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第18話
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――兄たちの協力を得られることになった。
それだけで胸の荷が半分は下りた気がする。
一人でできることは限られている。錬金術で発明を進めながら軍務を見て、さらに内政や外交まで……はとても無理だと思っていた。
各分野を安心して任せられる人材が必要で、その点、兄たちは私よりずっと優れている。
グロウ兄様は軍をまとめ、リヒテル兄様は政と外交を引き受ける。
私は考え、作り、現場に必要なものを供給する。
ようやくそういう体制が整った。
……ただ一つ、そこには予想外の問題もあった。しかもとっても大きな。
「大丈夫かい、フェルト? だいぶ疲れているみたいだけど」
「う~、アテが外れたわ。私の見立てじゃ、お兄様たちと和解した後は悠々自適の発明ライフのはずだったのに。まさか、あんなにもたくさんの書類仕事が降ってくるなんて……」
「仕方ないよ。まだ正式に即位したわけじゃないけど、二人の王子がそろって王位継承権を手放した今、この国の事実上のトップはフェルトなんだから」
「うぅ……」
そう、ギルの言う通りなのだ。
先日の会議の場でグロウ兄様とリヒテル兄様は私の下につくと宣言した。それと同時に王位継承権を放棄した結果、私が自動的に継承権の最上位に繰り上がってしまったのだ。
実務の大半はリヒテル兄様が肩代わりしてくれるとしても、どうしても代行できない部分は残る。
企業の最終決定権が社長にあるように、どうしても私がやらないと進められない手続きなどがあるのだ。
そのせいで、今日は自室に戻ってようやく一息つけたところだった。ギルの淹れてくれたハーブティーが身に染みる。
「なんで私が……王様とか全然ガラじゃないのに」
私は生来、壇上ではなく裏方でこそ力を発揮するタイプなのに。
上に立つとしても、せいぜいかろうじて副委員長止まり。
「あはは。でも、この間の会議室での君はすこぶる格好よかったよ。惚れ直した」
「……ありがと」
ギルはときどき恥ずかしげもなく真っすぐなことを言う。
まあ、それが彼の良いところだけれど。
「ところで、王様と言えば国王陛下は? 帰ってきてから一度もお姿を拝見していないんだけど」
「……ああ。あなたが留学したのは、その前だものね」
「え?」
「お父様は病に伏して療養中よ。意識をなくしていて、もうずっと寝たきり。だから今までは暫定的に、長男のグロウ兄様が国王代理だったの」
倒れてしまったとはいえ、存命である以上は勝手に次の王を決めるわけにもいかない。
代理はあくまで代理――それが国の不安定さの一因でもあった。
で、今度は私にそのお鉢が回って来てしまったというわけ。
「なるほど、そういうことだったのか。……回復の見込みはないのか?」
「残念なことにね」
「君の錬金術でも?」
「【概念強化】を施せば薬効を底上げすることはできるわ。でも、原因そのものが分からないことにはね」
お父様の病の詳細は不明。
そして何度も言うが、錬金術は万能ではない。どれだけ強い風邪薬でも癌は治せないように、そもそも正しい治療薬を用いなければ役に立たない。
「……となると、君が本当に国王になる可能性もあるってことだね。あ、いや、陛下がどうこうって意味じゃなくて」
「ふ、わかってるわ」
ギルの想像したとおり、もしもの可能性はある。
そのときに民が混乱しないよう、手順と準備は整えておくべきだ。
感情は後回し。優先すべきは国の安定。
「言っておくけど、あなただって他人事じゃないわよ。私はまだ自分が王様だなんて納得してないけど、そうなったらなったで、あなたにはもっと強くなってもらわないと。王の近衛騎士ってことは、この国の筆頭騎士になるってことだから」
「それなんだけど……もしよければ、誰か稽古の相手を紹介してくれないか。一人でできる鍛錬には限界がある。できれば腕利きで頼む」
「腕利き、ねえ。あなたと対等に渡り合える相手なんて……そうだ、今度グロウ兄様に頼んでみるわ。あの人ならきっといい人を紹介してくれると思う」
「それはありがたい。ぜひよろしく頼むよ」
こういうことを素直に相談してみようと思えるくらい、私と兄たちの距離は縮まった。
今までなら決して考えられなかったことだ。
……って、あれ?
