44 / 100
1章 ようこそ第7騎士団へ
42 虎穴に入らずんば
しおりを挟む
今日儂は、久しぶりに門に立つ。
夜7時。
元々、貴族街に面している西門は人通りが少ないがこの時間はさらに人が居ない。とは言えこの感じ、懐かしい。
「おぅ。まだまだいけるんじゃないか?」
「お前もそう思うか? ははははは」
引退した儂らは料理番をしていたのだが、今は新人教育の仕事を任されている。新団長のおかげで、以前より身体が楽になったし給料も良くなった。何より夜遅くと朝早くの料理の仕込みがなくなったので、随分時間にも余裕が出来て子や孫と一緒にいられるようになった。
ありがたい事だ。
「何じゃ? お前腹が出たんじゃないか? 甲革の鎧がパンパンじゃぞ?」
「そう言うお前こそ、槍を持っとるがちゃんと振れるのか?」
『ほっ』と槍を振る。う~ん、ちょっと腰にくるか?
「どうじゃ? まだまだいけるじゃろ?」
「ははは、腰が引けとるぞ?」
そんなやり取りをしていたら丘の向こう側に光が見える。
「ん? おい、誰か来るぞ?」
「ほぉ、馬車か? どこかの貴族かの?」
儂は執務室に居る者に伝令を頼む。
「今から馬車が来る。誰か確認したら、北門の団長へ伝言してくれ。多分どっかの貴族だろう」
「わかった」
今日は立っているだけかと思っていたので、ちょっと門番らしい事ができる事に心が踊る。あいつもそう思っているのか、顔がニコニコだ。
「停まって下さい。どちらの御家でしょうか?」
御者に確認を取る。
「… この手紙を」
ん? 手紙?
「中を改めます。少しお待ちを」
今時手紙? 賄賂や融通は効かなくなったと聞いたんだがな? 西門は貴族が多いから利用頻度が少ないからまだ伝わってないのかもしれんな?
取り敢えず、もう一人の門番を残し執務室へ行く。
「おい、手紙だそうじゃ。開けてみるぞ?」
手紙を開けると真っ白だった。
「はぁ? 何じゃこれは?」
「さぁ~。御者が間違ったのか?」
「わからん。もう一度聞いてみる」
「早くしろよ、お貴族様は時間にうるさいからな」
「おう」
と、再び門に戻るともう一人の門番が捕まっていた。
騎士風なやつが剣を喉元に立てて、反対の手で『しぃ』とした。
城門破りか?
馬車を見ても真っ黒で紋章が描かれてない。
しまった。
どうする? ここで通してしまえばせっかくの団長の政策が水の泡だ。執務室の中のやつはまだ気づいていない。
悩んでいると、静かに馬車から豪華な衣装の貴族が降りて来た。
その貴族は儂の耳元で囁く。
「小娘団長を呼んで来い。団長だけをな」
!!!
「どうするつもりだ?」
「どうもしない。お前は言われた通りにするんだ。見張りとしてこいつを付ける。下手な考えはするなよ」
くそっ。よりにもよって今日だなんて。
「わかった。儂が団長を直接呼びに行くなら、執務室のやつに言わなきゃならん。ちょっと待っててくれ」
「よし。おい、後ろで見張っていろ」
儂は少ない時間で何が出来るか考える。見張りが居るしな。どうする。どうする。
執務室の窓を叩き窓を開けてもらう。儂は適当に誤魔化して会話をしながら上半身を乗り出した。
窓から見えない部分、儂の真横に剣を持ったやつが見張っている。
「おい、さっきの手紙じゃがもう一遍確認したら団長宛だった。お貴族様だから直接持って行ってくる。離れるから日誌に書かなきゃいかん、ちょっとそこの日誌を取ってくれ」
中のヤツが日誌? とハテナな顔になっている。
「ほれ、新しい団長になって規則が変わったじゃろ? な?」
と、ウィンクして合図を送る。
「あぁ、あぁ、そうだった。離席する時は時間を書くんじゃった。ほ、ほれ、サインしろ」
ふ~、良かった。意図が通じた。
儂は日誌にサインをするフリをして、サッと走り書きをする。
そしてそれを中のヤツに見せると、ごくりと喉が鳴った。さっと片手で紙端を破って手の中に隠す。
『敵 貴族 団長狙い』
横の見張りに引っ張られたので窓を離れた。
「んじゃ、行ってくるわい」
それから捕まっていた同僚の鎧に着替えた敵の騎士と連れ立って魔法陣で北門へ行く。
「団長! 団長!」
儂は食堂の入り口で団長を呼ぶ。近くの者が気が付いて団長を呼びに行ってくれた。
「おい、わかっているな? 団長だけだ」
儂の腰に剣を構えながら、敵の騎士は小声で話す。
「わかっとるわい」
腕相撲大会で賑わっている食堂は、みんな笑顔で大はしゃぎしている。
ふ~、こんな良い日になんて事だ。人混みをかき分けて団長がやって来る。満面の笑みだ。
「どうしたの? 何かあった?」
「いえ、どうしても団長がお相手しなければならないぐらいの高貴な方がいらっしゃいまして。申し訳ないが西門まで来て欲しいんじゃ」
「え~? 上位貴族様?」
「はい」
「そう… 用件は? 何か言ってた?」
「上位過ぎて… 直接は話しておらん。すまん」
「いいよ。ドーンは必要?」
と、団長がポンと儂の肩を叩いたのでチャンスだ!
