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1章 ようこそ第7騎士団へ
42 虎穴に入らずんば
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今日儂は、久しぶりに門に立つ。
夜7時。
元々、貴族街に面している西門は人通りが少ないがこの時間はさらに人が居ない。とは言えこの感じ、懐かしい。
「おぅ。まだまだいけるんじゃないか?」
「お前もそう思うか? ははははは」
引退した儂らは料理番をしていたのだが、今は新人教育の仕事を任されている。新団長のおかげで、以前より身体が楽になったし給料も良くなった。何より夜遅くと朝早くの料理の仕込みがなくなったので、随分時間にも余裕が出来て子や孫と一緒にいられるようになった。
ありがたい事だ。
「何じゃ? お前腹が出たんじゃないか? 甲革の鎧がパンパンじゃぞ?」
「そう言うお前こそ、槍を持っとるがちゃんと振れるのか?」
『ほっ』と槍を振る。う~ん、ちょっと腰にくるか?
「どうじゃ? まだまだいけるじゃろ?」
「ははは、腰が引けとるぞ?」
そんなやり取りをしていたら丘の向こう側に光が見える。
「ん? おい、誰か来るぞ?」
「ほぉ、馬車か? どこかの貴族かの?」
儂は執務室に居る者に伝令を頼む。
「今から馬車が来る。誰か確認したら、北門の団長へ伝言してくれ。多分どっかの貴族だろう」
「わかった」
今日は立っているだけかと思っていたので、ちょっと門番らしい事ができる事に心が踊る。あいつもそう思っているのか、顔がニコニコだ。
「停まって下さい。どちらの御家でしょうか?」
御者に確認を取る。
「… この手紙を」
ん? 手紙?
「中を改めます。少しお待ちを」
今時手紙? 賄賂や融通は効かなくなったと聞いたんだがな? 西門は貴族が多いから利用頻度が少ないからまだ伝わってないのかもしれんな?
取り敢えず、もう一人の門番を残し執務室へ行く。
「おい、手紙だそうじゃ。開けてみるぞ?」
手紙を開けると真っ白だった。
「はぁ? 何じゃこれは?」
「さぁ~。御者が間違ったのか?」
「わからん。もう一度聞いてみる」
「早くしろよ、お貴族様は時間にうるさいからな」
「おう」
と、再び門に戻るともう一人の門番が捕まっていた。
騎士風なやつが剣を喉元に立てて、反対の手で『しぃ』とした。
城門破りか?
馬車を見ても真っ黒で紋章が描かれてない。
しまった。
どうする? ここで通してしまえばせっかくの団長の政策が水の泡だ。執務室の中のやつはまだ気づいていない。
悩んでいると、静かに馬車から豪華な衣装の貴族が降りて来た。
その貴族は儂の耳元で囁く。
「小娘団長を呼んで来い。団長だけをな」
!!!
「どうするつもりだ?」
「どうもしない。お前は言われた通りにするんだ。見張りとしてこいつを付ける。下手な考えはするなよ」
くそっ。よりにもよって今日だなんて。
「わかった。儂が団長を直接呼びに行くなら、執務室のやつに言わなきゃならん。ちょっと待っててくれ」
「よし。おい、後ろで見張っていろ」
儂は少ない時間で何が出来るか考える。見張りが居るしな。どうする。どうする。
執務室の窓を叩き窓を開けてもらう。儂は適当に誤魔化して会話をしながら上半身を乗り出した。
窓から見えない部分、儂の真横に剣を持ったやつが見張っている。
「おい、さっきの手紙じゃがもう一遍確認したら団長宛だった。お貴族様だから直接持って行ってくる。離れるから日誌に書かなきゃいかん、ちょっとそこの日誌を取ってくれ」
中のヤツが日誌? とハテナな顔になっている。
「ほれ、新しい団長になって規則が変わったじゃろ? な?」
