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第七章 死に損ないのフリードリヒ
第133話 《尿素(CH4N2O)》
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「こぉら! 許可なくエントランスに入ってくるなっ!」
「そう目くじらを立てるなパウル。待ちきれなかったのだろう」
「許すの!? 規則にうるさい頭でっかちユストゥスが!?」
「私を何だと思っている」
突然現れた少年を叱り付けるパウルに、宥めるユストゥス。
普段細かい事でも規則に厳しいユストゥスにしては珍しい反応で、パウルは戸惑った。
「カルバミド、ここには新人のモーズくんがいるんだ。挨拶をして欲しいな」
「はーい!」
フリッツに促され、少年がとてとてと小さな身体の足を大きく動かしてモーズの前まで移動をする。
「初めましてー! 《尿素(CH4N2O)》と申しますっ! どうぞよしなに~」
「初めまして。私の名はモーズという。よろしく、カルバミド」
尿素。毒性の弱いほとんど無害の毒素、いや元素である。ただし加熱しなければ、だが。それに腐食性もある為、純水なみに無害という訳ではない。
モーズに名前を伝え挨拶をすませたカルバミドは、すぐにくるりと身体を反転させると再びフリッツの元に駆け寄り、腰に抱き付いた。
「挨拶すませたので行きましょ~先生ーっ! 今回の冒険でもぼくは沢山の活躍をですねーっ」
「はいはい。それじゃ海岸沿いのベンチにでも行こうか」
「……フリッツ。休まなくて大丈夫か?」
カルバミドの頭を撫でながら話に付き合うと言うフリッツだが、彼はアメリカ遠征の帰りで心身共に疲弊している。
ユストゥスはその事を心配し声をかけたものの、フリッツは「うん。もう、大丈夫だよ」と穏やかに返事をした。
「それじゃ皆んな、お先に失礼するね」
そしてフリッツはカルバミドと共に、ラボのエントランスを出て外へ向かったのだった。
「毒性がほぼないカルバミドもいたのだな。知らなかった」
モーズが感心したように言う。
猛毒人種ウミヘビの持つ毒素は一様に危険性の高いものばかりと思っていたが、カルバミドのように毒性自体は非常に弱い者もいるようだ。
しかしそこでフリーデンが補足を加える。
「ただしあいつ、ナトリウムやカリウムみたく爆弾作れるけどなぁ。抽射器使い捨てタイプの1人だよ」
「使い捨てタイプ……」
「左様。《ナック》を使えるカリウムとナトリウムは例外だが、カルバミドのような周囲を巻き込む爆発物がメインウェポンなウミヘビは、遠征にはほとんど連れていかない。扱いが難しいからな。よってネグラでの生活を支えるのが役目、だったのだ。フリッツが入所するまでは」
毒性が弱くともウミヘビはウミヘビ。中毒の危険性とはまた別方面での危険性を持つ。
とユストゥスも補足を入れつつ、
「フリッツはカルバミドの毒素をうまく肥料に変換する抽射器を開発した。そして今回パウルが担当していた外回りで活躍する事ができるようになったのだ」
人に害を与えるよりも益を与えるウミヘビとして、カルバミドは活躍しているのだと教えてくれた。
「外回り、とは?」
「簡単に言うと援助を出してくれている、国連とか政府官僚のお偉いさん方や資本家に媚び売りに行く仕事だな~。医学や化学知識全然ない人もいる中で、ラボはこれだけ社会に貢献しています~っ! って演説して回るのよ。そんで最近は、『ウミヘビは災害対処だけじゃなくて、暮らしを豊かにする力もあるんです~っ! 被災地の復興に力を貸せるんです~っ!』ってカルバミドとかの力を借りてイメージ向上を図ってんの」
「成る程。私はラボの論文を読むだけで偉業は伝わると思っていたが、それは違うのだな」
「つまり僕は今までスポンサーの挨拶巡りをしていたって事だよ! しかも皆んなやりたがらないから僕ばっか外回り駆り出されてさ! 酷いと思わないか!? 誰のお蔭で予算が確保できていると思っているんだーっ!」
子供のように地団駄を踏むパウル。モーズよりも年上のはずなのに、何故だか情緒が幼い。
「その点に関しては感謝してもし切れないな。ご苦労」
「相変わらずすっげぇ上から目線だなユストゥスっ! 僕の後輩なのにっ!!」
「金に物を言わせた研究できるのはパウル先輩のお力があってこそ。拝まないといけないぜ、モーズ」