儂は肩にかかる団長の手を取るフリをして、さっきの紙を団長の手の中に忍ばせる。
わかってくれ、団長。
じ~っと目を見つめると、一瞬だけハッとして団長は元の笑顔に戻る。
「いや、副団長は必要ないじゃろ」
「そう… じゃぁ行く事だけ伝えて来るからちょっと待ってて」
団長は儂が返事をする前に副団長の元へ走って行った。
「よし。このまま何もするなよ。いいな?」
「ふん」
しばらくして団長だけがこっちへ来る。
ん? 団長? 紙を見せに行ったんじゃないのか? なぜ一人で戻って来るんじゃ?
儂があたふたしていると団長が来てしまった。
「お待たせ、じゃぁ、行こっか?」
団長はニコニコと疑いもせず、一人で儂らと西門へ飛んだ。
夜7時。
元々、貴族街に面している西門は人通りが少ないがこの時間はさらに人が居ない。とは言えこの感じ、懐かしい。
「おぅ。まだまだいけるんじゃないか?」
「お前もそう思うか? ははははは」
引退した儂らは料理番をしていたのだが、今は新人教育の仕事を任されている。新団長のおかげで、以前より身体が楽になったし給料も良くなった。何より夜遅くと朝早くの料理の仕込みがなくなったので、随分時間にも余裕が出来て子や孫と一緒にいられるようになった。
ありがたい事だ。
「何じゃ? お前腹が出たんじゃないか? 甲革の鎧がパンパンじゃぞ?」
「そう言うお前こそ、槍を持っとるがちゃんと振れるのか?」
『ほっ』と槍を振る。う~ん、ちょっと腰にくるか?
「どうじゃ? まだまだいけるじゃろ?」
「ははは、腰が引けとるぞ?」
そんなやり取りをしていたら丘の向こう側に光が見える。
「ん? おい、誰か来るぞ?」
「ほぉ、馬車か? どこかの貴族かの?」
儂は執務室に居る者に伝令を頼む。
「今から馬車が来る。誰か確認したら、北門の団長へ伝言してくれ。多分どっかの貴族だろう」
「わかった」
今日は立っているだけかと思っていたので、ちょっと門番らしい事ができる事に心が踊る。あいつもそう思っているのか、顔がニコニコだ。
「停まって下さい。どちらの御家でしょうか?」
御者に確認を取る。
「… この手紙を」
ん? 手紙?
「中を改めます。少しお待ちを」
今時手紙? 賄賂や融通は効かなくなったと聞いたんだがな? 西門は貴族が多いから利用頻度が少ないからまだ伝わってないのかもしれんな?
取り敢えず、もう一人の門番を残し執務室へ行く。
「おい、手紙だそうじゃ。開けてみるぞ?」
手紙を開けると真っ白だった。
「はぁ? 何じゃこれは?」
「さぁ~。御者が間違ったのか?」
「わからん。もう一度聞いてみる」
「早くしろよ、お貴族様は時間にうるさいからな」
「おう」
と、再び門に戻るともう一人の門番が捕まっていた。
騎士風なやつが剣を喉元に立てて、反対の手で『しぃ』とした。
城門破りか?
馬車を見ても真っ黒で紋章が描かれてない。
しまった。
どうする? ここで通してしまえばせっかくの団長の政策が水の泡だ。執務室の中のやつはまだ気づいていない。
悩んでいると、静かに馬車から豪華な衣装の貴族が降りて来た。
その貴族は儂の耳元で囁く。
「小娘団長を呼んで来い。団長だけをな」
!!!
