どうも、崖っぷち王女です~転生先が滅亡寸前の小国だった私は、幼馴染の騎士とクセモノな兄二人に囲まれながら【禁忌の術】で国を救います!

宮田花壇

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第14話

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 そうして袋詰めが終わった後は、ついに待ちに待ったお楽しみの時間。

「んぅ~! おいしい!」
「うまいっ! 適度な塩気とふっくらした白身……川魚とはまた全然違う!」

 二人で焚き火をしながら焼き上げた魚にかぶりつく。
 獲ったばかりの魚に、作ったばかりの塩を軽く振ったもの。
 たったそれだけなのに、香ばしい匂いが潮風と一緒に広がって、もう最高!

「いやぁ、本当にウマいな。山越えの疲れも吹っ飛ぶ」
「ほんとね」

 焼けた皮がぱりっと音を立て、旨みが口いっぱいに満ちていく。
 味もさることながら、塩も魚も求め続けて手に入れたことへの感動もある。
 日本じゃ焼き魚なんて珍しくなかったけど、この国にとってはひと際贅沢な一品。
 とにかく体に沁みた。

「改めてありがとね、ギル。私をここに連れてきてくれて」

 しばらく舌鼓を打った後、私はおもむろに切り出した。

「何を言うかと思えば。全部君のおかげじゃないか」
「それは違うわ。もともと私はずっと前からここに海があることを知っていたの。だから塩を作れることもわかってた。今日やった方法も工房で何度もシミュレーションしてた。なのに、実際に来たのは今日がやっと初めて。なぜかわかる?」
「それは……」
「たしかに錬金術はすごい。でも、一人じゃできることは限られる」

 私は武人じゃない。
 どんなに錬金術で武器を作っても、剣を振るう腕がなければ敵の前には立てない。
 だから、何度も地図を広げては泣く泣く諦めてきた。

「とても歯がゆい時間だったわ。けど、ギルが来てくれたから、こうして塩をみんなのもとへ届けられる。……だから、ありがとう」
「そう言われると照れるな。でも、礼を言うのは俺も同じだ。君が夢を見続けてくれていたから、俺もこの国のために戦える。フェルトの騎士になってよかった」

 波が静かに寄せては返し、焚き火の炎が揺れる。
 穏やかな時間が、そこにはあった。


 ***


 腹ごしらえを終えた私たちは、すぐに海を出発した。
 来た道をそのまま引き返し、再び死の山脈を抜けていく。
 麓へ着くころには、時刻はすっかり真夜中だった。

「帰りはほとんど魔物に遭わなかったな」
「特殊なアイテムを使ったからね」
「アイテム?」

 私は首から下げたペンダントを持ち上げ、月明かりにかざす。
 往路では着けていなかったものだ。

「そのペンダントがどうかしたのか?」
「これ、錬金術で魔除けの術式を施してあるの。実験中でまだ半信半疑だったけど、ちゃんと効いてくれるみたい」
「へぇ。てっきり、ただのオシャレかと思った」
「こんな山で誰に可愛く見せるのよ」
「たしかに」

 ギルが素直に頷く。
 てっきり「俺に?」とか言うかと思ったけど、そんなキャラじゃなかったわね。

「ところでそれ……最初から使ってれば、もっと楽に海まで辿り着けたんじゃ?」
「まあね。でも今回はどんな魔物がいるかを調べる目的もあったでしょ。最初から使ったら、肝心のデータが取れないわ」

 そう。だから本当は帰りも使いたくなかったけど、この荷物と疲労じゃあね。

 ついでに言えば、このペンダントには“効く相手”と“効かない相手”がはっきり分かれる。
 材料は魔力を帯びる特殊な植物を使った。実を食べられないように、魔物が嫌がる匂いを発する植物だ。
 その匂いを基に、【概念強化】を施した。

 とはいえ、必ずしもすべての魔物が匂いを嫌がるとは限らない。そして、それがどの魔物かは実際に山に入ってみないとわからない。
 運が良ければこれ一つで森を抜けられる可能性もあったけど、効かない種が繁殖している危険だってある。
 だから今日は、それも含めてテスト。

「そういうことか。それで、結果は?」
「今日遭遇した二十種のうち、効かなかったのは五種類ってとこね」
「なるほどな。つまり、死の山脈は依然として危険地帯のままってことか」
「ええ。だから塩を安定供給させようと思ったら、もっと安全で確実に海へ至るルートを整備しなきゃいけない。毎回私たちが取りに行くわけにもいかないしね」

 そんなことをしていたら他の仕事が何もできなくなってしまう。
 まあでも、この事実が確認できただけでも今回は大きな収穫ね。

 そんな会話をしている間に、私たちは城まで辿り着いた。

「あれ? なんか城門の辺りがやけに明るいな」
「どうやらお忍びで死の山脈に向かったのがバレちゃったみたいね。きっとグロウ兄様でしょう。ばっちり出くわしちゃったし」
「王女がこんな時間まで戻らないとなれば、そりゃ騒ぎにもなるか……なあ、これって止めなかった俺も怒られる?」
「でしょうね。でも大丈夫。この塩を見せれば、全部ひっくり返るわ」

