どうも、崖っぷち王女です~転生先が滅亡寸前の小国だった私は、幼馴染の騎士とクセモノな兄二人に囲まれながら【禁忌の術】で国を救います!

宮田花壇

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第12話

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 踏み入れた者を悉く死へ誘う魔境――死の山脈。
 その中でも超危険生物であるブレード・タイガーを鮮やかに葬ったギルは、傍らに転がる死骸を見下ろしながら私に尋ねてきた。

「それはそうと、ここには素材集めに来たんだよな。どうする? 何か袋に詰めるのか?」
「うん。あっ……でもちょっと待って。その前に瘴気の除去をしてからよ」

 私はバッグの中から青く光る水晶玉を取り出し、死骸の前に立つ。

「それは?」
「錬金術で作った、瘴気を吸収する“魔力水晶”よ」

 そう説明しながら、水晶玉をブレード・タイガーの体へかざす。
 途端に、獣の表面を覆っていた黒い霧――瘴気がズズッと揺らぎ、青白い光を放つ水晶の中へ吸い込まれていった。
 瘴気は触れれば人体に害をもたらす。
 以前、魔物の死骸を肥料にしたときも、まずはこうして瘴気を抜いてから工房に運び込んだ。

「はい、これで下処理終わり」
「瘴気が消えた……つくづくすごいな」
「そう? 瘴気の除去なんて錬金術じゃ基礎の基礎よ」
「マジか」

 ギルが呆気に取られた顔をする。
 毎度のことながら、ギルの反応は新鮮で飽きない。

「さ、あとはこれに詰めて。【遮断】の概念強化をした袋よ。今やったのはあくまでザッと洗い流した程度だからね。瘴気を完全に排除できたわけじゃないわ。これなら残った瘴気が漏れ出る心配もない。あっ、あと手袋も」
「おお、そんな便利なものまで」
「全部は持ち帰れないから、必要な部位だけで十分よ」
「了解」

 ギルは手際よくブレード・タイガーの前脚に刃を入れ、根元から爪を切り離した。
 刃物のように鋭利で、一本でも三キロはある重さ。私たちのような魔力で身体能力を強化できる人間じゃなければ、なかなかにしんどい重さだ。
 戦闘で切り落とした牙も拾い、手際よく袋に詰めていく。

「よし、じゃあ先を急ぎましょう。まだ目的地まで半分も進んでないし」
「あ、目的地で思い出したけど、そういえば二つ目の目的ってなんなんだ? そろそろ教えてくれてもいいんじゃ」
「ああ、そういえば」

 たしかにもったいぶったまま言ってなかったわね。
 でもま、あんまり焦らすのもかわいそうだし、そろそろいっか。

「そうね。第二目標はズバリ――“塩”よ!」
「塩!?」

 ギルが本気で目を丸くした。

「すごいじゃないか! 塩なんて穀物以上にみんなが熱望してるもんだぞ。まさに国が救える!」
「でしょう?」

 死の山脈と並ぶアストリア王国の慢性的な悩み――それが塩。

 うちの国にはもともと海がなく、岩塩を採掘できる場所もない。
 正確にはかつてはあったのだが、隣国の侵略により採掘場を含む土地が奪われてしまった。
 ……いや、と言うより逆ね。
 塩が取れるからこそ、あの土地は奪われたと言ってもいい。
 それほどまでに、塩は価値ある資源なのだ。

 よって、今のアストリアは他国から塩を輸入するしかない。
 ただ、これがまたべらぼうに高い。
 貴重なのだから当然と言えば当然だが、こちらの状況を把握して足元を見られている節もある。
 うちへ輸出する分だけ、あえて相場以上の莫大な関税をかけているのだ。
 とはいえ塩がなければ人は生きられず、冬を越す保存食作りにも不可欠。
 結果、アストリア王国は塩を人質にされ、国庫を搾取され続けている。

