どうも、崖っぷち王女です~転生先が滅亡寸前の小国だった私は、幼馴染の騎士とクセモノな兄二人に囲まれながら【禁忌の術】で国を救います!

宮田花壇

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第17話

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 給仕が運んできたのは、なんと“おにぎり”。
 元日本人である私からすればさして珍しいものでもないけど、二人の兄は大きく目を見開く。

「なんだこれは……白い、麦か?」
「いや違う。これはきっとコメだ」
「コメ?」
「東方の穀物さ。しかし、こんなものうちの国にあるはずが……」

 さすが博識なリヒテル兄様。
 きちんとお米のことを知ってくれていたみたい。
 説明の手間が省けて助かるわ。

「……商人から買ったのか?」

 この国では穀物がほとんど育たない。主食は芋ばかりで、最近ようやくカボチャが加わった程度。
 だからリヒテル兄様がそう推測するのも無理はない。

「違います、お兄様。そして、これこそが錬金術の力です。このお米はきちんと私が育てたもの――それも、魔物の死体から作った特別な肥料を使ってね」
「魔物の!?」
「死体から!?」

 グロウ兄様とリヒテル兄様、二人はそろって信じられないとばかりに声を上げた。

「ええ。おかげでアストリアの痩せた土地でも、こんなにふっくらした稲が育ちました。さらにその稲は病気にも寒さにも強く、成長期間を短く改良してあります。収穫までの期間はおおよそ三ヶ月ほど。信じられないなら、後で畑に案内して差し上げますわ」
「わずか三ヶ月だと……」
「そんなことが……」

 言葉の端々に冷や汗の混じる驚きがある。
 それでも兄たちは興味を抑えきれない様子でおにぎりに手を伸ばした。

「うまいな……ああ、こんなうまい穀物がうちの国で食べられるとは思わなかった」
「錬金術とは、ここまで可能なものなのか」

 この国では手に入らないはずのお米。
 その改良は味にまで及んでいる。
 兄たちは感動し、言葉をなくす。

 よし、今が畳みかける絶好のチャンスよ。
 生活を支える食糧の次は、国を守る強さについて示す番だわ。

「ちなみに、錬金術の力はこれだけではありませんよ。ギル、あなたの剣をグロウ兄様に貸してあげて」
「え? いいけど……変なことはしないよな?」

 ギルは少しためらいながらも、言われた通りに腰の剣を抜き渡す。
 グロウ兄様は鞘から剣を引き抜くと、刀身を一目見るなり顔色を変えた。

「なんだこの剣は……! ローム帝国の宝剣に匹敵するほどの業物……だが、魔剣とも違う! こいつはいったい……!」
「それも錬金術で鍛えたものです。伝説の金属であるオリハルコンを使ってね」
「オリハルコンだと!?」

 武芸に達者ということは、当然ながら武器にも精通する。
 となれば素材となる金属などにも。

「それと錬金術を応用すれば、瘴気の抜き取りも可能です。だからグロウ兄様の作ろうとしてる魔剣騎士団。もし試作品があるなら、その剣から瘴気を抜くことだってできるわ」
「なに!?それは本当か!?」
「事実です。なんなら防具と合わせて、その剣と同じくもっと強い武器も用意してみせますわ」
「…………」

 強さと引き換えに魔剣の力に手を染めようとしていたグロウ兄様にとって、この言葉の意味は重い。
 手塩に掛けた部下を犠牲にするしかなかったはずが、リスクなしで、しかも魔剣より強い武器を手に入れられるかもしれないのだ。

「お二人にもう一度宣言します」

 私は背筋を正しながら言った。

「グロウ兄様の選ぶ武力による道も、リヒテル兄様の選ぶ隷属による道も私は選ばない。塩があって、稲があって、そして剣もある。これだけあれば、この国は今よりずっと豊かになれるし、他国や魔物におびやかされることだってない! 私が目指すのは、錬金術による救国の道よ!」

 力強く言い切った私に、グロウ兄様もリヒテル兄様も押し黙る。
 きっと今、二人は必死で己の脳をフル回転させていることでしょう。武力と政治、それぞれの視点から考え、私の打ち立てた夢が実現可能かどうか。

