412 / 600
第十九章 狂信者のカタリ
第399話 サンプル動画
しおりを挟む
「そっ、それは穏やかな話じゃないですね~」
「だろう?」
「うへぇ。それだけ大事になるかもなのに、なんで検問失敗しているんですかね~?」
そう言って、ビリーは肩を落としげんなりとする。
何故、動画の拡散を許してしまっているのか。どんな手を使っているのか。
マイクには一つ、心当たりがあった。
(……ステージ6)
珊瑚症感染者のステージ6には、電気系統が支配できる。
という情報がラボから上がっている。マイクが人工島アバトンへ足を運んだ時も、ステージ6の手が入っていると目される『フリーパス』があったからこそ、すんなりとネグラへ入る事ができた。
このようなセキュリティ突破の他、監視カメラ映像の記録にバグを発生させ消去。改竄。通信の遮断による意思疎通の阻害。と、判明している被害だけでも汎用性があるとわかる。
その能力を使い拡散した可能性は、大いにあり得る。
(まぁその情報はサイバー課も把握している。俺が口を出す事じゃない)
心の中でそう結論付けたマイクは、パソコンを操作し別の動画の再生を始めた。
その映像もまたアレキサンドライトが映ったものだ。
「あの~、マイク上官? 調査はサイバー課に任せるとか言っていましたけど、何でずっと動画見ているんです? ここは聞き込みとか……」
「アメリカ支部にヨーロッパの捜査権はない」
「えっ!? 捜査権を貰って話はどうしたんですか!?」
「ちゃんと人の話を聞け。ヨーロッパでの捜査権はない、という話だ。現場へ足を運んだり聞き込みをして回る事は出来ない。が、動画の分析ならばどこでも出来る」
困惑するビリーに対し、マイクは淡々と断言をした。
「折角、ホシ自ら動画を寄越しているんだ。じっくり学べるじゃないか」
動画視聴による分析。
それがマイクの現状の捜査方針なのだが、ビリーはどうも納得できていない様子だ。動画視聴だけで何がわかるのだと、目が言っている。若い彼は部屋から出ず、パソコンと睨めっこを続けるのも性に合わないのだろう。
「マイク上官。そもそもこれラボ側の自作自演って可能性は? 今の時代、フェイク動画とか幾らでも作れるでしょう? 国連を追い詰めたくてやっているとか! そうでなくとも真偽を確かめる為、って口実で入島できるじゃないですか! あの機密の塊のオフィウクス・ラボへ! これはチャンスですよ、チャンス!」
積極的に動きたいらしいビリーから告げられた提案に、マイクは硬直する。
次いで滑りの悪いブリキ人形のような動きで、マイクがパソコンの画面からビリーへ視線を移せば、ビリーは目を輝かせ「名案!」とでも言いたげな表情を浮かべている。
実際は名案どころか愚案もいい所だと言うのに。
「……安易に入島すれば、死ぬぞ」
「えっ」
「死ぬぞ」
真剣な目を向けられた上で、想定外の返答を聞いたビリーはたじたじになった。
死ぬ、とは強い言葉であり、比喩表現としてもよく用いられるが、これは決して冗談でも誇張表現でもない。何せ実際にマイクは、人工島アバトンで散々な目に遭ったのだから。
具体的に言うと、島内で摂取した栄養ドリンクに含まれたエタノールと、握手を交わしたシアナミドというウミヘビの毒素の合わせ技によって、急性アルコール中毒で昏倒した。
ほんの些細なスキンシップで意識が飛ぶほどの重篤な症状に陥った。それだけでも戦慄ものだというのに、後日ステージ6の情報共有の際に思わず苦言を口に出した所、担当したクスシ曰く「すごーくマシ」だと言うのだから目眩がした。
ウミヘビの巣窟では呼吸一つで命に関わる。
マイクは後で知ったが、クスシが全員フェイスマスクを付けているのは『珊瑚』の感染対策だけでなく、ウミヘビの毒ガス対策も含まれているのだとか。
それら苦い経験から、マイクは余程の有事がなければ人工島アバトンに近寄らない、と心に誓ったのだ。
「え、あ、はい……」
マイクの固い決意を読み取ってくれたらしいビリーも、渋々と言った様子で納得してくれた。
「そもそも実際に確認せずとも、こいつが偽物なのは明白だ。あの英雄は、例え嘘だろうとウミヘビを貶す事は絶対にしない」
「えっ? どうして言い切れるんですか?」
――決して、危険なだけではない。私達の力及ばない所に、手を貸してくれる。
――だから私は、感染者もウミヘビも救えるよう、足掻くよ。
アレキサンドライトの動画を見て思い起こされるのは、日本で事情聴取をした時、マイクが聞いたモーズ本人の言葉。
国連警察であるマイクに面と向かって、立場が悪くなろうとも構わず思いの丈をぶつけてきたモーズが、ウミヘビを『悪魔』などと言う筈がない。
二面性があるのでは、と提唱する者もいるかもしれないが、彼にそのような器用さは、ない。
故にマイクは断言できる。
「証拠能力はないが、こちらには確信できる材料がある。と言っておこう。だから真偽を確かめにアバトンへ向かうのは、完全に無駄足だ」
「そうなんですかぁ。でもただ動画見て分析して、で何が出来るんです? そんなのヨーロッパ支部もやっている事でしょうし……」