「あぁ、予算は大切だ。非常に。手を合わせて頂こう」
「ちょっと!? 僕だからっていうより財布としてでしょそれ!?」
なむなむと、フリーデンとモーズに手を合わせられ、逆に馬鹿にされた気がするパウルは怒る。
「それから誰だよー! 今月、人工人間消費しまくってる奴! 在庫一覧画面からどんどん消えていくのバグかと思ったぞ!? あれクソ高いから無駄遣いするなって常々言っているのに、バカスカ使って! 国連のチェックも入る備品申請する時の僕の気持ちも考えろっての!!」
ハッ、と。パウルの叫びを聞いたモーズの脳裏に、『珊瑚』の電気信号を解析する為、大量消費した人工人間の姿が過ぎる。
そして気まずくなってパウルから顔をそらした所、それに気付いたパウルがズンズン詰め寄ってきて胸倉を掴んできた。
「お~ま~え~か~っ!!」
「うっ、すまない! 備品申請の苦労など露知らず……!」
モーズはフリッツら他のクスシも一緒にいる共同研究室で人工人間の使用をしていたのだが、何十体も消費する彼を咎める者は誰もいなかった。何ならフリッツ達も節約など気にせず消費していた記憶がある。
だからてっきり大量消費は予算のあるラボでは普通の事なのだろう、と思っていたのだ。違ったようだが。
「ま~俺もバカスカ使っているから気にすんなモーズ」
「薬の開発に人工人間の使用は必要不可欠。それで救える命が増えているというのに、何が不服なのだ国連は。文句を言うのならば生身の人間で臨床するが? と言ってやりたいな。そもそも消耗品の使用頻度にケチを付けるなケチを」
「うぉいっ! フリーデンもユストゥスも申し訳なさそうにしろよ!? 開き直るんじゃなーいっ!!」
▼△▼
補足
尿素(CH4N2O)
別名、カルバミド。
名の通り尿に含まれている元素。純粋な尿素は白色無臭の柱状結晶である。
毒性はほぼないと言ってよく、保湿剤や化粧品、医薬品、肥料など様々な物の原材料となっている。
ただし“ほぼ”毒性がないといっても、尿素水などを飲む、触れる、目に入れるなどをした場合は速やかに洗い流し病院を受診する必要がある。何故ならば尿素は濃度が高いと皮膚を溶かしたり、炎症を引き起こす作用を持つからだ。
また硝酸と混ぜると爆発物になる危険性を持つ。
外見について
結晶が白いので白髪。毛先は溶かして取り込んだ不純物によって変色している。髪の長さを肩ぐらいに保てば真っ白なままという裏設定がある。
「そう目くじらを立てるなパウル。待ちきれなかったのだろう」
「許すの!? 規則にうるさい頭でっかちユストゥスが!?」
「私を何だと思っている」
突然現れた少年を叱り付けるパウルに、宥めるユストゥス。
普段細かい事でも規則に厳しいユストゥスにしては珍しい反応で、パウルは戸惑った。
「カルバミド、ここには新人のモーズくんがいるんだ。挨拶をして欲しいな」
「はーい!」
フリッツに促され、少年がとてとてと小さな身体の足を大きく動かしてモーズの前まで移動をする。
「初めましてー! 《尿素(CH4N2O)》と申しますっ! どうぞよしなに~」
「初めまして。私の名はモーズという。よろしく、カルバミド」
尿素。毒性の弱いほとんど無害の毒素、いや元素である。ただし加熱しなければ、だが。それに腐食性もある為、純水なみに無害という訳ではない。
モーズに名前を伝え挨拶をすませたカルバミドは、すぐにくるりと身体を反転させると再びフリッツの元に駆け寄り、腰に抱き付いた。
「挨拶すませたので行きましょ~先生ーっ! 今回の冒険でもぼくは沢山の活躍をですねーっ」
「はいはい。それじゃ海岸沿いのベンチにでも行こうか」
「……フリッツ。休まなくて大丈夫か?」
カルバミドの頭を撫でながら話に付き合うと言うフリッツだが、彼はアメリカ遠征の帰りで心身共に疲弊している。
ユストゥスはその事を心配し声をかけたものの、フリッツは「うん。もう、大丈夫だよ」と穏やかに返事をした。
「それじゃ皆んな、お先に失礼するね」
そしてフリッツはカルバミドと共に、ラボのエントランスを出て外へ向かったのだった。
「毒性がほぼないカルバミドもいたのだな。知らなかった」
モーズが感心したように言う。
猛毒人種ウミヘビの持つ毒素は一様に危険性の高いものばかりと思っていたが、カルバミドのように毒性自体は非常に弱い者もいるようだ。
しかしそこでフリーデンが補足を加える。
