毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

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第十三章 朝顔の種編

第256話 地下通路

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 ◇

「追い出されちまったな。どうするよ、アトロピン」

 正門から屋敷の外に出されたニコチンは、紙タバコをふかしながら隣に立つアトロピンに問い掛ける。

「アバトンの外では、ウミヘビは基本的にクスシの側から離れてはいけません。まして連絡も取れない中で現在のように、強制的に距離を置かれてしまった場合……多少強引な手段を用いても、逸速くお側に参るのが定石です」
「お前ぇ相変わらず取り繕うのが上手ぇなぁ。早い話、青洲が心配ってだけだろうに」

 その時、屋敷の前の路上に停まっていた複数のパトカー……。つまり屋敷を包囲していたパトカーの陰から、警官が一人姿を現し、拳銃をニコチンとアトロピンへ向けてきた。

「そこの二人組! 君達には爆発テロ首謀者の容疑がかかっている! 両手をあげ抵抗せず、署までの同行を……!」

 どうやら2人は現在、テロ実行犯としてのレッテルが貼られているらしい。警察へ通報したと思われる、ペガサス教団の信徒の仕業だろう。
 アトロピンは1つ大きな溜め息を吐いた。

「あぐ……っ!?」
「あぁ……!?」
「ど、どうしたんだお前達……! うっ……!?」

 するとパトカーの陰に隠れていた複数の警官が膝を道路に付け、苦しみ出す。遅れて拳銃を向けてきた警官も同じように膝を付き、力が入らなくなったのか拳銃を手から落としてしまう。
 ほんの一瞬で、周囲を包囲していた警官達は目を虚にさせ口から涎を垂らし、路上に寝転んでしまった。
 アトロピンの毒霧によって。

「ニコチン、わたくしが青洲先生のお力を疑うとでも? わたくしはただ、かの掃溜めから一刻も早く青洲先生を解放したいだけでございます」
「おーおー。オブラート……じゃねぇな。日本じゃ八ツ橋とか言うんだっけか? 破れて漏れてっぞ、毒」
「構いませんよ。電波障害により監視カメラの類いは全滅。後は記憶に残さなければ、なかった事と同じでございます」
「涼しい顔しといておっかねぇ野郎だ」

 自身の毒素に記憶障害の効果がある事を盾に、堂々と毒霧を使用し倫理観の欠いた暴論を吐くアトロピンに対して、ニコチンは不敵に笑いながら肩をすくめる。

「それで、方針は?」
「基本は隠密。合流が最優先。ただし相対すれば制圧、ですかね」
「シンプルで助かる」

 そこでニコチンは帯に挿していた拳銃を手に取ると、踵を返して今したが出たばかりの正門へ向き合った。

「再突入といくか」

 ◇

「青洲の旦那、外が騒がしくなってきたよ。派手に開錠したからねぇ、警察が来ているんじゃないかい?」
「放っておけ……」

 その頃、燐とパラチオンを連れた青洲は屋敷の地下通路を歩いていた。石壁を敷き詰めて作られた、坑道のような地下通路。
 そこをパラチオンに引きずらせている信徒の案内を受けつつ、アセトアルデヒドを捕らえているという座敷牢へ向かう。

「アセトアルデヒドさえ確保してしまえば、例え勾引されても……問題はない。釈放手続きに時間がかかるのが、難ではあるが……」

 木製格子が組まれた座敷牢。
 その前に辿り着いた青洲達であったが、牢の錠は外され扉は開いていて、中には誰もいない。もぬけの空だ。

「それよりも、ここは……アセトアルデヒドに続く通路では、なかったようだ……。……弁明まで5分、待とう」
「ほ、ほ、本当にここにいたんだ! 俺じゃない誰かが連れ去って」

 ゴキンッ!
 腕の骨が折れる鈍い音が、地下通路に響き渡る。見えない触手の手によって、信徒の腕はあらぬ方向に曲げられたのだ。

「ぎいあああああっ!!」

 次いで信徒から汚い悲鳴が発せられ、青洲は不快そうにしつつも信徒の顔を見下げた。

「しん、信じてくれ……! ここにいないんじゃ、俺にはわからない……っ!」
「ふむ……。偽りは、なさそうだな……」

 この信徒はアセトアルデヒドの行方を知らない。
 そうとわかるや否や、使えない情報源として見えない触手で首を絞め落とし気絶させ、「その辺に捨てておけ」とパラチオンにざっくりとした指示を出す青洲。

「地下に捕えるとは、厄介だな……。下手に壊せば崩落、してしまう。最短距離で向かえない、とは……」
「まどろっこしい。ウミヘビならば生き埋めになろうと耐えられる。崩落など気にせず道を作ってしまえ」
「掘り起こすのが、手間だ……。警察も、来ているのならば……地上で派手な行為は、避けるのが無難。だが念の為、先に国連警察に事情を……」

 そこで青洲は腕時計型電子機器を操作しようとして、電波が圏外になっている事に気付いた。少し地下を下った程度で電波が届かなくなる、なんて事はない。
 誰かの手によって意図的に、明確に妨害されている。

「……。連絡手段を断たれた、か……。アセトアルデヒドの位置も、把握しにくくなった。《ウロボロス》だけでなく、ステージ6の存在も、視野に入れなければ……」

 青洲はつい先程まで、アセトアルデヒドの正確な位置を把握できていた。しかし電波障害と共にそれも邪魔が入ったようで、大凡の位置しかわからなくなっている。だがこの屋敷の地下にいる事には変わらない。
 青洲は座敷牢の前から廊下へ移動し、

「ここを、進む」

 複数伸びる通路、随所に設置された階段。と、全貌が非常に把握しずらい作りとなっている地下通路を、進む決断をした。

「信徒曰く、ここは感染者の侵入を拒む……シェルターだった。よって恐らく、今でも作動する罠が、仕掛けられている……。決して、気を抜かないように……」

 ガシャン
 話している途中で妙な機械音がして、青洲が振り返ってみると、不用意に石壁に触れ、そこに仕掛けられていたトラバサミ状の拘束具に腕を挟まれたパラチオンがいた。
 鉄の刃に腕を挟まれても皮膚は傷付かず出血は回避できていたが、力任せに引っ張っても刃が食い込むばかりで外せず、身動きが取れなくなっている。

「おい。取れないのだが?」
「早速やっちまっているねぇ、パラチオン!」
「…………」

 下手に頑丈だからか、パラチオンは注意散漫だ。しかも反省の様子もない。この程度の罠にいちいち引っ掛かっていたら、無駄な時間を浪費してしまうというのに。
 ニコチンと共に車で待機をさせておくと喧嘩を始めそうなのもあり、どうせならば経験を積ませようと彼も連れて来たのだが、人選を間違えたかもしれない。
 青洲はマスク越しに額を押さえ、軽く後悔をしたのだった。
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