転生騎士団長の歩き方

Akila

文字の大きさ
45 / 100
1章 ようこそ第7騎士団へ

43 親玉と掃除

しおりを挟む
「で? どこかな? 待合室?」

「いや、馬車で待つと言っとります」

「ふ~ん」

西門に着いた団長は、鼻歌混じりに軽い足取りで馬車へ向かう。儂の後ろにいる見張りは上手くいったとニヤニヤ顔だ。

どうするんじゃ? 団長?

コンコンコン。

馬車をノックして名乗りを上げる。

「第7騎士団団長ラモンです。お呼びと伺いました。いかがされましたか?」

バンっと扉が開き、中からさっきの派手な貴族とデブが出てきた。周りには敵の騎士が数名武器を構えて団長を囲う。儂は見張りに突き飛ばされて、膝をついてしまった。

「大丈夫?」

こんな時なのに団長は儂の心配をするんか?

「いやいや、団長。状況を分かっておいでか?」

「分かってるわよ。剣を向けられているから。それに、見知ってる顔だしね」

「は? 知り合い?」

「あはは、知り合いではないわ。他人よ」

横柄な態度のデブが団長を指差す。

「はははっ小娘、久しぶりだな! だが残念だ、今日がお前の命日だからな! この通り、私は外に出られた。ハハハ、思い知ったか!」

「相変わらずブルブルね、ブルータス? ふふふ、ブルブルのブルータスって… ぷはっ」

「相変わらずは貴様だ! この無礼者が。この方を知らんのか? 貧乏人が」

「はぁ? 知ってますよ。まさかあなたとは思いませんでしたよ。ブルちゃんの親玉が」

「ほほ~。少ない脳みそでも覚えていたか? なら、話が早い。今までの事は目を瞑ってやろう。今後は、ブルータスの指定する荷馬車は検問なしに通すんだ」

「はっ? 公爵様、話が違うではありませんか? 小娘を殺さないのですか?」

「は~、お前はバカか? こんな事で殺すと足がつく。今やこの娘は騎士団では有名だからな」

「そんな~」

「ん? そうなの? 私有名なの?」

「ふん、白々しい。余計な政策などせず第7で埋もれていればいいものを」

「余計なお世話です。それよりなぜそんなに荷物を通したいんですか? 中身って何です? 今後の参考にさせて下さい」

団長がそう言うと、う~んと貴族は少し考えている。何じゃろう?

「『参考』という事は協力するのだな? 小娘、よし、今回だけ特別に教えてやろうではないか」

儂は貴族とブルータス、団長の会話を黙って聞いていたが、西門の上が暗がりだが少し揺らめいたのに気がついた。

チラッと確認すると、何人かの騎士が潜んでいる。

応援が来たんじゃな? は~良かった。これで団長は助かるな。

「何? 薬物系?」

「違う」

「う~ん、小さなかわいい魔獣とか?」

しかし、団長はニコニコと対応しとるがこれも作戦なんじゃろうか? 西門の上には気づいたかな? いや、儂が下手に動くと邪魔じゃな、ここは黙って大人しくするのがええ。

「違う。人だ」

「人?」

「あぁ、隣国では奴隷制度が残っているからな。驚いた事に数万Kで人が買えるんだ。素晴らしい事じゃないか。それをな、私が高貴な趣味の貴族に売るんだよ」

「『私が』って事はあなたが直接パイプ役を? へぇ~。結構なギャンブラーね」

「そうでもない。人間はな、どうしても欲しかった物を手に入れた瞬間や待っている間は、期待と喜びで周りが見えていない事が多い。だから、法を犯して人を買った事実を、その弱みが実は私の手中にある事に後々気づくんだよ。本当にバカが多い。まぁ、そのおかげで稼がせてもらったんだが。ふはははは。そうして、私が何も言わなくても勝手に服従するようになって来るんだよ」

「変な所に度胸があるのね? ちゃんと騎士業を全うすればそれなりに行けたんじゃない? 現に今、あなたは団長でしょう? ねぇ、第4騎士団団長、サイモン?」

さっきまで顔を上向き加減で偉そうに演説していた貴族が怒り出す。

「小娘、調子に乗るなよ? そんなもので私が満足するとでも? 騎士業なんぞただの表の顔だ。世の中は金だ、金があれば全てが手に入る。地位も名誉も何でもな。それより小娘、サイモン様だろう? 公爵家だぞ?」

「いいえ、サイモン。団長は同列。そうですよね? 総団長?」

!!!

