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番外編4
しおりを挟む「かっ……わいぃぃ~~」
「可愛いだろう? あの頃のジンを聖者様にも見せてあげたかったよ」
「見たかったーー!」
しぃにーちゃんとずっと一緒にいたいの……。
そんなのずっと一緒にいるだろ。なんなら抱えて帰って抱き枕だろ。
ちっさなジンってあったかくて柔らかそうだし、頬ももちもちふわふわしてそう。安眠確約、いざ幸せな夢の旅へ。
「いいなー……子供のジン抱えて寝たい……」
想像して頬が緩む。隣でシグルズが落ち込んだ気配を感じて、ぎゅっと手を握った。
「シグルズは大人でも可愛いからいいんだよ」
「……そうか」
安堵した声がして、すぐに抱き締められる。いや、シオン様の前だから俺は手しか握らなかったんだけどな。
「ジンは、覚えているかな」
国王になってもシオン様は優しいままだ。俺たちを不敬だと言うこともなく、下を向いてるジンに声を掛ける。
「……申し訳ありません。陛下には、大変なご無礼を……」
ジンの声が震える。
王侯貴族のいる国で育ったなら、不敬の感覚は俺とは比べ物にならないはず。シグルズが特殊なだけで、ジンの反応が普通なんだ。
今もシオン様を好きだということが、きっと余計にジンを怖がらせている。国王に本気で恋をしてると知られてしまったら。拒絶されたら。そう考えて、震えてるんだ。
「……私には、幸せな日々でしかなかったよ」
俺が口を挟む前に、シオン様はそう言って寂しげに笑った。
「すまない。そろそろ仕事に戻らなければ……。また、明日の正午に会えないだろうか」
今度はもっと時間を作ると約束してくれたシオン様は、出て行く直前にジンへ視線を向ける。
「ジン。明日は、しぃにーちゃんと呼んでくれたら嬉しいな」
「!?」
ガバッと顔を上げて固まるジンに、シオン様はとても優しい笑顔を見せてから、部屋を出て行った。
◇◇◇
シグルズと相談して、今日もジンを屋敷に泊めることにした。
徹夜な上に、さっきの緊張と衝撃。顔色も悪いし、夜まで待たずに今すぐに寝かせたい。
「すみません、アオ様……緊張して上手く話せなくて……」
「俺の方こそごめんな。気まずくならないようにするって約束したのに」
「いえ……アオ様のお気遣いのおかげで、気まずくはなってません。俺が明日のことで気まずくなってるだけで」
ジンは真顔で震える。今のジンに、しぃにーちゃん呼びは過酷だよな……。
「シグルズ。シオン様って、冗談が下手なタイプ?」
「いや、冗談も皮肉も効果的に使うが、あれは……」
シグルズは難しい顔をして、溜め息をつく。
「本音だ」
まさかの。
「ジンジャーに他人行儀にされて寂しいんだろう」
「あー……」
「大方、王都へ戻る時は初対面のふりをしていただけと考えていたんだろう。だが、今もジンはあの反応だ。戸惑いと、寂しさと悲しみ、といったところか」
勘だが、とシグルズは言うけど、確信した顔をしていた。
「陛下を信頼して任せてみたが、全く話にならない。言葉も勇気も足りないからな。私も口を出させて貰う」
シグルズに言われるって相当だな。特に言葉足らず。まあ今のシグルズは、思ったことをちゃんと言ってくれるようになったけど。
「でもさ、シオン様がジンを、昔みたいに大事に想ってるってのは分かったな」
恋心があるかはまだ分からないけど、昔のジンとの思い出を語るシオン様は、すごく幸せそうだった。
「明日はもっと時間取れるって言ってたし、シオン様としっかり話をしような」
「…………はい」
いつもポジティブだったジンが、不安な顔をしてうつむく。
二人はもし両想いでも、すぐにハッピーエンドってわけにはいかない。
シグルズが言ってたけど、身分の高い人は直系の子孫を残すことが義務のようなものらしい。だからシオン様が出してくれた俺とシグルズの婚姻許可書類も、特例中の特例だった。
想いが叶うことを、ジンは望んでいない。
それは、国王になったシオン様と……この国に生きる人たちのためだ。
ジンはただ、シオン様が好きだと伝えて、これからは敬愛をもってシオン様に仕えると、きちんと笑顔で言いたいんだろう。
「よし。じゃあひとまず、風呂入って緊張解そっか」
「えっ、あのっ」
ジンの手を引き、グイグイと引っ張っていく。
部屋にもバスタブはあるけど、やっぱリラックスするならあの大浴場だよな。
「背中流して、マッサージもしてやるからな~」
「!? アオ様にそんなことっ……」
「アオバ。君は上半身だ。下は私がやる」
「おっけー」
「シグルズ様!?」
慌てるジンを二人で運び、背中も腕も洗って、湯船に浸かって他愛ない話をした。
しっかり温まってからベッドでマッサージされたジンは、「だめなのに……」と最後に呟いて、すーすーと寝息を立て始めた。
最近ノリでお互いをマッサージしてた俺たちの技術が、まさかここで生かされるとは。
「……ジンには、幸せになって欲しいよな」
「当然だ」
シグルズは即答して、ジンにそっと布団を掛ける。
多分シオン様も、ジンの幸せを願ってるはずだ。
シオン様ならきっと、解決策を見つけてくれるはず。
……もしシオン様が、王妃は女性を迎えるし子供も作るけど、愛してるのは王妃じゃなくてジンだしジンだけだから側室になって欲しい。
なんて、ジンとその女性どっちも傷付けるようなこと言い出したら、パキュたち呼び寄せて城から放り出すけどな。
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