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第十章 イギリス出張編
第182話 ビーチバレー
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「そんじゃ今から3人でぇ、あっそーびま~っす!」
「えぇ……」
「は、はぁ。遊ぶ……?」
砂浜に撃ち込んだ黒いボールを回収して、カールはモーズとパウルに高らかに宣言をした。
「ルールは簡単! こちらのボールを使ってひたすらラリー! つまりビーチバレー!」
「ええと。それが訓練、ですか?」
「そうとも! ただぁ、気ぃ緩ませているとぉ、死ぬかもよ? 何せこのボール、鉄球だからねぇ」
カールが指先でくるくると回す黒いボール。
太陽光を反射する光沢を持つそれの材質は、鉄。砲丸の主成分と変わらない凶器。
「素手で受け止めようと思うと大怪我するよ⭐︎」
「な……っ!?」
「え、それ一歩間違えたら僕にも甚大な被害こない?」
「そんじゃ、スタート!」
鉄として重さもそれなりにある筈のボールを、カールは野球ボールでも扱うかのように軽々と片手で持ち、モーズに向け思い切り投げた。
カールの投げたボールは、速い。それが身体のどこかしらに当たれば骨折は必須。
どうにか避けようとモーズが後ずさった直後、鉄のボールは空中で止まった。パウルが手首から生やしたアイギスの口腕触手で、ボールを受け止めたのだ。
「あ、ちょっとちょっと。ビーチバレーって言ったじゃない。ラリーを止めちゃ駄目っしょ~?」
それに対してカールは不満げな声をあげる。
「止めるよこんなの! 何考えているんだ! 大怪我するような訓練ならシミュレーター使えって!」
「シミュレーターだと死ぬ思いできないじゃ~ん。しかもモーズちゃん、死なないとわかってたら一切の緊張や恐怖がなくなるみたいだし? ……1ヶ月前にクロールとやり合ってたの、俺ちゃん指導して欲しいって連絡来た今朝の内にちゃあんとリサーチしといたよ?」
1ヶ月前、アイギスの訓練の一環で、シミュレーターを用いてモーズとクロールが対戦した記録。カールはその一部始終をしっかりと確認していた。
カールとてクスシ。研究者。下調べは怠らない。
そしてモーズは命の危険がないと予めわかっていると、胴体が切断されようが腕が斬り落とされようが一切怯む事なく、幾度となく擬死体験を重ねようとも平常心を保ったまま、平然と格上のクロールに立ち向かっていた。
「アイギスの初歩の初歩を覚えるのには良いけどぉ、使いこなしたいってんなら、駄目だ。短期間でってなると、尚更ね」
死ぬ思いをしなければ、アイギスは使いこなせない。彼はそう言っている。
「カール! この訓練はモーズにアイギスの分離を覚えさせるのが目標だろ! 目的見失うなって!」
「いんや。合ってる合ってる。そもそもパウルちゃんが備品を消費するなって言ったんじゃ~ん。ならこれがいっちばん、手っ取り早い」
ズルリ
その時カールの背中、腰の辺りから、細く青白い触手が1本、束となって生えてくる。それは真っ直ぐパウルの生やした口腕触手に向かってボールを奪い返すと、カールの手元へ運んだ。
「大怪我しようが死にかけようが、笑って楽しむイカれた精神を求めているんだよ、俺ちゃんは」
そう言って再び投擲の構えを取るカール。パウルは咄嗟にモーズを押し除け、庇うように前に立った。
「後輩を大事にする気ないのかよ!?」
「何言ってんのパウルちゃん。め~っちゃあるよ大事にする気。特にモーズちゃんは〈根〉と交信ができるっていう現状、唯一無二の特異性があるんだ。そんじょそこらじゃ死なないよう、ここで確実に分離を覚えて貰ってぇ……何としてでも力を付けて貰う!」
カールが叫んだ直後、鉄球が空を切る。ただし、カールの手からではない。
モーズの背後、五歩ほど離れた足元の砂浜。そこがモコリと盛り上がって、鉄球を持った青白い触手が出現。
それがモーズに向け、投擲した。
「ぐ……っ!」
砂がズズズと動く音で背後の動きに気付けたモーズは咄嗟に鉄球をかわす事はできたものの、鉄球は顔の真横を過ぎりフェイスマスクをかすった。