と、ウィンクして合図を送る。
「あぁ、あぁ、そうだった。離席する時は時間を書くんじゃった。ほ、ほれ、サインしろ」
ふ~、良かった。意図が通じた。
儂は日誌にサインをするフリをして、サッと走り書きをする。
そしてそれを中のヤツに見せると、ごくりと喉が鳴った。さっと片手で紙端を破って手の中に隠す。
『敵 貴族 団長狙い』
横の見張りに引っ張られたので窓を離れた。
「んじゃ、行ってくるわい」
それから捕まっていた同僚の鎧に着替えた敵の騎士と連れ立って魔法陣で北門へ行く。
「団長! 団長!」
儂は食堂の入り口で団長を呼ぶ。近くの者が気が付いて団長を呼びに行ってくれた。
「おい、わかっているな? 団長だけだ」
儂の腰に剣を構えながら、敵の騎士は小声で話す。
「わかっとるわい」
腕相撲大会で賑わっている食堂は、みんな笑顔で大はしゃぎしている。
ふ~、こんな良い日になんて事だ。人混みをかき分けて団長がやって来る。満面の笑みだ。
「どうしたの? 何かあった?」
「いえ、どうしても団長がお相手しなければならないぐらいの高貴な方がいらっしゃいまして。申し訳ないが西門まで来て欲しいんじゃ」
「え~? 上位貴族様?」
「はい」
「そう… 用件は? 何か言ってた?」
「上位過ぎて… 直接は話しておらん。すまん」
「いいよ。ドーンは必要?」
と、団長がポンと儂の肩を叩いたのでチャンスだ!
儂は肩にかかる団長の手を取るフリをして、さっきの紙を団長の手の中に忍ばせる。
わかってくれ、団長。
じ~っと目を見つめると、一瞬だけハッとして団長は元の笑顔に戻る。
「いや、副団長は必要ないじゃろ」
「そう… じゃぁ行く事だけ伝えて来るからちょっと待ってて」
団長は儂が返事をする前に副団長の元へ走って行った。
「よし。このまま何もするなよ。いいな?」
「ふん」
しばらくして団長だけがこっちへ来る。
ん? 団長? 紙を見せに行ったんじゃないのか? なぜ一人で戻って来るんじゃ?
儂があたふたしていると団長が来てしまった。
「お待たせ、じゃぁ、行こっか?」
団長はニコニコと疑いもせず、一人で儂らと西門へ飛んだ。
夜7時。
元々、貴族街に面している西門は人通りが少ないがこの時間はさらに人が居ない。とは言えこの感じ、懐かしい。
「おぅ。まだまだいけるんじゃないか?」
「お前もそう思うか? ははははは」
引退した儂らは料理番をしていたのだが、今は新人教育の仕事を任されている。新団長のおかげで、以前より身体が楽になったし給料も良くなった。何より夜遅くと朝早くの料理の仕込みがなくなったので、随分時間にも余裕が出来て子や孫と一緒にいられるようになった。
ありがたい事だ。
「何じゃ? お前腹が出たんじゃないか? 甲革の鎧がパンパンじゃぞ?」
「そう言うお前こそ、槍を持っとるがちゃんと振れるのか?」
『ほっ』と槍を振る。う~ん、ちょっと腰にくるか?
「どうじゃ? まだまだいけるじゃろ?」
「ははは、腰が引けとるぞ?」
そんなやり取りをしていたら丘の向こう側に光が見える。
「ん? おい、誰か来るぞ?」
「ほぉ、馬車か? どこかの貴族かの?」
儂は執務室に居る者に伝令を頼む。
「今から馬車が来る。誰か確認したら、北門の団長へ伝言してくれ。多分どっかの貴族だろう」
「わかった」
今日は立っているだけかと思っていたので、ちょっと門番らしい事ができる事に心が踊る。あいつもそう思っているのか、顔がニコニコだ。
「停まって下さい。どちらの御家でしょうか?」
御者に確認を取る。
「… この手紙を」
ん? 手紙?
「中を改めます。少しお待ちを」
今時手紙? 賄賂や融通は効かなくなったと聞いたんだがな? 西門は貴族が多いから利用頻度が少ないからまだ伝わってないのかもしれんな?