サイモン様がびっくりして辺りを見回している。敵の騎士もザワザワし出した。

それより、第4の団長だと? 近衛じゃないか? どうなっとるんじゃ?

さっき、気配があった西門の上から次々と騎士が降り立って来た。

「語るに落ちたな、サイモン。やっぱりお前はバカだった。そんな事は偉そうに自慢するもんじゃないんだよ、普通。本当の策士はわざわざ自分から出てこないし、まして証拠なんぞ残さない。誰でも『公爵』で黙らせられないのに気がつかないのか? ま~、バカだからわからんか」

「な、何を!!! 貴様! 我が公爵家を敵に回すのか? 王妃も只では済まんぞ?」

ブルータスは連れて来た自分達の騎士の後ろに逃げている。あ~、腹が邪魔しとるな全く隠れられていない。

「構わん。王妃も承知だ。お前はお前の心配でもしていろ」

サイモン様は諦めたのか騎士達と戦闘状態に入る。総団長に剣を向けた後、目の前のラモン団長に剣を向けた。

「抵抗するな、お前ではラモンにすら勝てん」

そうなのか? そんなのが団長じゃと?

「え? そうなんですか? 弱いの?」

「弱いって言うな~! 小娘ぐらい私の剣の錆に~」

「~ 長い。敵対している時はサッと済ませないと。そんな口上要りません。隙を見せたら終わりですよ? サイモン?」

団長はお得意の体術と十手でサイモン様を捕縛した。

「お、おのれ! 卑怯だ!!!」

「本当だった… 弱すぎてちょっとショック。こんなんが同じ団長なんて。どうせ爵位でズルしたんでしょう? 騎士でそれをやると苦労するよ? って、だから悪事に手を染めたのかな? まっ、どうでもいいけど」

敵の騎士や連れ立っていたブルータスはあっさり負けた。戦闘というほどのいざこざにもならなかった。

応援に来た総団長と総副団長、ドーン様とアレク様、クルス様、トリス様も弱すぎて手持ち無沙汰な感じじゃ。

「マジで弱すぎでしょ? お前ら、仮にも近衛だろう?」

「え~! トリス、このゴロツキ達って第4なの?」

「あぁ。近衛騎士、通称お飾り坊ちゃん騎士。ぷはは」

「そうなんだ。でも近衛って護衛が主な仕事でしょう? 上位騎士ばかりだと聞いたけど?」

「金で買ったんだろ? 半数はそんな感じだぜ? これも暗黙の了解で結構有名な話だぜ?」

「うぇ~。王様ピンチじゃん」

ここで、捕縛や何やらの指示を出し終えた総団長がうちの団長に近づいて来た。

ごつん。と、ゲンコツが落ちる。

「痛~」

「陛下に対して不敬だ、口を慎め。今回の件は陛下もご承知である。それとな、誤解のないように言っておくが第4の中身改革はヘボ騎士を一掃した後にする予定だ。サイモンを捕縛するのに、今回は私が必要だったからな。その為に泳がしていたんだ。それより、ラモン、やっぱりお前はいい仕事をするなぁ? うまい具合に『餌』になってくれて手間が省けた」

「『餌』って… 先日言っていた『掃除したい騎士』ってこの人の事だったんですね。って、総団長が必要って何で?」

「ん? お前知らないのか?」

「何がです?」

「私の名を」

儂も団長と一緒にについ考えてしまった。何じゃったかな? 大昔に聞いた事があったんじゃが…

「すみません。いつも総団長と呼んでいるので、名前すらわかりません」

「アホか… 私はハドラー・ユナイト、現陛下の叔父。前国王の弟だ。一応、公爵家相手だしな」

そうじゃった、そうじゃった。騎士団に入った途端に王位継承権をお捨てになった人じゃった。儂も記憶がやばいな。歳か…

でも、うちの団長は口を開いたまま固まった。ドーン様が団長の背中をさすっとる。はぁ、ドーン様も世話が大変じゃて。

「おい、ドーン。そいつを連れて明日にでも第1に来いよ。では、皆、今夜はご苦労」

と、総団長と総副団長は固まった団長を置いて帰ってしまった。

さて、儂も同僚達の具合でも見て来ようかの。
しおりを挟む
感想 251

あなたにおすすめの小説

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...