9 / 61
山暮らし
しおりを挟む
劉備は、涿郡の山に逃げた。
関羽、張飛、簡雍の他、十人ほどの元義勇兵たちが従っている。
「殿、これからどうやって生きていくんだ? 山賊にでもなるつもりか?」と簡雍が言った。彼は劉備のことを「殿」と呼ぶようになっている。
「山賊にはならない。基本的には自給自足をする。狩りと採集で暮らす」
「それだと酒が飲めねえ」
「簡雍、張世平殿と蘇双殿に会いにいって、いくらか援助してくれるよう頼んでくれ。出世払いで」
「殿が出世するのは、いつになることやら」
簡雍は張世平の屋敷へ行った。広大な馬牧場の中に建っている。
「劉備殿は、安熹県で派手にやらかしたようですな」
張世平は笑った。
「はあ。馬鹿な上司を持つと、苦労します」
「世間では評判になっていますよ。悪徳督郵を懲らしめた。大衆は痛快事だと思っています。劉備殿は男を上げた」
簡雍は驚いた。劉備に臣従するのは、悪くないのかもしれない。将来、本当に出世するかも。
「我々は当面、山に籠もって暮らすつもりです」
「それがいいでしょう」
「狩りをして生き延びるつもりなんですが、いくらかお金もほしい。貸してもらえませんか」
「私は劉備殿を助けたい。提供しましょう。返さなくていい」
張世平は大金を取り出した。
「ありがとうございます」
簡雍は額を床にこすりつけた。
蘇双も「返却など不要です」と言って、大金を簡雍に渡した。
「本当に返さなくていいのですか」
「劉備殿は、この世になくてはならない人だと思っています。彼を援助するのは、私の喜びです」
劉備には人気がある、と簡雍は感じた。
彼は大金を山に持ち帰った。
「こんなにもらえたのか」
劉備が驚くほどの大金だった。
「酒が浴びるほど飲めるじゃねえか」
「兄者、この金は大切に使わなければなりませんぞ。酒に費やしてはいけません」
「まあ、そうだよな」
「この金は私が管理します。しっかりと節約します」
関羽が金銭を取り、革袋に入れた。
酒が飲みたい劉備、張飛、簡雍は、うらめしそうに革袋を見た。
彼らは山で狩りをし、鹿、猪、雉などを獲って食べた。
栗や山菜、果物、芋の採集もした。
関羽はときどき山を下り、安酒を買ってきた。
焚き火をして、肉を焼き、みんなで酒を飲んで騒いだ。
「いまは山暮らしをしているが、いずれまた世に出る。きっと機会が来る。おれは世のため人のために働く」
劉備はそう言って、ちびちびと大切そうに酒を飲んだ。
「山暮らしも悪くねえ。おれは劉備兄貴となら、一生こんな生活をしてもいい。でも、いつかは大暴れしたいな」
張飛は豪快に杯を干した。
「張飛、酒を水みたいに飲むな。おかわりはやらんぞ」
「関羽兄貴、もう一杯だけ!」
ふだん胸を張っている張飛が情けない声を出すと、みんなが笑った。
簡雍は、こいつらと苦難をともにする一生も悪くない、と思った。劉備に賭けてみよう。
山暮らしは、一年ほどで終わった。
恩赦が出たのである。
後漢末期、社会は混乱し、犯罪をしないと生きていけない人が多い。
恩赦がないと、秩序の維持がむずかしかった。
劉備たちは、堂々と涿県へ帰ることができた。
関羽、張飛、簡雍の他、十人ほどの元義勇兵たちが従っている。
「殿、これからどうやって生きていくんだ? 山賊にでもなるつもりか?」と簡雍が言った。彼は劉備のことを「殿」と呼ぶようになっている。
「山賊にはならない。基本的には自給自足をする。狩りと採集で暮らす」
「それだと酒が飲めねえ」
「簡雍、張世平殿と蘇双殿に会いにいって、いくらか援助してくれるよう頼んでくれ。出世払いで」
「殿が出世するのは、いつになることやら」
簡雍は張世平の屋敷へ行った。広大な馬牧場の中に建っている。
「劉備殿は、安熹県で派手にやらかしたようですな」
張世平は笑った。
「はあ。馬鹿な上司を持つと、苦労します」
「世間では評判になっていますよ。悪徳督郵を懲らしめた。大衆は痛快事だと思っています。劉備殿は男を上げた」
簡雍は驚いた。劉備に臣従するのは、悪くないのかもしれない。将来、本当に出世するかも。
「我々は当面、山に籠もって暮らすつもりです」