「ん? ちょっと待った。でも、それと死の山脈にどう関係が? 岩塩の採掘場所があるなんて話も聞かないし、もしかして塩を出す魔物でもこの山にいるのか?」
「まさか。そんな便利な魔物がいたら今頃この国は滅びてるわ。それこそ金山みたいなものだもの」
「じゃあなんなんだ? 山で採れる鉱石を錬金術で塩に変えるとか?」
「いいえ、それも違うわ。いくら錬金術でもそこまで万能じゃない」

 もっとも、錬金術の出発点は土くれから金を生む研究。
 かつてはそういう発想もあっただろうし、本気で突き詰めれば理論的に不可能じゃないかもしれない。
 ただし、今はその当てのない研究に時間を割いている場合じゃない。
 この国のひっ迫した状況を鑑みれば、もっと手っ取り早く、そして王道を行くべき。
 それというのは……。

「正解は、海よ。今まで誰も越えたことのないこの山。でも、その先には海が広がっているはずなの」
「“はず”って……根拠は?」
「これを見て」

 私はポケットから折りたたまれた紙を取り出すと、そのままギルに手渡した。

「これは……地図か?」
「ええ。師匠から受け継いだ、この大陸全土を描いた精巧な世界地図よ」
「師匠って、あの熊の?」
「そう、あの熊の」

 もちろん実際は違うだろうけど、そういうことにした。
 師匠には恨むならあんなファンシーな入れ物に魂を定着させた自分を恨んでほしい。

「……すごいな。たしかにここまで細かく描かれた地図は初めて見る。俺がいたローム帝国の地理も、俺の知る範囲と完全に一致している」

 ギルが目を細め、広げた紙面を食い入るように追う。

「でしょ? さすがに確証があるとまでは言えないけど、これなら充分に信じるに値すると思うの。師匠も大昔にこの先の海で泳いだことがあるって言ってたし」
「あの熊のカラダで?」
「あの熊のカラダで」

 もちろん実際には違うだろうけど(省略)。

 ともかく、師匠の地図には大陸中のありとあらゆる場所が詳細に記されていた。
 その情報によれば、死の山脈を抜けた先に広大な海がある。

「海かぁ……」

 ギルの瞳がぱぁっと明るくなる。

「これが事実なら本当にすごいことだよ、フェルト。隣国だってうちから奪った岩塩を採掘して塩を作っているけど、あれってけっこうな費用がかかるだろ? それに引き換えこっちは海だ。簡単なうえに作り放題になれば、今度は逆にこっちが売る立場にだってなれる。もう塩を買うために苦しむ必要がない。それだけじゃなく、他にもたくさんの恩恵を得られる」
「ええ。話が早くて助かるわ」

 騎士に必要なのは剣の腕前だけじゃない。
 教養と先を読む力、その両方をギルはちゃんと持っている。

「海があれば魚が獲れるし、干物も作れる。塩が安定すれば保存食の幅も広がる。それだけじゃなく、いずれ港を築ければ各国との貿易だって可能よ。陸路は隣国に関税で締め上げられるけど、海路なら自由度も高い。あとは錬金術で丈夫な船さえ造れれば――」
「この国は、やがて海で息をするようになる」
「そういうこと」

 そしてそうなれば、この国を世界有数の海輸国家にすることだって夢じゃない。

「だから大事なのは“本当に海があるか”の確認と、“どうやって安全な道を整備するか”。 本格的に海を活用するとなったら、漁師や商人といった人たちの力が必要になる。でも、彼らに戦闘力はない。護衛をつけるにしても、グロウ兄様やギルのような強者ならともかく一般兵の実力ではさすがに不十分だもの」
「斜面は急、足場は最悪、視界も悪い、そこへ魔物か……たしかに、常備の護衛隊を置くにしてもコストが跳ね上がるな」

 もっとも、それらはまだ未来の話。
 まずは自分たちが海にたどり着き、塩を手に入れることが目標だ。
 私はこの成果をもって兄二人を説得し、味方につけるつもりでいる。
 依然としてここは危険地帯である魔物の領域。
 気を引き締めて進む。

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