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恋人として
耀と話して、随分心が軽くなった。
大事なのは相手を好きかどうか、信じられるかどうか。
落ち着いて考えてみれば、二人の今までの優しさは嘘ではないと心から信じられる。本当に勿体ない程に大切にしてくれる。誰よりも信じられる人たちだ。
そんな二人を疑ってしまった罪悪感に襲われ、枕に額をグリグリと押し付けた。
そもそも男で胸も色気もない自分にそんな気持ちを抱いているかは分からないが、もしそうだとしても、二人を嫌いになる事はない。気持ちが悪いとも思わない。
だからといって、そういう行為が出来るかと言われたら……。あれ?、と優斗は首を傾げた。
まず想像が出来ない。男同士って何をするのかな? 触り合ったりキスしたり? うーんと唸り、調べてみようとスマホを手に取る。
“そもそも恋人とは?”という知識を付けなければ、断るにしても、真剣に想ってくれる二人に失礼だと思った。
……知識として、と勉強のつもりで調べた優斗は、酷く衝撃を受けた。
男同士って、あれを、まさか、そんな……。
「無理……」
画面を消し、また枕に顔を埋める。
無理。無理がある。万が一にも恋人になるとしても、あれは無理だ。
いや、あの二人が男同士の事を知らない可能性もある。……0.001%くらいは。
それに、自分が受け入れる側だとは限らない。…………0.00001%くらいは。
「……無理、って素直に言ってみようかな」
優斗は深い溜め息をついた。きっと黙って避け続けるよりずっと良い。
悩みに悩んで、優斗はスマホを開きメールで送られてきた直柾の予定を確認する。
それから自分の予定と照らし合わせて直柾に改めて確認を取ってから、隆晴に三人で会える日はないかと連絡をした。
そして、一週間後。
「お二人に、確認したいことがあります」
直柾と隆晴をダイニングの椅子に座らせ、ひとまずお茶を出して、優斗はキッチンから話す。
このくらいの距離とキッチンという障害物がなければまともに話せない。イケメン自覚してください。優斗は真顔で主張した。
二人は頷きながらも、告白をするまでは普通に顔を見て話せていたのに、と思う。意図的に迫る時以外は、だが。
これは何とも……良い傾向。二人は同時に思った。
「確認したいこと、って何かな?」
「え、っと……俺は、性別も体も男なのですが」
まずそう言うと、二人はキョトンとした。
「知ってるよ?」
「今更何かと思えば」
隆晴に至っては心底呆れた顔をする。その反応が今まで通りで、少しだけ肩の力が抜けた。
「それから、その……、……肉体的なことは、して欲しくないんですけど……。それでも、好きだと思ってくれますか……?」
「っ……、勿論だよ」
「……当たり前だろ?」
「……何ですか、今の間は」
やはりそれは駄目だろうか。優斗は戸惑った顔をした。
「いや、優斗の口から肉体的なこと、とか出たら驚くだろ」
「天使みたいに可愛いからね」
隆晴は片手で顔を覆い、直柾はふわふわと笑う。いつの間にか天使になっている。優斗は真顔で唇を引き結んだ。
そんな天使な優斗は、二人が違う意味で一瞬悶えた事に気付かなかった。
「俺が好きになったのは、優くんの優しいところだからね」
「俺は、お前のほっとけないところだな」
そう答える二人に、優斗はホッと胸を撫で下ろす。……が。
「まあ、肉体関係も期待しないわけじゃないけど。好きな子には触りたいもんだしな」
「せ、先輩……」
「そんな顔すんなって。お前の嫌がることはしねぇよ。俺、お前の笑ってる顔好きだし」
「っ……」
「あ、今惚れた?」
ニヤリと笑う隆晴がやけに格好良く見えて一瞬息を呑んでしまう。……今のは心臓にきた。不意打ちは良くない。
「優くんっ。俺も、優くんの笑顔が好きだよ? 優くんのことが大好きだよ」
「ちょっと、空気読んでくれません?」
「読んだから割って入ったんだけど?」
慌てた様子で会話に入った直柾は可愛く見えて、今度は胸がほわりとした。いつも穏やかな人が焦って早口になるの、可愛い。
――だから、絆されたら駄目だって……。
好きと言われてから今まで気付かなかった事にも気付いてしまう。だがそれは、雰囲気に流されているだけかもしれない。
流されずに、きちんと話して、考えて、答えを出したかった。
「あの……、直柾さんも、そういうことしたいと思ってますか……?」
何となく、直柾はそんな欲はないように思っていた。役柄では積極的でも、直柾本人はそんな事はないと。
優斗の問いに、直柾は困ったように笑う。
「……それは、ね。俺も男だし、優くんの全てが欲しいから。でも、優くんの一番で特別な人になれたら、それだけで充分すぎるほど幸せだよ?」
「直柾さん……」
裏切られた、……というより、妙に腑に落ちた心地がした。時々見せる切なげな表情の正体が分かり安堵したような、彼も同じ人間なのだと身近に感じたような、そんな感覚。
「ありがとうございます。これでしっかり考えられます」
優斗が笑うと、二人は一度目を瞬かせ、安堵したように笑った。
「そこまで考えてくれてたんだな」
「……はい。恋人がどういうものか、きちんと理解してから返事をしたいと思ったので……」
「そっか。ありがとな」
隆晴はそっと目を細める。いつもならここで頭を撫でられるのに、キッチン越しでそれがないのが少し寂しかった。
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