「それがいいでしょう」
「狩りをして生き延びるつもりなんですが、いくらかお金もほしい。貸してもらえませんか」
「私は劉備殿を助けたい。提供しましょう。返さなくていい」
張世平は大金を取り出した。
「ありがとうございます」
簡雍は額を床にこすりつけた。
蘇双も「返却など不要です」と言って、大金を簡雍に渡した。
「本当に返さなくていいのですか」
「劉備殿は、この世になくてはならない人だと思っています。彼を援助するのは、私の喜びです」
劉備には人気がある、と簡雍は感じた。
彼は大金を山に持ち帰った。
「こんなにもらえたのか」
劉備が驚くほどの大金だった。
「酒が浴びるほど飲めるじゃねえか」
「兄者、この金は大切に使わなければなりませんぞ。酒に費やしてはいけません」
「まあ、そうだよな」
「この金は私が管理します。しっかりと節約します」
関羽が金銭を取り、革袋に入れた。
酒が飲みたい劉備、張飛、簡雍は、うらめしそうに革袋を見た。
彼らは山で狩りをし、鹿、猪、雉などを獲って食べた。
栗や山菜、果物、芋の採集もした。
関羽はときどき山を下り、安酒を買ってきた。
焚き火をして、肉を焼き、みんなで酒を飲んで騒いだ。
「いまは山暮らしをしているが、いずれまた世に出る。きっと機会が来る。おれは世のため人のために働く」
劉備はそう言って、ちびちびと大切そうに酒を飲んだ。
「山暮らしも悪くねえ。おれは劉備兄貴となら、一生こんな生活をしてもいい。でも、いつかは大暴れしたいな」
張飛は豪快に杯を干した。
「張飛、酒を水みたいに飲むな。おかわりはやらんぞ」
「関羽兄貴、もう一杯だけ!」
ふだん胸を張っている張飛が情けない声を出すと、みんなが笑った。
簡雍は、こいつらと苦難をともにする一生も悪くない、と思った。劉備に賭けてみよう。
山暮らしは、一年ほどで終わった。
恩赦が出たのである。
後漢末期、社会は混乱し、犯罪をしないと生きていけない人が多い。
恩赦がないと、秩序の維持がむずかしかった。
劉備たちは、堂々と涿県へ帰ることができた。
21
あなたにおすすめの小説
【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記
糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。
それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。
かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。
ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。
※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。
大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
電子の帝国
Flight_kj
歴史・時代
少しだけ電子技術が早く技術が進歩した帝国はどのように戦うか
明治期の工業化が少し早く進展したおかげで、日本の電子技術や精密機械工業は順調に進歩した。世界規模の戦争に巻き込まれた日本は、そんな技術をもとにしてどんな戦いを繰り広げるのか? わずかに早くレーダーやコンピューターなどの電子機器が登場することにより、戦場の様相は大きく変わってゆく。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。
小日本帝国
ypaaaaaaa
歴史・時代
日露戦争で判定勝ちを得た日本は韓国などを併合することなく独立させ経済的な植民地とした。これは直接的な併合を主張した大日本主義の対局であるから小日本主義と呼称された。
大日本帝国ならぬ小日本帝国はこうして経済を盤石としてさらなる高みを目指していく…
戦線拡大が甚だしいですが、何卒!
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる