毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

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第二十章 真っ赤な嘘

第422話 種明かし

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「ユワ~っ!」

 ユワが変装を解いたのとほとんど同時に、枯れ木の向こうから姿を現したのは、徐福だった。
 彼は怒りに満ちた荒い足取りで、一直線にユワの元へ向かってくる。

「何で迎えに来ないのヨ! ショールに見付かってアタシ死ぬかと思ったヨ!!」
「もっ、申し訳ありません。後輩の成長が嬉しくて魅入ってしまい……っ!」
「そんなもんこれから幾らでも見れるだろうガッ!!」

 ユワが深々と頭を下げるその横で、徐福は手にした赤い扇子をぺしぺしと彼の腕や胴に打ちつけた。
 最も長身で屈強な体格を持つユワにとって、その衝撃は赤子がぽふぽふと叩いている程度の威力にしかならないが。
 しかも徐福が小柄な為、側から見るフリーデン達の目にも、小動物が大型犬に怒っているような光景にしか見えない。

「……あれ? その金魚のマスク……。もしかして、副所長です? うわ一年振りに見た」
「何だそのツチノコを見たかのような感想ハ。アタシは上司だぞ、上司」

 フリーデンに向けてふんぞり返る徐福。だが、身長178センチのフリーデンの目に、165センチの徐福はどうしても『子供』にしか見えなかった。
 中国人の中では特段低い訳ではないが、ドイツ人のフリーデンの目には、可愛らしいくらい小さく見えてしまうのだった。

「久し振りでも横柄な態度ぜんっぜん変わらないな……」
「何か言ったカ?」
「いっ、いえいえ! えっと、副所長は何でこんな森の奥に? 特別任務の経過見に来たんです?」

 フリーデンが恐る恐る尋ねると、徐福は心底面倒臭そうに肩をすくめた。

「説明しろト? 面倒だ、自分で考えロ」
「ええぇっ!? 無茶言わないでくださいよっ!」
「チッ。じゃあ説明してやるが、お前の特別任務はアタシの足だ、足。さっさと車に乗せロ」
「えぇ~っ!?」

 情けない声を上げるフリーデンを横目に、ユワが静かに頭を下げる。

「すみません、フリーデン殿。徐福先生はお疲れなのです。詳しいご説明はワタシが車内で語りますので、それでどうか、ご勘弁を」
「お、おぅ……」

 唐突に巻き込まれた形ながらも、敬意と優しさをもって対応するユワに、フリーデンはようやく落ち着きを取り戻すのだった。

 ◇

 人工島アバトンに向け、空を走る空陸両用車。
 その中では、運転は全自動フルオートに任せたフリーデン達が、左右の壁に沿って向かい合う形で設置された後部座席に座っていた。
 足を組んで堂々と座る徐福の隣で、ユワは謙虚な態度で事のあらましを話始める。ちなみにユワの事を未だに信用し切れないパラチオンは、アコニチンの隣で睨みを効かせているが。

「徐福先生は何年も前から、ペガサス教団に潜伏していたのです。特にここ半年は御使い……ステージ6と対等に話せる立場となり、教団の詮索を進めておりました」
「しょっちゅう留守にしていたと思ったら、そんな事を……。ってあれ? 半年前? 副所長、ラボがステージ6の存在知る前から把握してたって事ですか!?」

 オフィウクス・ラボが初めてステージ6と接触したのは、モーズ入所後。ドイツの菌床でオニキスと接触した時。
 それは3ヶ月前の出来事で、半年前と比べずっと最近だ。

「そうだガ? 何なら一年前から知っていたヨ」

 驚愕するフリーデンに対し、悪びれる様子もなく肯定する徐福。

「いやいやいや! 知っていたんなら何で報告してくれなかったんですか! そしたら俺達、対策とか研究とかもっと進められたのに!」
「軽率短慮、愚痴無知。下手にバラしたら情報源を探られ、アタシの潜伏が露見してしまうヨ。そしたらアタシの今までの積み重ねが水の泡ネ!!」
「お、おう。ええっとその、具体的に何してたんです?」
「教団に取り入る為、利益になる情報を流し、策を練り、しかしてラボの被害は最小限になるよう、常に取捨選択をしておりました。このバランスが難しかったですね。……どうしても、犠牲者が出てしまう事態もありましたし」