取り敢えず、もう一人の門番を残し執務室へ行く。
「おい、手紙だそうじゃ。開けてみるぞ?」
手紙を開けると真っ白だった。
「はぁ? 何じゃこれは?」
「さぁ~。御者が間違ったのか?」
「わからん。もう一度聞いてみる」
「早くしろよ、お貴族様は時間にうるさいからな」
「おう」
と、再び門に戻るともう一人の門番が捕まっていた。
騎士風なやつが剣を喉元に立てて、反対の手で『しぃ』とした。
城門破りか?
馬車を見ても真っ黒で紋章が描かれてない。
しまった。
どうする? ここで通してしまえばせっかくの団長の政策が水の泡だ。執務室の中のやつはまだ気づいていない。
悩んでいると、静かに馬車から豪華な衣装の貴族が降りて来た。
その貴族は儂の耳元で囁く。
「小娘団長を呼んで来い。団長だけをな」
!!!
「どうするつもりだ?」
「どうもしない。お前は言われた通りにするんだ。見張りとしてこいつを付ける。下手な考えはするなよ」
くそっ。よりにもよって今日だなんて。
「わかった。儂が団長を直接呼びに行くなら、執務室のやつに言わなきゃならん。ちょっと待っててくれ」
「よし。おい、後ろで見張っていろ」
儂は少ない時間で何が出来るか考える。見張りが居るしな。どうする。どうする。
執務室の窓を叩き窓を開けてもらう。儂は適当に誤魔化して会話をしながら上半身を乗り出した。
窓から見えない部分、儂の真横に剣を持ったやつが見張っている。
「おい、さっきの手紙じゃがもう一遍確認したら団長宛だった。お貴族様だから直接持って行ってくる。離れるから日誌に書かなきゃいかん、ちょっとそこの日誌を取ってくれ」
中のヤツが日誌? とハテナな顔になっている。
「ほれ、新しい団長になって規則が変わったじゃろ? な?」
と、ウィンクして合図を送る。
「あぁ、あぁ、そうだった。離席する時は時間を書くんじゃった。ほ、ほれ、サインしろ」
ふ~、良かった。意図が通じた。
儂は日誌にサインをするフリをして、サッと走り書きをする。
そしてそれを中のヤツに見せると、ごくりと喉が鳴った。さっと片手で紙端を破って手の中に隠す。
『敵 貴族 団長狙い』
横の見張りに引っ張られたので窓を離れた。
「んじゃ、行ってくるわい」
それから捕まっていた同僚の鎧に着替えた敵の騎士と連れ立って魔法陣で北門へ行く。
「団長! 団長!」
儂は食堂の入り口で団長を呼ぶ。近くの者が気が付いて団長を呼びに行ってくれた。
「おい、わかっているな? 団長だけだ」
儂の腰に剣を構えながら、敵の騎士は小声で話す。
「わかっとるわい」
腕相撲大会で賑わっている食堂は、みんな笑顔で大はしゃぎしている。
ふ~、こんな良い日になんて事だ。人混みをかき分けて団長がやって来る。満面の笑みだ。
「どうしたの? 何かあった?」
「いえ、どうしても団長がお相手しなければならないぐらいの高貴な方がいらっしゃいまして。申し訳ないが西門まで来て欲しいんじゃ」
「え~? 上位貴族様?」
「はい」
「そう… 用件は? 何か言ってた?」
「上位過ぎて… 直接は話しておらん。すまん」
「いいよ。ドーンは必要?」
と、団長がポンと儂の肩を叩いたのでチャンスだ!
儂は肩にかかる団長の手を取るフリをして、さっきの紙を団長の手の中に忍ばせる。
わかってくれ、団長。
じ~っと目を見つめると、一瞬だけハッとして団長は元の笑顔に戻る。
「いや、副団長は必要ないじゃろ」
「そう… じゃぁ行く事だけ伝えて来るからちょっと待ってて」
団長は儂が返事をする前に副団長の元へ走って行った。
「よし。このまま何もするなよ。いいな?」
「ふん」
しばらくして団長だけがこっちへ来る。
ん? 団長? 紙を見せに行ったんじゃないのか? なぜ一人で戻って来るんじゃ?
儂があたふたしていると団長が来てしまった。
「お待たせ、じゃぁ、行こっか?」
団長はニコニコと疑いもせず、一人で儂らと西門へ飛んだ。
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