「そうだな。私達が動かなくとも、いずれ解決するかもしれない。が、先の報告会での捜査状況は芳しくないようだった。これこそチャンスだ、ビリー」
そこでにやりと、マイクは勝気な笑みをビリーに見せた。
「未だ誰も尻尾を掴めていないあいつをひっ捕え……。俺はのし上がる」
「だろう?」
「うへぇ。それだけ大事になるかもなのに、なんで検問失敗しているんですかね~?」
そう言って、ビリーは肩を落としげんなりとする。
何故、動画の拡散を許してしまっているのか。どんな手を使っているのか。
マイクには一つ、心当たりがあった。
(……ステージ6)
珊瑚症感染者のステージ6には、電気系統が支配できる。
という情報がラボから上がっている。マイクが人工島アバトンへ足を運んだ時も、ステージ6の手が入っていると目される『フリーパス』があったからこそ、すんなりとネグラへ入る事ができた。
このようなセキュリティ突破の他、監視カメラ映像の記録にバグを発生させ消去。改竄。通信の遮断による意思疎通の阻害。と、判明している被害だけでも汎用性があるとわかる。
その能力を使い拡散した可能性は、大いにあり得る。
(まぁその情報はサイバー課も把握している。俺が口を出す事じゃない)
心の中でそう結論付けたマイクは、パソコンを操作し別の動画の再生を始めた。
その映像もまたアレキサンドライトが映ったものだ。
「あの~、マイク上官? 調査はサイバー課に任せるとか言っていましたけど、何でずっと動画見ているんです? ここは聞き込みとか……」
「アメリカ支部にヨーロッパの捜査権はない」
「えっ!? 捜査権を貰って話はどうしたんですか!?」
「ちゃんと人の話を聞け。ヨーロッパでの捜査権はない、という話だ。現場へ足を運んだり聞き込みをして回る事は出来ない。が、動画の分析ならばどこでも出来る」
困惑するビリーに対し、マイクは淡々と断言をした。
「折角、ホシ自ら動画を寄越しているんだ。じっくり学べるじゃないか」
動画視聴による分析。
それがマイクの現状の捜査方針なのだが、ビリーはどうも納得できていない様子だ。動画視聴だけで何がわかるのだと、目が言っている。若い彼は部屋から出ず、パソコンと睨めっこを続けるのも性に合わないのだろう。
「マイク上官。そもそもこれラボ側の自作自演って可能性は? 今の時代、フェイク動画とか幾らでも作れるでしょう? 国連を追い詰めたくてやっているとか! そうでなくとも真偽を確かめる為、って口実で入島できるじゃないですか! あの機密の塊のオフィウクス・ラボへ! これはチャンスですよ、チャンス!」
積極的に動きたいらしいビリーから告げられた提案に、マイクは硬直する。
次いで滑りの悪いブリキ人形のような動きで、マイクがパソコンの画面からビリーへ視線を移せば、ビリーは目を輝かせ「名案!」とでも言いたげな表情を浮かべている。
実際は名案どころか愚案もいい所だと言うのに。
「……安易に入島すれば、死ぬぞ」
「えっ」
「死ぬぞ」
真剣な目を向けられた上で、想定外の返答を聞いたビリーはたじたじになった。
死ぬ、とは強い言葉であり、比喩表現としてもよく用いられるが、これは決して冗談でも誇張表現でもない。何せ実際にマイクは、人工島アバトンで散々な目に遭ったのだから。
具体的に言うと、島内で摂取した栄養ドリンクに含まれたエタノールと、握手を交わしたシアナミドというウミヘビの毒素の合わせ技によって、急性アルコール中毒で昏倒した。
ほんの些細なスキンシップで意識が飛ぶほどの重篤な症状に陥った。それだけでも戦慄ものだというのに、後日ステージ6の情報共有の際に思わず苦言を口に出した所、担当したクスシ曰く「すごーくマシ」だと言うのだから目眩がした。
ウミヘビの巣窟では呼吸一つで命に関わる。
マイクは後で知ったが、クスシが全員フェイスマスクを付けているのは『珊瑚』の感染対策だけでなく、ウミヘビの毒ガス対策も含まれているのだとか。
それら苦い経験から、マイクは余程の有事がなければ人工島アバトンに近寄らない、と心に誓ったのだ。
「え、あ、はい……」
マイクの固い決意を読み取ってくれたらしいビリーも、渋々と言った様子で納得してくれた。
「そもそも実際に確認せずとも、こいつが偽物なのは明白だ。あの英雄は、例え嘘だろうとウミヘビを貶す事は絶対にしない」
「えっ? どうして言い切れるんですか?」
――決して、危険なだけではない。私達の力及ばない所に、手を貸してくれる。
――だから私は、感染者もウミヘビも救えるよう、足掻くよ。
アレキサンドライトの動画を見て思い起こされるのは、日本で事情聴取をした時、マイクが聞いたモーズ本人の言葉。
国連警察であるマイクに面と向かって、立場が悪くなろうとも構わず思いの丈をぶつけてきたモーズが、ウミヘビを『悪魔』などと言う筈がない。
二面性があるのでは、と提唱する者もいるかもしれないが、彼にそのような器用さは、ない。
故にマイクは断言できる。
「証拠能力はないが、こちらには確信できる材料がある。と言っておこう。だから真偽を確かめにアバトンへ向かうのは、完全に無駄足だ」
