うまく笑えない君へと捧ぐ

西友

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第一章

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 恋愛を諦めようとも、好きな人は勝手に出来てしまう。そして懲りずにまた、相手は男だ。

「多比良。お菓子あげるからこっちゃこい」

「んー」

 家から自転車で二十分ほどの高校に進学して半年。男四人で二つの机を囲い、お昼ご飯を食べ終えた昼休み。その内の一人に呼ばれ、彰太は男友達の膝の上に座った。もらったポッキーを咥える彰太を、男友達が後ろから抱きつく。十月半ばの教室は少し肌寒く、体温が心地良い季節だ。

「やっぱ抱き心地いいわ」

 近くに座る女子がむっと口を尖らせる。

「ちょっと男子、やめてよ。多比良くんが汚れちゃうじゃない」

「うるせー。女にこんなことしたらセクハラだろうが。彼女いなくて人肌恋しいんだよ。オレたちは」

「そうだ、そうだ。多比良だって、お菓子くれたらいいよっていつも言ってんだかんな!」

 一のBの教室ではもはや見慣れた光景で、言い合う当人たち以外はほのぼのとそれを見守っている。

(おれがゲイだって知ったら、絶対こんなことしないんだろうなぁ)

 ポリポリ。ポリポリ。
 ポッキーをひたすらかじりながら彰太はぼんやり思う。小柄で、女顔。年のわりに高い声の彰太は、だれかれ構わず抱き付かれるという、いつからかそんなポジションになってしまった。でも、心配ない。要は、好きな人にさえ触れられなければバレることはない。そしてその好きな人は、こんな馬鹿なことはしない。する必要がない。

 答えは単純明快。何故なら、モテるから。

「あ、白沢くん! 葉山くん!」

 教室のドアから姿を現したのは、学年どころか学校中で有名となっている二人組。白沢と葉山だった。教室内に、黄色い声が響く。

 二人ともにイケメンで、スタイルもいい。まるでモデルのような、と言いたいところだが、二人とも、実際にモデルの仕事をしている。

 一軍の中の一軍である。もはや雲の上の人過ぎて、妬む気持ちも薄れるというものだ。一部の男子を除いて、ではあるが。

「おはよう。ていっても、もう昼だけどな」

 葉山が人懐っこい笑みを浮かべ、女子に近付く。少し長めの黒髪を後ろに一括りにしている。

「ねえねえ。二人一緒の撮影は初だったんでしょ? どうだった?」

 二人を囲む女子たちが、頬を染めながら口々に質問を投げかける。白沢一翔しろさわかずとは、そうだなあ、とかたちのいい唇を緩めた。教室の窓からもれる日差しに照らされ、色素の薄い髪がキラキラと光る。

「相手が葉山だったから、いつもよりは緊張しなかったかな」

 きゃああああ。
 女子が嬉しそうに叫ぶ。イケメン二人が仲良くしているところを見るのは、何より目の保養になる。

「いつもながらサービス精神旺盛だな」

 彰太を抱える男友達が呟く。「ああやって、雑誌の売り上げ伸ばしてんだぜ」と周りが続く。

 まるで別世界にいるみたいだと、彰太はいつも思う。入学初日に一目惚れしてしまってから、はや半年。いつも女子に囲まれている白沢と言葉を交わしたことは片手で数えるほどだ。それも会話ではなく、おはよう、などの挨拶だけ。

「気温低い中での外の撮影だったから、冷えたな」

 二人の席は、窓際にある。移動しながら葉山がぼやくと、白沢は「そうだね」と小さく笑った。何をしても絵になる二人に、自然と視線が集まる。彰太もその中の一人だ。気をつけてはいるが、気付けば見てしまっていることが多々ある。はっとし、慌てて視線を逸らす。

(……あぶない、あぶない)

 男の自分は、うかつに好きな人を見ることすら出来ない。黄色い声を上げ、白沢を見詰める女子たち。こっそりと写真を撮っている子もいる。「やっぱり格好いいね」「ねー」と、楽しそうに言い合う声が聴こえてくる。素直に気持ちを吐き出せること。それだけでも、羨ましいと思ってしまう。

 ──いいなあ。 

「お、なに? 人間カイロ? オレにも貸して~」

 はたと気付けば、葉山の顔が間近にあった。まるで友達に話し掛ける口調だが、白沢同様、これまで話したことはほとんどない。

 ──このコミュ力おばけめが。
 
 その場にいる四人の男は同時に思った。

「うるせー一軍! 多比良はそんなに安くねーんだよ! なあ?」「そうだぜ。多比良を抱きたきゃ、お菓子を持ってこい」などと騒ぐ友人たち。

 彰太は心の中で、どう考えても女に不自由していない相手に何言ってんだろ、と突っ込んでいた。

「あ。俺、持ってるよ」

 響いた甘い声に、思考が停止した。白沢はカバンから個包装された手のひらサイズのものを一つ取り出した。

「それ、撮影のときの差し入れじゃん。食ってなかったんだ」

「だって、クッキーだろ? 太るとまずいから」

「真面目か。そんなちっこいの一枚で太んねーって。高いやつだから、すっげー旨かったぞ」

「そう? なら、良かった。これでいいかな」

「ん、ナイス白沢。んじゃ、こっち来て」

 葉山が近くの椅子に座り「マジ寒かったんだよ~」と自分の膝を叩いた。白沢が「駄目だよ」と葉山の肩にぽんと手を置く。

「これは、俺の分だから」

 なに、なに? 
 教室内の、主に女子たちがざわざわする。だが彰太の胸中は、そんなどころではない。

「いや、あの。冗談だから。間に受けなくていいよ」

 二人が彰太を見た。彰太は白沢を正面から見てたまるかと葉山を見た。

「何が冗談? お菓子なくても抱いていいの?」

 男相手にキメ顔をする葉山。これが白沢なら卒倒ものだが、相手が葉山なので、むしろ引いた。女子は喜んだ。

「……男抱いてどうすんの?」

「暖をとりたい」

「女の子ですれば?」

「そうしたいけど。その子が目の敵にされちゃうといけないからねえ」

 葉山が肩を竦める。すごい自信だが、あながち間違ってはいないのだろう。モデルも人気商売なので、二人には彼女が──少なくとも表立ってはいなかった。

「にしても、改めて見ると可愛い顔してんなあ」

 にやにやと顔を近付けてくる葉山。男友達が「こんにゃろう」と席を立つ。止めたのは白沢だった。

「やめなよ、葉山。もうすぐチャイム鳴るよ? 急いでお昼食べないと」

「んあ? あ、ほんとだ」

 スマホを確認し、葉山が自分の席に戻っていく。白沢は「ごめんね」と、彰太に向き直った。

「お詫びに、これあげる」

 手渡されたのは、個包装されたクッキー。驚き過ぎて断ることも忘れた彰太は、黙ってそれを受け取った。

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