うまく笑えない君へと捧ぐ

西友

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第一章

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 どんどん気温が低くなる、秋の曇り空。雨がいつふりだしてもおかしくない暗さは、彰太の今の心境に似ていた。

(……みんながいるところで、白沢に昨日どうしたのって聞かれたら何て答えよう)

「多比良、おはよー」

「おはよ」

 下駄箱で上履きに履き替えていると、男友達に後ろからのしっと乗り掛かられた。彰太が「重い」とぼやいていると、校庭から複数の黄色い声が耳に届いてきた。もしやと思ってちらりと目を向けると、やっぱり白沢がいた。

「おはよう」

「お、はよう」

 いつもと変わらない様子の白沢。挨拶を交わすと、そのまま女子に囲まれ教室へと行ってしまった。ほっとした部分も大きかったが、少しだけがっかりしている自分もいた。

(……男に恋愛対象として見られているなんて、普通は考えもしないか)

 例えば女だったとしても、相手にされなかったとは思う。けれど、万が一の可能性もないのは、やっぱり哀しかった。

 ──昨日のこと。白沢にとっては、どうでもいいことだったんだなあ。

 馬鹿みたいに悩み、泣いた自分が、ひどく滑稽に思えた。


 昼休み。
 いつものメンバーで昼食を食べていると、金欠でパン一つしか食べていなかった男友達が、ぼんやりしていた彰太の弁当から卵焼きをつまみ「もーらい」と食べてしまった。

 彰太は男友達を無言で叩いた。わりと手加減なしで。卵焼きは彰太の好物だった。痛い痛いと叫ぶ男友達。自業自得だと笑う二人の男友達。すると後ろから、右肩を指で軽くつつかれた。振り向くと、卵焼きが目の前にあった。反射的に口を開けた彰太の口の中に、卵焼きが入ってきた。「美味しい?」と、白沢が微笑む。白沢にあーんをされたのだと自覚するのに、しばらくかかった。

 遅れて、女子たちの黄色い声が響いた。

「お前。女子のツボ、心得てんなあ」

 後ろで机に肘をつきながら、葉山がにやつく。

「そんなんじゃないよ。たまたま、お弁当に卵焼き入れてたから。あ、俺の卵焼きは甘くないんだけど、平気だった?」

 ごくん。
 彰太は呑み込んでから「……美味しかったです」と、呆然としながら軽く頭を下げた。

「良かった」

 ここぞとばかりに女子が「ねえねえ、白沢くん。もしかしてそのお弁当、自分で作ってるの?」と、寄ってきた。

「うん? そうだよ」

 葉山が「こいつ、一人暮らししてっから」と、白沢に親指を向けた。

「そうなんだぁ。何か、高層マンションに住んでそう!」

「間違ってはねーな。結構、綺麗なマンションに住んでるんだぜ?」

 女子は「葉山くんは行ったことあるの?」と、ますますテンションを上げていく。

「一度だけな。こいつ、家に人呼ぶの嫌いみたいでさ。撮影の帰りにゲリラ豪雨があったんだけど、たまたまこいつんちの近くでさ。そんときだけだな。家に上げてくれたの」

「もういいだろ、その話しは」

 盛り上がる会話に、その他の男子たちは舌打ちする。

「あいつ、どこまでイケメンなら気がすむんだ」

「だな。料理も出来て、さらに高校生のうちからマンションで一人暮らしだとぉ?」

 一方の彰太は、正直それどころではなかった。お弁当箱を無言でハンカチに包み「……何か、飲み物買ってくる」と言い、ふらふらと席を立った。


 一階の渡り廊下にある自動販売機の前。彰太はぼーっと突っ立っていた。

 ──二回、あーんされた。

 昨日もされたのだが、ハグの印象が強すぎて忘れていた。でも、先ほど鮮明に思い出してしまった。しかも、さっき白沢は、お箸であーんをしていなかったか。

(……間接キス? いやいやいや)

 両手で頬を挟む。顔は赤くなっていなかっただろうか。大丈夫だったろうか。変に思われたりは──。

「多比良」

 不意打ちで耳に届いた綺麗なボイスに、彰太は飛び上がりそうになった。白沢は駆け寄りながら「ごめん。やっぱり口に合わなかったんじゃない?」と、申し訳なさそうにしている。彰太は慌てて否定した。

「そ、そんなことない。ちゃんと美味しかった!」

 ぶっちゃけると、味など何も覚えていなかったりするのだが、そんな彰太の心中など知る由もなく、白沢がほっと胸を撫で下ろした。

「それなら、良かったけど」

「そ、それを心配して、わざわざ追いかけてきたの? なら、ごめん。おれのタイミングが悪かったね」

「それもあるけど──」と、白沢は一度口をつぐみ、少ししてから、口火を切った。
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