「そうなんですかぁ。でもただ動画見て分析して、で何が出来るんです? そんなのヨーロッパ支部もやっている事でしょうし……」
「そうだな。私達が動かなくとも、いずれ解決するかもしれない。が、先の報告会での捜査状況は芳しくないようだった。これこそチャンスだ、ビリー」
そこでにやりと、マイクは勝気な笑みをビリーに見せた。
「未だ誰も尻尾を掴めていないあいつをひっ捕え……。俺はのし上がる」
0
あなたにおすすめの小説
女神の白刃
玉椿 沢
ファンタジー
どこかの世界の、いつかの時代。
その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。
女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。
剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。
大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。
魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。
*表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
ネクスト・ステージ~チートなニートが迷宮探索。スキル【ドロップ★5】は、武器防具が装備不可!?
武蔵野純平
ファンタジー
現代ファンタジー(ローファンタジー)です。ニート主人公のスキルは【ドロップ★5】――ドロップ確率が大幅上昇し、ドロップアイテムの品質も大幅上昇するチートスキルだった。だが、剣や盾などの装備品が装備出来ない欠陥があり、攻撃力、防御力に問題を残す。
ダンジョン探索をする為に冒険者となりパーティーメンバーを募集するが、なぜか【ワケあり】女性ばかり集まってくる。
初恋♡リベンジャーズ
遊馬友仁
青春
【第五部開始】
高校一年生の春休み直前、クラスメートの紅野アザミに告白し、華々しい玉砕を遂げた黒田竜司は、憂鬱な気持ちのまま、新学期を迎えていた。そんな竜司のクラスに、SNSなどでカリスマ的人気を誇る白草四葉が転入してきた。
眉目秀麗、容姿端麗、美の化身を具現化したような四葉は、性格も明るく、休み時間のたびに、竜司と親友の壮馬に気さくに話しかけてくるのだが――――――。
転入早々、竜司に絡みだす、彼女の真の目的とは!?
◯ンスタグラム、ユ◯チューブ、◯イッターなどを駆使して繰り広げられる、SNS世代の新感覚復讐系ラブコメディ、ここに開幕!
第二部からは、さらに登場人物たちも増え、コメディ要素が多めとなります(予定)
【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド
まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。
事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。
一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。
その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。
そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。
ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。
そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。
第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。
表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。
プライベート・スペクタル
点一
ファンタジー
【星】(スターズ)。それは山河を変えるほどの膂力、千里を駆ける脚力、そして異形の術や能力を有する超人・怪人達。
この物語はそんな連中のひどく…ひどく個人的な物語群。
その中の一部、『龍王』と呼ばれた一人の男に焦点を当てたお話。
(※基本 隔週土曜日に更新予定)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
やっちん先生
壺の蓋政五郎
大衆娯楽
昔は小使いさんて呼ばれていました。今は技能員です。学校ではやっちん先生と呼ばれています。
鎌倉八幡高校で技能員をしている徳田安男29歳。生徒からはやっちん先生と慕われている。夏休み前に屋上の防水工事が始まる。業者の案内に屋上に上がる。二か所ある屋上出口は常時施錠している。鍵を開けて屋上に出る。フェンスの破れた所がある。それは悲しい事件の傷口である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる