触手生物に溺愛されていたら、氷の騎士様(天然)の心を掴んでしまいました?

雪 いつき

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番外編2

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「わぁ、アオ様、愛されてますね~」

 考えてた本人が現れた。

「それな~」

 いやもう、愛されすぎて幸せだ。
 シグルズの屋敷の料理人が持たせてくれたトロピカルジュースの瓶は、ピキュがずっと湖で冷やしてくれている。
 さっきはフォークとナイフを器用に使って、ギキュがサンドイッチを食べさせてくれた。
 腹が冷えすぎないように、キキュの触手がブランケットの上にそっと乗っている。

「パキュロスの聖者、幸せ~~」
「聖者が、護衛も付けずに……」

 後からやってきたシグルズが溜め息をつく。

「いざとなったら、パキュたちが俺を抱えて全力疾走してくれるもんな?」

『ピィ!』

『キィ!』

『ギギィ!』

 任せろ! と言うようにパキュたちが触手を天に突き上げた。


「水棲、足速いですもんね。……足?」

 ジンがピキュの足元を見る。残念ながらそこに足はない。

「足ならキキュが作れるよな。森の入り口からここまでも、キキュが滑らかなすり足で運んでくれたし」
「すり足……?」

『キィッ』

 キキュは触手を集めて、スッと立ち上がった。そして、雅な足取りを再現してみせる。

「ますます器用になるな」
「最初はこんな感じじゃなかったっすよね……」
「最初の頃はな」

 森に一歩入った瞬間に大歓迎され、まるで胴上げのようにしてパキュたちに運ばれていた。

「最近、すごい優しく運んでくれるんだよ」

 滑らかな動きで湖のそばに運んでくれて、あれよあれよという間にこのバカンススタイルが出来上がった。これは遠くの海辺に棲むピキュから教えて貰ったらしい。


『ピィ』

『ピィピィ』

 俺を乗せてくれてるピキュが、湖から出てきたピキュと交代して、同じように俺をぽよりと上に乗せた。

「すごい……温まる前に交代するんですね」
「ってか、ピキュが乾いちゃうからな」

『ピィ……』

「……そうだった、と言っているが」
「えっ、ピキュ、気付いてなかったっ? 無理しなくていいからな? もっと自分を大事にしてくれよ?」

『ピィ、ピィ~~』

「優しい、大好き、だそうだ」
「シグルズ様、すっかり通訳に……」

 恋人になったはずなのに、とジンはシグルズの立ち位置に憐れみの視線を向ける。
 ピキュに抱き締められてべちゃべちゃにキスされながら、俺は首だけ動かしてシグルズを見た。

「ちゃんと恋人もしてるもんな?」
「ああ。昨夜もアオバが」
「言わなくていいからな~」

 情事の詳細なんて聞かされたら、ジンも本気で困るだろ。
 ……まあ、俺もちょっと調子に乗って、シグルズの上にも乗って、蓄えた神聖力が全部なくなったうえに意識飛ばして、目が覚めたら朝だったけど。


「シグルズってさ、見た目通りに絶倫だよな」
「体力には自信がある。騎士だからな」
「普通の返事がくるとは思わなかった」
「情事のことは言わなくていいと言われたからな」
「あー……」

 これは意地悪じゃなくて、天然の方だ。
 最近のシグルズは、俺の自惚れじゃなく、愛されて満たされてるって感じで時々こんな風にふわふわしている。

「シグルズって、可愛いよな」
「君の方が可愛い」
「なんで対抗すんだよ」

 むっとするシグルズに、つい笑ってしまった。


「……そうだった。君に話がある」
「あ、例の件?」
「ああ。明日の正午だ」
「了解。ありがとな、シグルズ」

 顔を近付けるシグルズの頬に、キスをする。

「シグルズ様とアオ様が、ちゃんと恋人に……!」
「まぁ、もう一ヶ月経つからな。ジンはそろそろ、俺のことアオって呼べそう?」
「えっ、…………アオ、……様」
「まぁ、まだ一ヶ月だからな。そのうち呼びたくなったら呼んでな?」
「はいっ、一年後くらいにっ」

 元気に答えるジンの頭を、手を伸ばして撫でる。
 俺、寝そべってて偉そうな体勢だけど、ピキュに抱き締められてて動けないんだよな……。


「肉型パキュロスは、器用だな」

 湖で冷やされた瓶を、吸盤の触手でしっかりと掴む。そして蓋を開け、グラスにジュースを丁寧に注いだ。

「吸盤があるからな。自分で粘液も抑えられるんだってさ。すごいだろ」
「アオ様、我が子自慢みたいっすね」
「パキュロスは……私とアオバの子……?」
「真顔怖いって」
「私たちの子だと思えば、可愛いものだな」
「ちゃんと比喩だったか。てか、子供とアレコレするとかやばいし」
「神話ではよくある」
「よくあっちゃ駄目だろ……」

 神様の事情とか倫理観は知らないけど。
 そんな話をして、シグルズとジンもピキュのベッドに揺られて、ゆったりとした休日を過ごした。

 今日は、しっかりと鋭気を養おう。

 ……明日は、決戦だ。



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