人の急所である頭部を、躊躇なく狙ってきている。
「モーズちゃん逃げるな! 笑え! 楽しめ! 遊べ!!」
「こ、この状況で、た、楽しむなど……っ!」
「ボールが鉄球だから何だ! 危険性が何だ! 怪我がどうした! そんなのぜぇ~んぶ関係ないっ!!」
砂浜の下に潜ませたアイギスの触手が投擲した鉄球は、カールが背中から生やした触手が回収している。
そして手元に2つとなった鉄球を、カールは空気を詰め込んだビーチボールの如く軽々と、手軽に気軽に、凶器だと微塵も感じない扱いで投げてくる。
しかも砂浜に潜むカールのアイギスの触手が持っていた鉄球は1つや2つではないようで、時間経過と共に徐々に数を増やしていき、最終的に10の黒い球が青空の下で舞う。そこまで数を増やされるとパウルが手首から生やしたアイギスではモーズを庇いきれず、自力で対処する必要が出てきた。
「君がやるべきはただのボール遊びだとも! さぁ! 頭のネジを外せ! 常識をかなぐり捨てろ! 理性を飛ばせ! 狂気を孕め!!」
「こんな、の、まともではないぞ……!?」
「はっはっはっはっ! なぁにを常識人ぶってんだ異常者よ! アイギスという得体の知れない寄生生物に! 後先考えず身を捧げる俺達クスシヘビが! まともな訳がないんだよなぁっ!!」
前と後ろ、どちらからも絶え間なく襲ってくる鉄球。まるで銃撃戦に巻き込まれ、挟み撃ちにされたかのような状況だ。菌床処分に赴いた時よりも余程、危険性が増している。
しかし、これも訓練。指導を任されたカールが自身の時間を割き、思案し、モーズの為に行ってくれている訓練。応えなくてはその厚意を無に帰してしまう。
「……っ! アイギス……っ!」
鉄球の動きに目が慣れてきた頃を見計らい、モーズは触手を1本、右手首から生やすと、どうにか鉄球の1つに絡ませ掴む事ができた。
それをカールの方へ投げ渡すと、カールは喜色に満ちた声をあげる。
「お、ようやくモーズちゃんの1ラリー頂きました!」
がしかし、カールがそれで満足する事などなく、
「そんじゃ今日は初日だからぁ、軽く100回できるまでやってみよっか⭐︎」
「えぇ……」
「は、はぁ。遊ぶ……?」
砂浜に撃ち込んだ黒いボールを回収して、カールはモーズとパウルに高らかに宣言をした。
「ルールは簡単! こちらのボールを使ってひたすらラリー! つまりビーチバレー!」
「ええと。それが訓練、ですか?」
「そうとも! ただぁ、気ぃ緩ませているとぉ、死ぬかもよ? 何せこのボール、鉄球だからねぇ」
カールが指先でくるくると回す黒いボール。
太陽光を反射する光沢を持つそれの材質は、鉄。砲丸の主成分と変わらない凶器。
「素手で受け止めようと思うと大怪我するよ⭐︎」
「な……っ!?」
「え、それ一歩間違えたら僕にも甚大な被害こない?」
「そんじゃ、スタート!」
鉄として重さもそれなりにある筈のボールを、カールは野球ボールでも扱うかのように軽々と片手で持ち、モーズに向け思い切り投げた。
カールの投げたボールは、速い。それが身体のどこかしらに当たれば骨折は必須。
どうにか避けようとモーズが後ずさった直後、鉄のボールは空中で止まった。パウルが手首から生やしたアイギスの口腕触手で、ボールを受け止めたのだ。
「あ、ちょっとちょっと。ビーチバレーって言ったじゃない。ラリーを止めちゃ駄目っしょ~?」
それに対してカールは不満げな声をあげる。
「止めるよこんなの! 何考えているんだ! 大怪我するような訓練ならシミュレーター使えって!」
「シミュレーターだと死ぬ思いできないじゃ~ん。しかもモーズちゃん、死なないとわかってたら一切の緊張や恐怖がなくなるみたいだし? ……1ヶ月前にクロールとやり合ってたの、俺ちゃん指導して欲しいって連絡来た今朝の内にちゃあんとリサーチしといたよ?」
1ヶ月前、アイギスの訓練の一環で、シミュレーターを用いてモーズとクロールが対戦した記録。カールはその一部始終をしっかりと確認していた。
カールとてクスシ。研究者。下調べは怠らない。