 あとはもう祈るしかない。
 二人が、いったいどういう結論を導き出すのか――。

「……プッ」
「……ククッ」

 え?
 私が顔を上げると、二人の兄は同時に吹き出していた。

「ははははは! こいつぁ傑作だ! 俺の騎士団が命を捨ててでも為そうとしたことが妹の錬金術、しかもその一端にすら劣るとはな!」

 グロウ兄様が腹を抱える。

「あはははは! ほんとだよ! 僕たちが必死にやっていたことなんて全部無駄だったんだ!」

 リヒテル兄様も目尻を押さえながら笑う。

「フェルトの言う通りだよ。僕らのやり方じゃ、できるのはせいぜい延命止まり。根本的にこの国を救うことは叶わない」
「ああ、俺もわかってたさ。心のどこかではな。……だが、諦められなかった」
「僕も同じだ。けれど、まさか妹にこうして覆されるとはね。悔しいという感情を通り越して、なんだか呆れてくるよ」

 二人の笑い声は明るかったけれど、どこか泣きそうでもあった。

「ねえ二人とも。聞いて」

 私が兄たちに秘密を打ち明けたのは、二人が全力で国を救おうとしていたから。
 形は違っていても、その想いは一緒。
 だから……。

「錬金術は所詮、便利な何かを生み出すだけの技術よ。でも、強い武器を作るだけでは国は守れない。剣を振るうには、グロウ兄様のように人を率いる力が必要。そして一方で、ただ作物を生み出すだけじゃ豊かさは維持できない。リヒテル兄様のように民を導き、諸国と渡り合う知恵も要るの」

 二人の兄は私の言葉にじっと耳を傾けている。

「私は二人が協力してくれるなら裏方で構わないわ。必要なら王位継承権だって放棄する。……でも、これだけは言える。誰が上に立つことになっても、この国を救うにはきっと私たち三人の力を合わせないとダメ。だからお願い。今こそ互いに手を取り合いましょう」

 言い終えて、私は二人に向かって深く頭を下げた。

「……一つだけ聞いておきたい。フェルト、君はどうやって錬金術なんてものを学んだんだい?」
「それは……昔、お父様の書庫から魔導書をちょっと拝借して」
「つまり盗んだってことかい?」
「う……」

 言葉に詰まった私を見て、リヒテル兄様は小さく笑った。

「だってさ、兄さん。この子は人様から奪った本で身につけた力で、僕らをうまいこと利用しようって腹らしいよ」
「実にけしからんな。けしからん上に、図々しいやつだ」

 グロウ兄様が腕を組み、わざとらしくため息をつく。

「……だが、そこまでの覚悟があったからこそ、こうして俺たちは救われた」
「そうだね。おかげでなんだか憑き物が落ちたような気分だよ」
「え、それって……」

 二人は互いに顔を見合わせ、そろって肩をすくめた。
 ただその表情は言葉とは裏腹に、今まで見たことのないくらい爽やかだった。

「ったく、しょうがねえな。ひと回りも年下の妹にここまで言われて、これ以上くだらないプライドで駄々をこねるわけにもいかねぇ。わかった、軍のことは俺に任せろ。これからは王子じゃなく、将軍として軍を指揮する」
「なら、僕は宰相ってところかな。それにしても錬金術か。その発想はなかったな。まったく大した妹だね」
「お、お兄様たち……? さっきから何を仰っているの?」
「あん? わかんねえのか。俺たちは王位継承権を放棄して、お前の下につくって言ってんだよ」
「そうそう。それが一番この国のためになる。平たく言えば、僕らはフェルトを認めたんだ」

 笑顔でそう言った兄たちに、私はしばし呆気に取られてしまった。

 しかし、あえて「本当にいいの?」とは聞き返さなかった。
 この期に及んでそんなことを口にするのは、私を信じてくれた兄たちへの侮辱になるからだ。
 ふと壁際に視線を送ると、ギルも笑っていた。

「ありがとう、二人とも。それと……よろしく」
「おう」
「ああ、任せてくれ」

 こうして、私たち三人はついに一つになった。

 ここからアストリア王国は生まれ変わる。
 なぜだかわからないけど、そう確信できた。


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