そういえば、グロウ兄様も“いい相手がほしい”って言っていたような……ま、いいか。
「あ、それともう一つ」
「ん?」
「この前の、あのオニギリって誰が作ったんだ? コメの件は俺とじいちゃんだけにしか知らせてないはずだし、君に準備する時間はなかったよな」
「ええ、そうね」
会議は山から戻ってすぐに始まった。服を着替えて、水と軽食を口に含んで、それで終わり。
お米を炊いておにぎり握る余裕なんてなかった。
となれば、作ったのは別の誰か。
「実はね、他にも秘密の協力者がいるの。ギルにも近いうちに会わせるわ」
「へえ。どんな人だ?」
「今はまだ内緒。事情があって滅多に表に出られないの。でも、この国を救うには必要な人よ。たぶん、あなたとも気が合うと思う」
そうだ、“彼”もまた救国のためには不可欠な人物。
だからギルにも早めに会わせたい。
***
それからさらに数日後、私たちは再び海を目指すことになった。
グロウ兄様は会議の場で翌日にでも、と息巻いていたが、さすがに諸々の準備のためすぐにとはいかなかった。
私の発明で危険度が下がったとはいえ、死の山脈は依然として危険地帯。
そんな場所に王族二人を「どうぞいってらっしゃい」とはいかない……というのがリヒテル兄様の言い分。
まあ、それには私も納得だったので素直に従った。
装備を整えたり、遠征計画を立てたり。
そんなこんなで今日が待ちに待った出発の日。
「フェルト、よろしく頼む」
「ええ、こちらこそ」
私とグロウ兄様は互いに見合って握手を交わす。
「よし。それじゃあお前ら、出発だ」
先頭でグロウ兄様が号令をかける。
その後ろには騎士たちが整然と並び、背にはテントや工具を積んだ荷袋。
手には鎌を握り、歩きながら草木を刈りとって進んでいた。
先日の遠征では私とギルだけで強引に突破したが、こうして人数がいるなら整備しながら進む方が効率的。帰り道も楽になるし。
なお、例の魔力検知器とペンダントも全員に配ってある。
「グロウ兄様。今日はてっきり海を見て戻るだけだと思ったんだけど……どうやら違うようね?」
「ああ、せっかく行くなら海辺に拠点を作ろうと思ってな」
グロウ兄様は地図を広げながら言った。
「普通の方法じゃ塩づくりに人手も日数もかかる。だから今後は、騎士団だけじゃなく護衛を兼ねた傭兵も雇って運び出すつもりだ」
「それはいい考えね」
この国にはいわゆる職業軍人は五十人もいない。
ほとんどが王族直属の近衛騎士で、残りの兵士は平時は農民として畑を耕している。
そんな貴重な戦力を塩づくりに回すより、拠点を設けて労働者を守る形の方が効率的だ。
前回の塩の生成は、時間も魔力も限られていたせいで不純物を完全に除去する余裕がなかった。今後は人手を使い、計画的に進める必要がある。
その意味で、兄の判断は的確だった。
「そこでだ。フェルト、お前に頼みがある」
「お兄様が?」
あら珍しい。あのグロウ兄様が私に頼み事なんて。
というか、初めてじゃないかしら。
それだけで胸の荷が半分は下りた気がする。
一人でできることは限られている。錬金術で発明を進めながら軍務を見て、さらに内政や外交まで……はとても無理だと思っていた。
各分野を安心して任せられる人材が必要で、その点、兄たちは私よりずっと優れている。
グロウ兄様は軍をまとめ、リヒテル兄様は政と外交を引き受ける。
私は考え、作り、現場に必要なものを供給する。
ようやくそういう体制が整った。
……ただ一つ、そこには予想外の問題もあった。しかもとっても大きな。
「大丈夫かい、フェルト? だいぶ疲れているみたいだけど」
「う~、アテが外れたわ。私の見立てじゃ、お兄様たちと和解した後は悠々自適の発明ライフのはずだったのに。まさか、あんなにもたくさんの書類仕事が降ってくるなんて……」
「仕方ないよ。まだ正式に即位したわけじゃないけど、二人の王子がそろって王位継承権を手放した今、この国の事実上のトップはフェルトなんだから」
「うぅ……」
そう、ギルの言う通りなのだ。
先日の会議の場でグロウ兄様とリヒテル兄様は私の下につくと宣言した。それと同時に王位継承権を放棄した結果、私が自動的に継承権の最上位に繰り上がってしまったのだ。
実務の大半はリヒテル兄様が肩代わりしてくれるとしても、どうしても代行できない部分は残る。
企業の最終決定権が社長にあるように、どうしても私がやらないと進められない手続きなどがあるのだ。
そのせいで、今日は自室に戻ってようやく一息つけたところだった。ギルの淹れてくれたハーブティーが身に染みる。
「なんで私が……王様とか全然ガラじゃないのに」
私は生来、壇上ではなく裏方でこそ力を発揮するタイプなのに。
上に立つとしても、せいぜいかろうじて副委員長止まり。
「あはは。でも、この間の会議室での君はすこぶる格好よかったよ。惚れ直した」
「……ありがと」
ギルはときどき恥ずかしげもなく真っすぐなことを言う。
まあ、それが彼の良いところだけれど。
「ところで、王様と言えば国王陛下は? 帰ってきてから一度もお姿を拝見していないんだけど」
「……ああ。あなたが留学したのは、その前だものね」