そしてモーズは命の危険がないと予めわかっていると、胴体が切断されようが腕が斬り落とされようが一切怯む事なく、幾度となく擬死体験を重ねようとも平常心を保ったまま、平然と格上のクロールに立ち向かっていた。
「アイギスの初歩の初歩を覚えるのには良いけどぉ、使いこなしたいってんなら、駄目だ。短期間でってなると、尚更ね」
死ぬ思いをしなければ、アイギスは使いこなせない。彼はそう言っている。
「カール! この訓練はモーズにアイギスの分離を覚えさせるのが目標だろ! 目的見失うなって!」
「いんや。合ってる合ってる。そもそもパウルちゃんが備品を消費するなって言ったんじゃ~ん。ならこれがいっちばん、手っ取り早い」
ズルリ
その時カールの背中、腰の辺りから、細く青白い触手が1本、束となって生えてくる。それは真っ直ぐパウルの生やした口腕触手に向かってボールを奪い返すと、カールの手元へ運んだ。
「大怪我しようが死にかけようが、笑って楽しむイカれた精神を求めているんだよ、俺ちゃんは」
そう言って再び投擲の構えを取るカール。パウルは咄嗟にモーズを押し除け、庇うように前に立った。
「後輩を大事にする気ないのかよ!?」
「何言ってんのパウルちゃん。め~っちゃあるよ大事にする気。特にモーズちゃんは〈根〉と交信ができるっていう現状、唯一無二の特異性があるんだ。そんじょそこらじゃ死なないよう、ここで確実に分離を覚えて貰ってぇ……何としてでも力を付けて貰う!」
カールが叫んだ直後、鉄球が空を切る。ただし、カールの手からではない。
モーズの背後、五歩ほど離れた足元の砂浜。そこがモコリと盛り上がって、鉄球を持った青白い触手が出現。
それがモーズに向け、投擲した。
「ぐ……っ!」
砂がズズズと動く音で背後の動きに気付けたモーズは咄嗟に鉄球をかわす事はできたものの、鉄球は顔の真横を過ぎりフェイスマスクをかすった。
人の急所である頭部を、躊躇なく狙ってきている。
「モーズちゃん逃げるな! 笑え! 楽しめ! 遊べ!!」
「こ、この状況で、た、楽しむなど……っ!」
「ボールが鉄球だから何だ! 危険性が何だ! 怪我がどうした! そんなのぜぇ~んぶ関係ないっ!!」
砂浜の下に潜ませたアイギスの触手が投擲した鉄球は、カールが背中から生やした触手が回収している。
そして手元に2つとなった鉄球を、カールは空気を詰め込んだビーチボールの如く軽々と、手軽に気軽に、凶器だと微塵も感じない扱いで投げてくる。
しかも砂浜に潜むカールのアイギスの触手が持っていた鉄球は1つや2つではないようで、時間経過と共に徐々に数を増やしていき、最終的に10の黒い球が青空の下で舞う。そこまで数を増やされるとパウルが手首から生やしたアイギスではモーズを庇いきれず、自力で対処する必要が出てきた。
「君がやるべきはただのボール遊びだとも! さぁ! 頭のネジを外せ! 常識をかなぐり捨てろ! 理性を飛ばせ! 狂気を孕め!!」
「こんな、の、まともではないぞ……!?」
「はっはっはっはっ! なぁにを常識人ぶってんだ異常者よ! アイギスという得体の知れない寄生生物に! 後先考えず身を捧げる俺達クスシヘビが! まともな訳がないんだよなぁっ!!」
前と後ろ、どちらからも絶え間なく襲ってくる鉄球。まるで銃撃戦に巻き込まれ、挟み撃ちにされたかのような状況だ。菌床処分に赴いた時よりも余程、危険性が増している。
しかし、これも訓練。指導を任されたカールが自身の時間を割き、思案し、モーズの為に行ってくれている訓練。応えなくてはその厚意を無に帰してしまう。
「……っ! アイギス……っ!」
鉄球の動きに目が慣れてきた頃を見計らい、モーズは触手を1本、右手首から生やすと、どうにか鉄球の1つに絡ませ掴む事ができた。
それをカールの方へ投げ渡すと、カールは喜色に満ちた声をあげる。
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がしかし、カールがそれで満足する事などなく、
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