 話しながら、ユワは寂しげに目を伏せる。
 彼の脳裏に浮かんでいるのは、日本の菌床で壊れてしまったアトロピンだ。
 アトロピンに限らず、ユワは幾度もウミヘビを見送ってきた。最古故に、その経験は水銀に並ぶ。日本に向かう前、徐福は「犠牲は避けられない」とあらかじめ読んでいて、覚悟はしていたものの、仲間を失う喪失感は慣れるものではなかった。
 とは言え『ウミヘビを一匹片した』という成果を得たペガサス教団はラボへの報復を休止し、それ以上の被害は抑えられたのも事実。教団がウミヘビ狩りに躍起になっていたら、アメリカの超規模菌床に続き幾つもの悲劇が生まれただろう事は、想像に難くない。

(それに徐福先生は裏でモーズ殿を利用し、敢えて『珊瑚』を暴走させ、信徒を喰わせ、世間にペガサス教団の危険性を知らしめ、摘発する切っ掛けも与えた。あの時点では青洲殿も犠牲になるかわからなかったものの、それも視野に入れた上で、教団の力を可能な限り削ぎにかかっていた)

 ラボの損害を押さえながら教団へ功績を見せ、なおかつ教団の弱体化を狙う。至難の技だが、徐福はそれを幾つも置いた布石を利用しやり切った。
 想定外(※信徒達の独断行動や、アセトアルデヒド誘拐騒動など)が起きようとも都度軌道修正をし、最善を模索し続けた結果だ。

(座敷牢にアセトアルデヒドが入れられた時はどうしたものかと頭を抱えたし、心配になってつい声をかけてしまったなぁ。正体がバレなくてよかった。しかし彼が地下にいたからこそ、モーズ殿の救助がスムーズにいった。結果オーライというやつか。あの方が水槽に沈んだままだったらワタシが出る他なかったが、その後の信徒の対処が面倒だし、何より『珊瑚』にワタシの存在を把握される危険性があった。それを回避できたのは大きい)

 日本のペガサス教団集会所、その最下層。
 そこで信徒達に請われ水槽へモーズを落としたユワは、暗がりの中、密かに救助のタイミングを伺っていた。だが水槽の中にあるのは《覗き穴》。本尊に直接繋がっている菌糸ネットワーク。
 『珊瑚』の暴走を促すにはモーズを沈める他ないとは言え、認識阻害装置を駆使し秘匿を続けていたユワは、可能ならば水槽に入りたくなかった。どうか他のウミヘビが来てくれないかと願っていた所にアセトアルデヒドが現れた時は、酷く安堵したものだ。

 モーズの救出をしかと確認した後、徐福と合流しようと上層にあがったらパラチオンと鉢合わせたのは誤算だったが。
 しかもその所為で合流が遅れた結果、徐福が菌糸を止める様を信徒に見られてしまい、ユワはステージ6のフリをする羽目になってしまった。その方が、ステージ6の前で立ち回る徐福の正体が露見するよりマシだったから。
 とは言えユワが目立つのも、それはそれで危険。あの後、存在しないステージ6の噂が立たないか気が気ではなかったが、脅した信徒が黙っていてくれたのか菌床に飲まれ死んでいたのか、幸い何事もなく今日を迎えられた。

「損害を負っても、犠牲が出てしまっても。我々はあらゆる手を尽くして、教団の深部に入り込まなければなりませんでした。全ては、教祖に辿り着く為に」
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