「どうするつもりだ?」
「どうもしない。お前は言われた通りにするんだ。見張りとしてこいつを付ける。下手な考えはするなよ」
くそっ。よりにもよって今日だなんて。
「わかった。儂が団長を直接呼びに行くなら、執務室のやつに言わなきゃならん。ちょっと待っててくれ」
「よし。おい、後ろで見張っていろ」
儂は少ない時間で何が出来るか考える。見張りが居るしな。どうする。どうする。
執務室の窓を叩き窓を開けてもらう。儂は適当に誤魔化して会話をしながら上半身を乗り出した。
窓から見えない部分、儂の真横に剣を持ったやつが見張っている。
「おい、さっきの手紙じゃがもう一遍確認したら団長宛だった。お貴族様だから直接持って行ってくる。離れるから日誌に書かなきゃいかん、ちょっとそこの日誌を取ってくれ」
中のヤツが日誌? とハテナな顔になっている。
「ほれ、新しい団長になって規則が変わったじゃろ? な?」
と、ウィンクして合図を送る。
「あぁ、あぁ、そうだった。離席する時は時間を書くんじゃった。ほ、ほれ、サインしろ」
ふ~、良かった。意図が通じた。
儂は日誌にサインをするフリをして、サッと走り書きをする。
そしてそれを中のヤツに見せると、ごくりと喉が鳴った。さっと片手で紙端を破って手の中に隠す。
『敵 貴族 団長狙い』
横の見張りに引っ張られたので窓を離れた。
「んじゃ、行ってくるわい」
それから捕まっていた同僚の鎧に着替えた敵の騎士と連れ立って魔法陣で北門へ行く。
「団長! 団長!」
儂は食堂の入り口で団長を呼ぶ。近くの者が気が付いて団長を呼びに行ってくれた。
「おい、わかっているな? 団長だけだ」
儂の腰に剣を構えながら、敵の騎士は小声で話す。
「わかっとるわい」
腕相撲大会で賑わっている食堂は、みんな笑顔で大はしゃぎしている。
ふ~、こんな良い日になんて事だ。人混みをかき分けて団長がやって来る。満面の笑みだ。
「どうしたの? 何かあった?」
「いえ、どうしても団長がお相手しなければならないぐらいの高貴な方がいらっしゃいまして。申し訳ないが西門まで来て欲しいんじゃ」
「え~? 上位貴族様?」
「はい」
「そう… 用件は? 何か言ってた?」
「上位過ぎて… 直接は話しておらん。すまん」
「いいよ。ドーンは必要?」
と、団長がポンと儂の肩を叩いたのでチャンスだ!
儂は肩にかかる団長の手を取るフリをして、さっきの紙を団長の手の中に忍ばせる。
わかってくれ、団長。
じ~っと目を見つめると、一瞬だけハッとして団長は元の笑顔に戻る。
「いや、副団長は必要ないじゃろ」
「そう… じゃぁ行く事だけ伝えて来るからちょっと待ってて」
団長は儂が返事をする前に副団長の元へ走って行った。
「よし。このまま何もするなよ。いいな?」
「ふん」
しばらくして団長だけがこっちへ来る。
ん? 団長? 紙を見せに行ったんじゃないのか? なぜ一人で戻って来るんじゃ?
儂があたふたしていると団長が来てしまった。
「お待たせ、じゃぁ、行こっか?」
団長はニコニコと疑いもせず、一人で儂らと西門へ飛んだ。
79
あなたにおすすめの小説
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
偽りの婚姻
迷い人
ファンタジー
ルーペンス国とその南国に位置する国々との長きに渡る戦争が終わりをつげ、終戦協定が結ばれた祝いの席。
終戦の祝賀会の場で『パーシヴァル・フォン・ヘルムート伯爵』は、10年前に結婚して以来1度も会話をしていない妻『シヴィル』を、祝賀会の会場で探していた。
夫が多大な功績をたてた場で、祝わぬ妻などいるはずがない。
パーシヴァルは妻を探す。
妻の実家から受けた援助を返済し、離婚を申し立てるために。
だが、妻と思っていた相手との間に、婚姻の事実はなかった。
婚姻の事実がないのなら、借金を返す相手がいないのなら、自由になればいいという者もいるが、パーシヴァルは妻と思っていた女性シヴィルを探しそして思いを伝えようとしたのだが……
こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
【男装歴10年】異世界で冒険者パーティやってみた【好きな人がいます】
リコピン
ファンタジー
前世の兄と共に異世界転生したセリナ。子どもの頃に親を失い、兄のシオンと二人で生きていくため、セリナは男装し「セリ」と名乗るように。それから十年、セリとシオンは、仲間を集め冒険者パーティを組んでいた。
これは、異世界転生した女の子がお仕事頑張ったり、恋をして性別カミングアウトのタイミングにモダモダしたりしながら過ごす、ありふれた毎日のお話。
※日常ほのぼの?系のお話を目指しています。
※同性愛表現があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる