ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき

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答えは

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「……答えは、半分くらいは出てたんです」

 体の関係の事は、最後の確認だった。
 隆晴りゅうせい直柾なおまさも、優斗ゆうとが嫌だと言えばしないでいてくれる。そう信じられる。
 だがそれでは、二人に我慢ばかりさせてしまう。それなのに自分ばかり好きでいて貰うのはあまりに酷いのでは……。

「出来ないから断るとか無しな?」
「っ……心、読みました……?」
「なんでだよ。お前、顔に出過ぎな」

 苦笑する隆晴に、優斗は頬に手を当てて“そうです?”と視線を彷徨わせた。

「そんな優くんも可愛いよ?」
「アンタは言葉にも出過ぎですよ」

 空気読んでください、と溜め息をつくが、直柾はニコニコと優斗を見つめた。

「優くん。答えは今すぐ出さなくていいよ。いつまででも待ってるからね」

 柔らかな声音でそう言う直柾に、フルフルと緩く首を横に振る。今答えないと、いつまでも優しさに甘えてしまう。

「どちらかを選んだら、どちらかを失うってことですよね」

 答えの半分は、もう出ていたのだ。

「俺にとっては、二人とも大事な人なので……出来ればこのまま、今まで通りでいられたらと……」
「今まで通り、は、無理かな」

 そう答えたのは直柾だった。

「君のお願いなら何だって聞いてあげたいけど、この想いを殺すことだけは出来そうにないよ」

 そう言って立ち上がり、悲しそうに眉を下げる。

「俺は君の恋人として、君のそばにいて、抱き締めたいんだ」

 恋人として、そばにいたい。
 それが叶わなくとも、この気持ちをなかった事にはしないで。
 腕を伸ばし、カウンター越しに優斗の頬に触れようとして……悲しげに笑い、そっとその手を下げた。

「ごめん。困らせたいわけじゃないんだ」

「ごめん、なさい……」

 優斗の口から震えた声が零れる。

 これが卑怯な答えだと分かっている。どちらも失わずに、想いにも応えずに、このままそばにいて欲しいだなんて。あまりにも虫が良すぎる。
 大事にして貰って好きでいて貰って、それなのに傷付けてばかりで。それでも、どちらかを選ぶ事が出来ない。

 俯き、グッと拳を握る優斗の耳に、隆晴の立ち上がる音が聞こえた。 


「優斗。選ぶ必要はないだろ?」
「先輩……。でも俺、先輩のことも直柾さんのことも大事で……ごめんなさい」

 俯いたまま声を絞り出す。すると、コツンと何かが頭に触れた。

「先輩……? っわ!」

 おずおずと顔を上げれば、今度は額を指で弾かれる。

「落ち着けって。前に言ったろ? お前が両方選ぶなら、それでいいって」
「あ……」

 優斗は目を見開いた。

 忘れていた。すっかり。
 いつの間にかどちらかを選ばなければと、そう思い込んでいた。いや、本当は選ぶべきなのだろうが。

「そんだけ悩むなら、一回付き合ってみればいいだろ。お試し期間ってことでさ」
「その手があったね」

 直柾がハッとした顔をする。

「どっちかを選ぶんじゃなくてさ、恋人として付き合えるかどうかを試す期間な」
「付き合えるかどうかを……」
「そうだね。優くんはもう、選べないって答えは出てるんだから」

 隆晴の言葉と、穏やかに笑う直柾。
 本当に、良いのだろうか。本当に、どちらも選んで良いのだろうか。どちらも失わずにいられるのだろうか。

「本当に、それでもいいんですか……? あっ、でも、倫理的に」
「それは交際中の相手がいる場合だよね。優くんはまだ誰とも恋人関係にないよ?」
「それは、そうですね」

「それに、倫理的に悪いなんてないと思うよ? どちらも大切ならそれは優くんが愛情深い証拠で、どちらも純粋で尊い愛だよ」
「そう、ですよね……」
「俺たちのどちらかに隠れて付き合うわけじゃないし、俺たちもそれがいいと思ってるから、これはみんなが幸せになる方法だよね」
「そう、ですよね」

 優斗はコクリと頷いた。そして自分の中で消化するように直柾の言葉を反芻する。

 隆晴は小声で直柾に話し掛けた。

「アンタ、今すぐ詐欺師になれますね」
「教師向きだって言ってよ」

 こんな教師がいてたまるか。と声には出さなかったが直柾には分かったらしく、今度教師役のオーディション受けてみようかな、と口の端を上げた。


 自分の中で整理が出来たのか顔を上げた優斗に、直柾は柔らかな笑顔を向ける。

「これから恋人として、よろしくね、優くん」
「よろしくな、優斗」
「は、はい、よろしくお願いします」

 カウンター越しに笑顔を向ける二人に、優斗はパッと花が咲くように笑った。

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