毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

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第十五章 平和が終わる日

第318話 世界三大希少石

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 ◇

 街の灯りがイルミネーションように輝く、美しい夜景が窓から拝めるマンションの一室。
 音楽再生機から流れるクラシックを聴き、安楽椅子に腰を下ろし、ワイングラスを片手に葡萄酒を味わうという、一人の夜を満喫しているのは……金髪金眼の医師、ルチルである。
 何せ今日はずっと連絡を待っていたモーズから連絡が届き、仮想空間内とはいえ会って話ができたのだ。ハミングを奏でたくなるほど気分がいい。
 、奏でていたかもしれない。

 不意に部屋のヨーロピアン壁紙、シックで華やかなダマスク柄が貼られた白壁が、鮮血でも浴びたかのように真っ赤に染まる。
 その“赤”は時間経過と共に厚みを増していき、やがて人型となり、シールがベリベリと剥がれるように、部屋の住民が一人増える。

「フルグライトがご立腹だったぞ、ルチル」

 暫くすると人型の“赤”は彩度を落とし、澄んだ海に似た水色の瞳をした男、ラリマーへと姿を変えた。
 手も足も、過不足なくある。五体満足だ。ルチルはにこやかに微笑んだ。

「ようやく本調子になれたようですね」
「はぐらかすな」

 ルチルの返答に呆れながら、ラリマーは部屋のシングルベッドを椅子代わりに座る。

「あのヒョロいのと通信したんだろう? だが通信をするだけして終わるとは何事だ」
「一応、お会いする約束はしましたよ? ええと、今は8月なので……3ヶ月後になるかもしれませんが」
「遠い。しかも確約ではないんだろう? 接触したのなら何が何でもアバトンから出せと、フルグライトがうるさいったらありゃしない」
「知りませんよ。ワタクシとフルグライトのスタンスは異なるのですから、聞く義理はありません」
「まだ拗ねているのか、お前は」

 フルグライトの話となると、ルチルはむすりと露骨に不機嫌になり、意固地になってしまう。
 人間でいう「嫌い」や「馬が合わない」という表現に当て嵌まる間柄なのだろう。

「ルチル。鶏血のやらかしで、幾つかの教団支部が潰されているんだ。『】も近いというのにこの騒ぎ。哀れな教祖様の為に一肌脱ぐ気はないのか?」
「ワタクシは鶏血がやらかした、とは思いませんがね。何せ鶏血はワタクシ達ではなし得なかったウミヘビ狩りを達成致しましたし、クスシの一人もあと一歩で抹消できそうでした。あの知力は今後も教祖様のお役に立ちますよ」
「しかし教団の解体が進んでいるのは事実。失態が成果に見合っていない」
「警察に捕えられているのは見込みのない《未成熟子》、大した痛手ではありません。既存の信徒を気にかけるよりも、新しく信徒を募った方がよほど有意義でしょう」

 そこでルチルは安楽椅子から立ち上がり、

「何より」

 指先操作でホログラム映像を壁に映し出し、そこに百を超える人間の顔写真を投影した。
 老若男女問わず並べられている顔写真。しかしその全てに切り裂くように赤いクロスマークが刻まれていて、彼彼女らは『対象外』である事を表している。

「《パパラチアサファイア》は未だ、候補さえ見付けられていない。信徒の整理が丁度よく進んでいる今こそ、最後の一つの捜索に力を入れた方がいい」
「そう上手くいくか? 連日、ペガサス教団はメディアに晒し物にされているというのに」
「勝手に広告を打ってくれて、寧ろ有り難いぐらいですよ? 注目を浴びている現状を利用しない手はない」

 ルチルが指先を、空中をなぞるように右から左についと動かす。
 するとホログラム映像の画面が切り替わり、各国で報道されている『天空の城事件』を起点とした、ペガサス教団のニュースの一覧を映し出した。

「ワタクシが進言するまでもなく、教祖様はもう動いています。きっと明日にでも、『伝導』が始まる」

 ルチルは口角をあげ、ニヒルに笑う。

「クスシもウミヘビも、民間人には強く出れない事は『天空の城事件』でわかりましたからね。躊躇せず実行できます」

 《原木》の暴走で被害が出てしまったものの、クスシもウミヘビも民間人である信徒には手出しできておらず、彼らによる被害はゼロ。いや暴力自体は振るわれていたが、過度な攻撃はできない様子だった。
 殺めるのは勿論、毒素を使う事も毒霧を使う事もできない。それはつまり、ウミヘビのアドバンテージを大きく削れるという事だ。

「また本部には、クスシを呼び込む“餌”があるのだとか。目論見通り誘い込まれてくれたのならば、また狩りができますね。ラリマー」
「餌? そんなものがあるのならば、何故いままで撒かなかったんだ」
「一度、細胞が死んだ人間を動かすのが難しかったからですよ。最近になってようやく安定したでしょう? 以前『ショール』に会った貴方ならば、わかると思いますが」
「ショール……。あのヒステリックか。《御使い》になったの自体は最近だというのに、デカい顔をして」
「まぁまぁ。『珊瑚』の進化が順調な事の方に喜びましょうよ。これでまた、《不老不死》へ近付けたのですから」
死霊使いネクロマンサーの間違いでは?」

 ラリマーは死者が《御使い》として横柄な態度を取っている事が不服なようで、歓迎する気はないらしい。

「その話振りだと、“餌”はショールと同類の《御使い》なんだな」
「えぇ、プロフィールありますよ。見ますか?」

 ルチルは再びホログラム映像の画面を切り替え、件の《御使い》の姿と簡単な経歴が書かれた文章を映し出す。
 経歴には《御使い》を採用した経緯や、主とする標的も書き込まれていて、それを読んだラリマーは顎に手を当て薄く微笑んだ。

「ほう。これは中々……悪趣味だな」
「まぁまぁ。人間の感情ほど、不合理なものはありませんからね。付け込まない手はないです」

 ルチルは安楽椅子に座り直し、ホログラム映像を眺めながら苦笑する。

「しかし同時に、人間の激情は不可能を可能にする事がある。どう転がるか、結果が楽しみですねぇ」
「ルチルお前、どこか楽しんでないか?」
「そんな事ないですよ、ラリマー」
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