「え?」
「お父様は病に伏して療養中よ。意識をなくしていて、もうずっと寝たきり。だから今までは暫定的に、長男のグロウ兄様が国王代理だったの」
倒れてしまったとはいえ、存命である以上は勝手に次の王を決めるわけにもいかない。
代理はあくまで代理――それが国の不安定さの一因でもあった。
で、今度は私にそのお鉢が回って来てしまったというわけ。
「なるほど、そういうことだったのか。……回復の見込みはないのか?」
「残念なことにね」
「君の錬金術でも?」
「【概念強化】を施せば薬効を底上げすることはできるわ。でも、原因そのものが分からないことにはね」
お父様の病の詳細は不明。
そして何度も言うが、錬金術は万能ではない。どれだけ強い風邪薬でも癌は治せないように、そもそも正しい治療薬を用いなければ役に立たない。
「……となると、君が本当に国王になる可能性もあるってことだね。あ、いや、陛下がどうこうって意味じゃなくて」
「ふ、わかってるわ」
ギルの想像したとおり、もしもの可能性はある。
そのときに民が混乱しないよう、手順と準備は整えておくべきだ。
感情は後回し。優先すべきは国の安定。
「言っておくけど、あなただって他人事じゃないわよ。私はまだ自分が王様だなんて納得してないけど、そうなったらなったで、あなたにはもっと強くなってもらわないと。王の近衛騎士ってことは、この国の筆頭騎士になるってことだから」
「それなんだけど……もしよければ、誰か稽古の相手を紹介してくれないか。一人でできる鍛錬には限界がある。できれば腕利きで頼む」
「腕利き、ねえ。あなたと対等に渡り合える相手なんて……そうだ、今度グロウ兄様に頼んでみるわ。あの人ならきっといい人を紹介してくれると思う」
「それはありがたい。ぜひよろしく頼むよ」
こういうことを素直に相談してみようと思えるくらい、私と兄たちの距離は縮まった。
今までなら決して考えられなかったことだ。
……って、あれ?
そういえば、グロウ兄様も“いい相手がほしい”って言っていたような……ま、いいか。
「あ、それともう一つ」
「ん?」
「この前の、あのオニギリって誰が作ったんだ? コメの件は俺とじいちゃんだけにしか知らせてないはずだし、君に準備する時間はなかったよな」
「ええ、そうね」
会議は山から戻ってすぐに始まった。服を着替えて、水と軽食を口に含んで、それで終わり。
お米を炊いておにぎり握る余裕なんてなかった。
となれば、作ったのは別の誰か。
「実はね、他にも秘密の協力者がいるの。ギルにも近いうちに会わせるわ」
「へえ。どんな人だ?」
「今はまだ内緒。事情があって滅多に表に出られないの。でも、この国を救うには必要な人よ。たぶん、あなたとも気が合うと思う」
そうだ、“彼”もまた救国のためには不可欠な人物。
だからギルにも早めに会わせたい。
***
それからさらに数日後、私たちは再び海を目指すことになった。
グロウ兄様は会議の場で翌日にでも、と息巻いていたが、さすがに諸々の準備のためすぐにとはいかなかった。
私の発明で危険度が下がったとはいえ、死の山脈は依然として危険地帯。
そんな場所に王族二人を「どうぞいってらっしゃい」とはいかない……というのがリヒテル兄様の言い分。
まあ、それには私も納得だったので素直に従った。
装備を整えたり、遠征計画を立てたり。
そんなこんなで今日が待ちに待った出発の日。
「フェルト、よろしく頼む」
「ええ、こちらこそ」
私とグロウ兄様は互いに見合って握手を交わす。
「よし。それじゃあお前ら、出発だ」
先頭でグロウ兄様が号令をかける。
その後ろには騎士たちが整然と並び、背にはテントや工具を積んだ荷袋。
手には鎌を握り、歩きながら草木を刈りとって進んでいた。
先日の遠征では私とギルだけで強引に突破したが、こうして人数がいるなら整備しながら進む方が効率的。帰り道も楽になるし。
なお、例の魔力検知器とペンダントも全員に配ってある。
「グロウ兄様。今日はてっきり海を見て戻るだけだと思ったんだけど……どうやら違うようね?」
「ああ、せっかく行くなら海辺に拠点を作ろうと思ってな」
グロウ兄様は地図を広げながら言った。
「普通の方法じゃ塩づくりに人手も日数もかかる。だから今後は、騎士団だけじゃなく護衛を兼ねた傭兵も雇って運び出すつもりだ」
「それはいい考えね」
この国にはいわゆる職業軍人は五十人もいない。
ほとんどが王族直属の近衛騎士で、残りの兵士は平時は農民として畑を耕している。
そんな貴重な戦力を塩づくりに回すより、拠点を設けて労働者を守る形の方が効率的だ。
前回の塩の生成は、時間も魔力も限られていたせいで不純物を完全に除去する余裕がなかった。今後は人手を使い、計画的に進める必要がある。
その意味で、兄の判断は的確だった。
「そこでだ。フェルト、お前に頼みがある」
「お兄様が?」
あら珍しい。あのグロウ兄様が私に頼み事なんて。
というか、初めてじゃないかしら。
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