毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

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第七章 死に損ないのフリードリヒ

第132話 愛弟子

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 突然、黙り込んだパウルは暫くわなわなと手を震えさせた後、恐る恐るといった様子でモーズにこう訊いてきた。

「……え。ロベルト院長が、スカウトしたの……? 君を……? しかも直々に……?」
「はい。そうなりますね」
「そのスカウトを蹴ってラボここに居るの……?」
「蹴ったつもりはないのですが、結果的に期待に応えられたのは1年のみになってしまいましたね」

 珊瑚症の感染病棟の配属医師になるには、幾つか条件がある。
 まずは医師免許とは別に、防災と救命と消防の知識と実技を一通り学び、国際連盟が発行している『国連災害管理資格』を取得すること。
 国連秘密警察も必須と聞くこの資格を取得すると、自動的に国連に名義が登録される。そして医師として実績と功績を積み重ねた者から、感染病棟配属の推薦状が届く。それから希望する病棟の元に転勤となる。
 そしてもう1つ。
 院長や医大の教員が国連に連絡を取り、目をかけた資格保持者の医師の推薦を直接発行し配属させる方法がある。モーズが配属となった経緯はこちらだ。
 尤も特別、珍しい事ではない。医師が不足している病棟の院長はしょっちゅう推薦を出しているという噂も聞く。

 パウルが面白くないのは、モーズがロベルト院長に気に入られたからに他ならない。
 加えて気に入られていながら、あっさりとロベルト院長の元から離れた事が、もっと気に食わない。

「お前嫌いっ!!」
「何故……!?」

 よってパウルはモーズの事を思い切り拒絶したのであった。
 その見えていた結果を阻止できなかったフリーデンは、マスク越しに額に手を当てて「あちゃー」と項垂れた。

「悪いなモーズ、止めるの遅くなっちまったわ」
「何が嫌われる要因だったのだろうか……。ペガサス教団に目を付けられた結果、感染病棟で災害が起こってしまい、その後始末もままならないままラボに入所し、ロベルト院長に散々迷惑をかけてしまった所だろうか……? 冤罪や指名手配騒動でも巻き込んでしまったのだし……」
「そんな懇切丁寧に説明せんでも」
「はぁあああ!? お前スカウトを蹴っただけじゃ飽き足らず、なにロベルト院長に苦労かけているんだよ! 労われ! 敬え! あの人に害をなす人間は僕が許さないからな~っ!?」

 ズルリッ
 パウルの怒りに呼応してか、彼の胸元のシャツの第一ボタンを吹き飛ばし、そこにできた隙間からアイギスの触手が何本か生えてきた。そして威嚇のつもりなのか、触手を大きく振り回している。近寄れば恐らく叩かれてしまう事だろう。
 モーズは驚いて反射的に後退った。

「どうしよう。もっと嫌われてしまったようだ」
「正直がすぎるんだよモーズは。もっと喋る内容を取捨選択しようぜ? 前に俺が『内緒にしとけ』って言った時、よくよく言い聞かせときゃよかったなぁ」
「しかし黙っていてもいずれ知ることになる話だろう? 今言っても言わなくとも変わらないのでは? 何より関係者を前に秘匿する方が不誠実だと思うのだが」
「お前本当にそういう所……。いや、いいよ、そういう奴だよなモーズは。うん、諦めるわ」
「何かを諦めさせてしまった……!?」

 なおシャツのボタンが飛んでしまったパウルは「あっ! またシャツ痛めて!」と、今度はアイギスに怒って引っ込むよう触手を手で押し込んでいる。
 どうやら彼が胸元を開放的にしていたのはファッション由来ではなく、服を突き破って出てくるアイギスの所為らしい。

「まぁ見ての通り、パウル先輩はロベルト院長関連の話に地雷が多いんだよ。先輩にとって院長は家族で師匠せんせいで、大事な人だから」
「そのようだな」

 次いでエントランスに転がったシャツのボタンを拾う為にしゃがんだパウルは、その体勢のままいじけ出した。

「はぁ~……。やっと僕にも可愛げのある年下の後輩ができたと思ったのに……。ユストゥスは身体も態度もでかいし、フリッツはリハビリでそれどころじゃなかったのもあるけど包容力あり過ぎて後輩感全くなかったし、フリーデンなんて口答え半端ないクソ生意気ガキンチョだし……」
「パウル先輩、大学に4年も飛び級して入って卒業したもんだから、基本的に年上に囲まれて居心地悪かったんだってさ」
「成る程。私も飛び級制度は利用したが、2年しか短縮できなかった。パウルさんは優秀なのだな」
「おっ! 俺も2年飛び級したんだ、仲間だなぁモーズ」
「何と。それは奇遇だな」
「主題の僕を差し置いて、和やかに会話に花咲かせないでくれない?」

 そもそも飛び級制度を利用できる時点で全員優秀なのだが、その事について突っ込みをいれてくれる凡人はこの場にはいなかった。
 理想とかけ離れた後輩達を前に、パウルは自暴自棄気味に立ち上がって、ボタンをポケットに突っ込む。

「もういい! 新人なんていなかったんだ! 僕はもう行くからな!」
「そういえばこんな遅い時間にどうしたんですか、先輩。顔見るの自体、1ヶ月振りですけど」
「1ヶ月振りの先輩との再会に喜び咽せがない奴には教えてやんないっ!」
「無茶苦茶だぁ」

 足取り荒くモーズとフリーデンの間を突っ切り、パウルはエレベーターへ向かった。
 しかし彼が辿り着く少し前にエレベーターの扉は開かれて、中からフリッツとユストゥスが降りてくる。

「うん? 何だ。戻っていたのかパウル」
「やぁ、久し振りだねぇパウルくん。どうだった?」

 そこでパウルは足を止めて、フリッツの方に顔を向けた。

「あっ! フリッツ、丁度いいところに」
「フリッツ先生~っ!」

 しかしパウルが要件を言うよりも早く、フリッツが現れたと同時に開いた自動ドアから一人の少年がエントランスの中へ駆け込んでくる。
 12歳かそこらに見える、毛先のみオレンジ色をした白い髪を持つその幼い少年は、モーズとフリーデン、そしてパウルの横を風のように通り抜け、そうして辿り着いたフリッツに抱き付いた。

「お会いしたかったです~っ!」
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