触手生物に溺愛されていたら、氷の騎士様(天然)の心を掴んでしまいました?

雪 いつき

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番外編3

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 翌日の正午。俺は、王城の応接間にいた。
 パキュロスで乗り込んでない。ちゃんとシグルズに頼んで、謁見の許可を貰った。そう、謁見だ。

「あ……アオ様……」

 俺の隣で、ジンが顔を青くして震える。昨日ジンが帰る前に謁見の話を伝えてから、ずっとこんな感じだ。
 あまりに震えるから馬で帰らせるのが怖くて、昨夜はシグルズの屋敷に泊めた。俺が瞬眠するのと同じベッドでも、ジンは一睡も出来なかったらしい。

「早めの方がいいかなって思ったんだけど、むしろ今朝とかに伝えた方が良かったかな」
「それはそれで死にますっ……」

 わっと叫んで顔を覆った。


 ジンはまだ、この一ヶ月でシオン様と私的に話せていない。
 革命の功績で、シオン様から騎士爵を賜ったと言っていた。でもまだ別の場所で、護衛騎士になる勉強中だ。
 シグルズの同僚になるのかと思ってたけど……驚くことにシグルズは、前国王の護衛が仕事なのに、護衛騎士じゃなかったらしい。

 ジンが正式にシオン様の護衛騎士の任務に就いたら、シグルズは騎士団の総団長に任命されるそうだ。

「なんかさ、二人ともすごい出世するよな」
「聖者が何を言う?」
「聖者って、体感的にいまいちどんな地位か分かんないんだよ」
「神の国から来た、神の使者だ」
「えっ……俺、すごくない?」
「最初からそう言っている」

 そういえば、日本は神の国の名前だ、とか言ってた気がする。

「神の使者か。……俺、天使じゃん」
「……ああ」
「ツッコミ諦めた顔しないで、つらい」

 そんな会話をしてると、ジンが楽しそうに笑う。緊張、解けたみたいだな。


 そこでタイミングを見計らったように、ノックの音が響いた。

「聖者様、ご無沙汰しております」
「シオン様、お久しぶりです。その節はお世話になりました」

 主に慰謝料で。本当にたくさんありがとうございました。

「国王になられてご多忙の中、貴重なお時間をいただきありがとうございます。……早速本題なんですが。シオン様は、ジンの実家を覚えていますか?」

 前半、つい営業の時のクセが出てしまった……。シグルズの視線を感じて横目で見ると、きちんと挨拶が出来るのか、と言わんばかりに俺を凝視していた。
 シオン様も一瞬目を見開いたのは、シグルズと同じ理由か、ジンの実家の話をしたからか。

「……ジンから聞いたのかな」

 あ、ジンの話に驚いてたのか。やっぱ、俺を頭弱そうって思ってるのはシグルズだけだよな。


「勿論覚えているよ。小さなジンが、私と離れたくないと言って大泣きしてご両親を困らせていたことも、昨日のことのようにね」
「えっ、ジンかわ」
「あのっ、でん、陛下っ……」
「あの頃は、しぃにーちゃんと呼んでくれて可愛かったな」
「なにそれ天使か~~」

 しぃにーちゃん、って言いながら、にこぉって笑うジンとか天使でしかない。リアル神の使い。すぐに想像出来て頬が緩んでしまう。

「……私も幼少期は、顔は可愛かった……と思う」
「控えめ。分かるよ。シグルズは、白銀の天使な。美し可愛い天使」

 そう言うと、シグルズは嬉しそうに目を細めて俺の手を握った。どんな条件でも俺の一番になりたがるシグルズ、本当可愛すぎる。

 そういやシオン様、はぐらかしたりしなかったな。
 ……そっか。革命も終わったし、もう俺に隠す必要ないもんな。ジンの昔話してくれるくらいに信頼して貰えたなら、すごく嬉しい。

「聖者様。少しだけ昔のジンの話を聞いてくれないかな」
「ぜひ!!」

 即答する俺にジンはあうあう言ってたけど、俺とシオン様を止められないと思ったのか、隣でただ項垂れて「そんなに小さい頃じゃないんです……」とだけ呟いた。



◆◆◆



「しぃにーちゃん!」

 数ヶ月ぶりにパイの店を訪れたシオンに、ジンジャーは顔を輝かせて飛びついた。
 ジンジャーの母親はいつものように、「後でパイを持っていくわね」と言ってシオンを二階の生活スペースへと通した。
 まだ社交界にも出ていないシオンの顔は、国民には知られていない。役立たずの第二王子として家族から冷遇されているのだから、貴族でさえ知る者は少なかった。

