええ。でも、まだ驚くのは早いわよ」

 プールが完成したら、次は海水を引き込む番だ。
 それを蒸発させて、最後に塩だけを取り出すという流れ。
 とはいえ、海から水を運ぶのはだいぶ骨が折れる作業に見える。
 でも、そこももちろん錬金術の出番。

 私は森の途中で採取しておいた植物の蔓を取り出し、指先で軽く魔力を流し込んだ。
 すると蔓がねじれ、細くて均一な管の形に変化していく。
 即席ホースの完成だ。
 そしてホースを海へ差し込むと、海辺の水面とプールの水位を比べ、少し高低差をつける。
 サイフォンの原理――高校の理科で習った基礎の応用。
 高い場所から低い場所へ、水は自然に流れていく。
 そこに魔力を乗せて流速を加速させる。
 ――すると、プールに勢いよく海水が満ちていった。

「おおっ、なんだこれ! みるみる水が流れ込んでくる!」
「ふふ。理論は単純だけど、こうして目に見えると気持ちいいわね」

 ギルの歓声を聞きながら、私も頷く。

「うん、これだけ満たせば充分ね」

 二人だけで運べる量には限度がある。
 やがてプールの水面が半分を越えたところで、私はホースに指を当てて魔力の流れをすっと断った。

 次はいよいよ、蒸発させて塩を取り出す工程。
 本来なら天日に任せて数日がかりだけど、錬金術ならこれも一気に行える。
 私はプールサイドに等間隔で魔石を並べ、陣のようなものを作って魔力を注入した。
 空気が震え、微細な振動が水面を走る。徐々に白い湯気が立ち昇り始めた。
 量が量だけに魔力を大幅に消耗するが気にしない。
 往路でギルの実力はわかった。帰る分の足さえ残っていれば、魔物の襲撃からはギルが守ってくれる。

 それからしばらく――。

 気づけば、プールの底には白い結晶がまばゆく輝いていた。
 ホースには密かにろ過の仕掛けも施していたため不純物の少ない良質な塩だ。
 う~ん、これをギルが獲ってきた魚にかけたらおいしいだろうなぁ……あ、想像したら顔がニヤけてきちゃった。

「おお、塩だ! それもこんなにたくさん! しかもあっという間!」
「それじゃあ袋詰めを手伝ってくれるかしら。この袋も錬金術で作ったやつだから、びっくりするほど伸びるわよ」

 パッと見はしぼんだゴム風船。でも、口を広げて空気を含ませると三十リットルは入る柔らかい容れ物へと早変わりする。
 内側には“遮断”と“耐破”の概念を薄く重ねてあるから、見た目以上に破れにくいし漏れにくい。

「ほんとだ、ビヨンビヨンだ!」

 袋を伸ばしながらギルがハシャぐ。いかにも子どもっぽい。
 かと思えば、グロウ兄様と対峙したときのように堂々と振る舞ったり、ギルは見ていて飽きない。

「なあ、塩ってこんなに簡単に作れるものなのか?」
「錬金術の力は偉大よ。手作業なら一週間はかかると思う。水を運ぶのも蒸発させるのも、本来は時間と人手が要るから」
「便利なもんだなあ……。よし、フェルトは座っててくれ。詰めるのは俺がやる」
「いいの?」
「塩づくりで疲れてるだろ。任せてくれ」
「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうわ」

 偉大とは言ったけれど、錬金術は決して万能じゃない。
 すでに魔力もだいぶ消費したし、袋詰めにまで錬金術を使うのは無理そう。正直少し休まないと身が持たない。
 私はプールサイドに腰かけながら、ギルがせっせと袋に塩を詰めていく作業を見守った。

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