 案の定、城壁の手前まで近づくと、兵士たちは血相を変えて駆け寄ってきた。

「フェルト王女! よくぞご無事で! 今捜索隊を編成していたところで――」
「心配かけてごめんなさい。でも、まずは何も言わずにこれを見てほしいの」
「?」

 荷を下ろして袋の口をほどく。

「こ、これはまさか……!」
「塩だ! これは塩だ!」
「嘘だろ! しかもこんなに大量の!」

 兵士たちの表情が一変する。
 自国で塩を手に入れられることがどれほどの意味を持つか、国の者なら誰でも理解している。
 誰もが息を飲み、目を見開いて袋の中身を凝視していた。

「こ、こんなものいったいどこで……」
「詳細は後で話すわ。それよりもみんな、こんな夜更けに悪いけどグロウ兄様とリヒテル兄様へ伝えてきて。『フェルトが塩を持ち帰ってきた』って」

 それだけで十分。
 たとえ深夜だろうと、兄たちはすぐにでも会議を開くでしょう。
 手段は違うけど、彼らもまた本気で国を救おうとしている人たち。一刻も早く事情を知りたがるに決まってる。

 さて、今夜はもう一仕事ね。

 城に戻った後。
 私は長旅の疲れを落とす間もなく、体を清め、汚れた衣服を着替える。砂と潮の匂いを洗い流し、香草を少しだけ焚いて髪を整えた。
 そうして簡単な食事を口にしたところで、すぐに二人の兄たちから呼び出しが届く。
 理由は言うまでもない。

 塩。

 空が白み始めているこんな時間に、王族三人が揃って会議を開く――それだけで、この発見がどれほどの意味を持つかがわかる。
 疲れよりも心の中で高鳴る鼓動のほうが勝っていた。
 兄たちもまた、この国をどうにかしようと懸命に動いている。だからこそ、今すぐにでも話をしたいのだ。

 私はギルとともに廊下を歩いた。
 城の中はまだ夜の名残をとどめ、静まり返っている。
 けれど、会議室へ続く回廊の先だけは灯がともっていた。

 扉の前で深呼吸を一つ。
 今夜は正念場だ。

 この先に待つ二人の兄。
 彼らをどうにかして同じ方向へ向かわせなければならない。
 まずは少し情報を整理しておこう。


 第一王子、グロウ・アストリア。二十六歳。
 王国最強の武人であり、軍の最高指揮官。
 濃い金髪を短く刈り、鋭い眼光はまるで獣のよう。肩幅は広く、鎧を纏えばその姿はまさに武の象徴だ。

 普段はほとんど笑わず、常に緊張感を纏っている。今この瞬間も、恐らくは私が“塩を持ち帰った”と聞いて苛立っているはずだ。
 昼間に出会ったとき、私の目的に気づけなかった自分への怒り。
 そして、何も話さずに動いた妹への不信。
 両方ある。

 彼の理想は、武力による救国。
 奪われた土地を取り戻し、民と誇りを取り戻すこと。
 誰よりも真っ直ぐだが、誰よりも危うい兄。


 続いて第二王子、リヒテル・アストリア。二十二歳。
 薄金の髪を肩まで伸ばし、切れ長の瞳は底の知れない輝きを秘めている。
 表情ひとつで場を和ませ、仕草ひとつで人を従える――そういう人だ。

 外交では他国の要人を虜にし、音楽や芸術にも通じている。
 実質的に国の内政を取り仕切り、政治の舵を握っているのは彼だといっても過言ではない。

 リヒテル兄様の信じるのは、政治による救国。
 隣国より強大な国の庇護を得て、生き残る道を模索している。
 生粋の現実主義者で、情よりも数字を信じて理屈で国を動かす。
 誰よりも冷静だが、誰よりも冷たい兄。


 武を担うグロウ兄様。
 政を司るリヒテル兄様。
 そして――どちらにも属さない私。

 王族でありながら、役職も権限もない。
 唯一誇れるのは錬金術の腕だけで、国政に関わる資格は持っていない。
 これまでは、個人的な開拓支援や便利グッズの研究で貢献してきたつもりだったけれど……結局、それもまた延命措置に過ぎない。

 リヒテル兄様は一定の評価をくれたものの、それも所詮は“趣味の範囲”としてだ。
 本当の意味で国を変えるには、政治と軍、どちらの協力も必要。
 そして今夜――ようやくその両方が、私の前に揃った。

 つまり、ここが“真のはじまり”。

 今までは何をしても影響がない、ちっぽけな妹だからこそ放置されてきた。
 けれど、塩を持ち帰った今は違う。
 国の命運を握る資源を手にした以上、お兄様たちも私を軽んじられない。
 だから、今夜の目的は一つ――。
 この塩をもって、二人の兄を味方に引き入れる。

 私は深呼吸をし、会議室の扉を開いた。

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