「ジン、久しぶりだね。元気にしてた?」
「うんっ。……でもね」

 ジンジャーはしゅんと眉を下げる。

「しぃにーちゃんに会えなくて、さみしかった……」

 まるい瞳がシオンを見上げる。

「……僕も、寂しかったよ」

 シオンはたまらずにジンジャーを抱き締めた。


 いなくて寂しいなど、初めて掛けられる言葉だった。
 王宮ではいてもいなくても構わない存在で、母親を亡くしてからは、誰からも本物の笑顔を向けられることはなくなった。
 王子だから、丁重に扱われる。ただそれだけの存在。

「ジンは……僕のことが、好き?」
「うんっ、だいすきっ」

 嘘偽りのない言葉。笑顔。全身で好きだと伝えてくれる。

「僕も、ジンのことが大好きだよ」

 もしこの家に生まれていたら。ジンジャーが弟だったら。そんなもしもを考えてしまう。
 広く冷たい部屋で眠る時、隣にジンジャーがいてくれたら。この暖かさが、ずっとそばにいてくれたら。そんな叶わないことを想像しながら、虚しくも幸せな気持ちで眠りにつくのだ。

「ジンは、暖かいな……」

 人は優しく温かいものだと教えてくれたのは、この店とジンジャーだ。だが、あと数年もすれば、ジンジャーはこんな風には抱き締めさせてくれなくなるだろう。
 大人になって、誰かと恋をして……そうしたら、たまにしか会えない自分のことなど、きっとすぐに忘れてしまう。


「……しぃにーちゃん」

 クイクイと服を引っ張られ、名残惜しいがジンジャーを離す。ジンジャーは何故かモジモジして、そっとシオンを見上げた。

「あのね……ぼく、しぃにーちゃんの……お嫁さんになりたい」
「……お嫁さん?」

 聞き間違いかと思い、聞き返すと、ぱっちりとした瞳はじわじわと潤んでいく。

「だめ……? ぼく……お嫁さんになって、しぃにーちゃんとずっと一緒にいたいの……」

 仲良しの両親のように、シオンと結婚すればずっと一緒にいられると思った。
 返事を不安そうに待つジンジャーを、シオンは腕いっぱいに抱き締める。こんなにも暖かな気持ちをくれるジンジャーの願いなら、今すぐにでも叶えてあげたい。ずっと一緒にいたいのは、シオンも同じだ。

 だが、ジンジャーはまだ子供で、これから先、他の誰かと恋に落ちるかもしれない。
 シオンも、弟のようなジンジャーを伴侶として愛せるか、急には答えられなかった。


「ジン……。僕も、ずっと一緒にいたいよ。でも、僕のお嫁さんになったら、この家を出ないといけないかもしれないんだ」

 それでも、これからもずっと一緒にいたい気持ちが口を動かす。
 役立たずの第二王子でも、結婚相手とは王宮で暮らさなければならないかもしれない。ただ、相手が平民だとしても……むしろ、権力のない相手との結婚なら、父親も兄も反対はしないと思えた。

「それでも、お嫁さんになってくれる?」
「う……うう~~……うんっ!」

 ジンジャーはしばらく唸り、突然ハッとして大きく頷いた。

「しぃにーちゃんと一緒に、ときどき実家に帰らせていただくのっ」
「うーん、どこで覚えたのかなぁ」

 両親の喧嘩中か、店の客か。この様子だと、修羅場を見たわけではなさそうだ。
 苦笑するシオンを、ジンジャーはキョトンとして見上げる。浮かんでいた涙はすっかりなくなり、太陽のような明るい色がシオンを映す。


「……ずっと僕だけを見ててくれる?」
「! うんっ!」

 迷いのない答えが、自分だけを映す瞳が、シオンの覚悟を決めさせた。

「それなら……僕が、ジンのお婿さんになるよ」

 役立たずの王子なら、市井に下ることを許されるかもしれない。子を成せない結婚なら、兄や、兄の後継者の王政を脅かすこともない。
 王族の地位に未練はない。あの場所には、どこにも居場所などないのだから。

 この家の家族になる。想像するだけで胸が温かくなる。そんな未来、考えたこともなかった。



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