「ただしあいつ、ナトリウムやカリウムみたく爆弾作れるけどなぁ。抽射器使い捨てタイプの1人だよ」
「使い捨てタイプ……」
「左様。《ナック》を使えるカリウムとナトリウムは例外だが、カルバミドのような周囲を巻き込む爆発物がメインウェポンなウミヘビは、遠征にはほとんど連れていかない。扱いが難しいからな。よってネグラでの生活を支えるのが役目、だったのだ。フリッツが入所するまでは」
毒性が弱くともウミヘビはウミヘビ。中毒の危険性とはまた別方面での危険性を持つ。
とユストゥスも補足を入れつつ、
「フリッツはカルバミドの毒素をうまく肥料に変換する抽射器を開発した。そして今回パウルが担当していた外回りで活躍する事ができるようになったのだ」
人に害を与えるよりも益を与えるウミヘビとして、カルバミドは活躍しているのだと教えてくれた。
「外回り、とは?」
「簡単に言うと援助を出してくれている、国連とか政府官僚のお偉いさん方や資本家に媚び売りに行く仕事だな~。医学や化学知識全然ない人もいる中で、ラボはこれだけ社会に貢献しています~っ! って演説して回るのよ。そんで最近は、『ウミヘビは災害対処だけじゃなくて、暮らしを豊かにする力もあるんです~っ! 被災地の復興に力を貸せるんです~っ!』ってカルバミドとかの力を借りてイメージ向上を図ってんの」
「成る程。私はラボの論文を読むだけで偉業は伝わると思っていたが、それは違うのだな」
「つまり僕は今までスポンサーの挨拶巡りをしていたって事だよ! しかも皆んなやりたがらないから僕ばっか外回り駆り出されてさ! 酷いと思わないか!? 誰のお蔭で予算が確保できていると思っているんだーっ!」
子供のように地団駄を踏むパウル。モーズよりも年上のはずなのに、何故だか情緒が幼い。
「その点に関しては感謝してもし切れないな。ご苦労」
「相変わらずすっげぇ上から目線だなユストゥスっ! 僕の後輩なのにっ!!」
「金に物を言わせた研究できるのはパウル先輩のお力があってこそ。拝まないといけないぜ、モーズ」
「あぁ、予算は大切だ。非常に。手を合わせて頂こう」
「ちょっと!? 僕だからっていうより財布としてでしょそれ!?」
なむなむと、フリーデンとモーズに手を合わせられ、逆に馬鹿にされた気がするパウルは怒る。
「それから誰だよー! 今月、人工人間消費しまくってる奴! 在庫一覧画面からどんどん消えていくのバグかと思ったぞ!? あれクソ高いから無駄遣いするなって常々言っているのに、バカスカ使って! 国連のチェックも入る備品申請する時の僕の気持ちも考えろっての!!」
ハッ、と。パウルの叫びを聞いたモーズの脳裏に、『珊瑚』の電気信号を解析する為、大量消費した人工人間の姿が過ぎる。
そして気まずくなってパウルから顔をそらした所、それに気付いたパウルがズンズン詰め寄ってきて胸倉を掴んできた。
「お~ま~え~か~っ!!」
「うっ、すまない! 備品申請の苦労など露知らず……!」
モーズはフリッツら他のクスシも一緒にいる共同研究室で人工人間の使用をしていたのだが、何十体も消費する彼を咎める者は誰もいなかった。何ならフリッツ達も節約など気にせず消費していた記憶がある。
だからてっきり大量消費は予算のあるラボでは普通の事なのだろう、と思っていたのだ。違ったようだが。
「ま~俺もバカスカ使っているから気にすんなモーズ」
「薬の開発に人工人間の使用は必要不可欠。それで救える命が増えているというのに、何が不服なのだ国連は。文句を言うのならば生身の人間で臨床するが? と言ってやりたいな。そもそも消耗品の使用頻度にケチを付けるなケチを」
「うぉいっ! フリーデンもユストゥスも申し訳なさそうにしろよ!? 開き直るんじゃなーいっ!!」
▼△▼
補足
尿素(CH4N2O)
別名、カルバミド。
名の通り尿に含まれている元素。純粋な尿素は白色無臭の柱状結晶である。
毒性はほぼないと言ってよく、保湿剤や化粧品、医薬品、肥料など様々な物の原材料となっている。
ただし“ほぼ”毒性がないといっても、尿素水などを飲む、触れる、目に入れるなどをした場合は速やかに洗い流し病院を受診する必要がある。何故ならば尿素は濃度が高いと皮膚を溶かしたり、炎症を引き起こす作用を持つからだ。
また硝酸と混ぜると爆発物になる危険性を持つ。
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