31 / 38
番外編2
しおりを挟む「わぁ、アオ様、愛されてますね~」
考えてた本人が現れた。
「それな~」
いやもう、愛されすぎて幸せだ。
シグルズの屋敷の料理人が持たせてくれたトロピカルジュースの瓶は、ピキュがずっと湖で冷やしてくれている。
さっきはフォークとナイフを器用に使って、ギキュがサンドイッチを食べさせてくれた。
腹が冷えすぎないように、キキュの触手がブランケットの上にそっと乗っている。
「パキュロスの聖者、幸せ~~」
「聖者が、護衛も付けずに……」
後からやってきたシグルズが溜め息をつく。
「いざとなったら、パキュたちが俺を抱えて全力疾走してくれるもんな?」
『ピィ!』
『キィ!』
『ギギィ!』
任せろ! と言うようにパキュたちが触手を天に突き上げた。
「水棲、足速いですもんね。……足?」
ジンがピキュの足元を見る。残念ながらそこに足はない。
「足ならキキュが作れるよな。森の入り口からここまでも、キキュが滑らかなすり足で運んでくれたし」
「すり足……?」
『キィッ』
キキュは触手を集めて、スッと立ち上がった。そして、雅な足取りを再現してみせる。
「ますます器用になるな」
「最初はこんな感じじゃなかったっすよね……」
「最初の頃はな」
森に一歩入った瞬間に大歓迎され、まるで胴上げのようにしてパキュたちに運ばれていた。
「最近、すごい優しく運んでくれるんだよ」
滑らかな動きで湖のそばに運んでくれて、あれよあれよという間にこのバカンススタイルが出来上がった。これは遠くの海辺に棲むピキュから教えて貰ったらしい。
『ピィ』
『ピィピィ』
俺を乗せてくれてるピキュが、湖から出てきたピキュと交代して、同じように俺をぽよりと上に乗せた。
「すごい……温まる前に交代するんですね」
「ってか、ピキュが乾いちゃうからな」
『ピィ……』
「……そうだった、と言っているが」
「えっ、ピキュ、気付いてなかったっ? 無理しなくていいからな? もっと自分を大事にしてくれよ?」
『ピィ、ピィ~~』
「優しい、大好き、だそうだ」
「シグルズ様、すっかり通訳に……」
恋人になったはずなのに、とジンはシグルズの立ち位置に憐れみの視線を向ける。
ピキュに抱き締められてべちゃべちゃにキスされながら、俺は首だけ動かしてシグルズを見た。
「ちゃんと恋人もしてるもんな?」
「ああ。昨夜もアオバが」
「言わなくていいからな~」
情事の詳細なんて聞かされたら、ジンも本気で困るだろ。
……まあ、俺もちょっと調子に乗って、シグルズの上にも乗って、蓄えた神聖力が全部なくなったうえに意識飛ばして、目が覚めたら朝だったけど。
「シグルズってさ、見た目通りに絶倫だよな」
「体力には自信がある。騎士だからな」
「普通の返事がくるとは思わなかった」
「情事のことは言わなくていいと言われたからな」
「あー……」
これは意地悪じゃなくて、天然の方だ。
最近のシグルズは、俺の自惚れじゃなく、愛されて満たされてるって感じで時々こんな風にふわふわしている。
「シグルズって、可愛いよな」
「君の方が可愛い」
「なんで対抗すんだよ」
むっとするシグルズに、つい笑ってしまった。
「……そうだった。君に話がある」
「あ、例の件?」
「ああ。明日の正午だ」
「了解。ありがとな、シグルズ」
顔を近付けるシグルズの頬に、キスをする。
「シグルズ様とアオ様が、ちゃんと恋人に……!」
「まぁ、もう一ヶ月経つからな。ジンはそろそろ、俺のことアオって呼べそう?」
「えっ、…………アオ、……様」
「まぁ、まだ一ヶ月だからな。そのうち呼びたくなったら呼んでな?」
「はいっ、一年後くらいにっ」
元気に答えるジンの頭を、手を伸ばして撫でる。
俺、寝そべってて偉そうな体勢だけど、ピキュに抱き締められてて動けないんだよな……。
「肉型パキュロスは、器用だな」
湖で冷やされた瓶を、吸盤の触手でしっかりと掴む。そして蓋を開け、グラスにジュースを丁寧に注いだ。
「吸盤があるからな。自分で粘液も抑えられるんだってさ。すごいだろ」
「アオ様、我が子自慢みたいっすね」
「パキュロスは……私とアオバの子……?」
「真顔怖いって」
「私たちの子だと思えば、可愛いものだな」
「ちゃんと比喩だったか。てか、子供とアレコレするとかやばいし」
「神話ではよくある」
「よくあっちゃ駄目だろ……」
神様の事情とか倫理観は知らないけど。
そんな話をして、シグルズとジンもピキュのベッドに揺られて、ゆったりとした休日を過ごした。
今日は、しっかりと鋭気を養おう。
……明日は、決戦だ。
71
あなたにおすすめの小説
「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。
猫宮乾
BL
異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。
【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる
おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。
知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした
こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。
異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます
野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。
得た職は冒険者ギルドの職員だった。
金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。
マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。
夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。
以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。
魔王に転生したら幼馴染が勇者になって僕を倒しに来ました。
なつか
BL
ある日、目を開けると魔王になっていた。
この世界の魔王は必ずいつか勇者に倒されるらしい。でも、争いごとは嫌いだし、平和に暮らしたい!
そう思って魔界作りをがんばっていたのに、突然やってきた勇者にあっさりと敗北。
死ぬ直前に過去を思い出して、勇者が大好きだった幼馴染だったことに気が付いたけど、もうどうしようもない。
次、生まれ変わるとしたらもう魔王は嫌だな、と思いながら再び目を覚ますと、なぜかベッドにつながれていた――。
6話完結の短編です。前半は受けの魔王視点。後半は攻めの勇者視点。
性描写は最終話のみに入ります。
※注意
・攻めは過去に女性と関係を持っていますが、詳細な描写はありません。
・多少の流血表現があるため、「残酷な描写あり」タグを保険としてつけています。
【完結】おじさんダンジョン配信者ですが、S級探索者の騎士を助けたら妙に懐かれてしまいました
大河
BL
世界を変えた「ダンジョン」出現から30年──
かつて一線で活躍した元探索者・レイジ(42)は、今や東京の片隅で地味な初心者向け配信を続ける"おじさん配信者"。安物機材、スポンサーゼロ、視聴者数も控えめ。華やかな人気配信者とは対照的だが、その真摯な解説は密かに「信頼できる初心者向け動画」として評価されていた。
そんな平穏な日常が一変する。ダンジョン中層に災厄級モンスターが突如出現、人気配信パーティが全滅の危機に!迷わず単身で救助に向かうレイジ。絶体絶命のピンチを救ったのは、国家直属のS級騎士・ソウマだった。
冷静沈着、美形かつ最強。誰もが憧れる騎士の青年は、なぜかレイジを見た瞬間に顔を赤らめて……?
若き美貌の騎士×地味なおじさん配信者のバディが織りなす、年の差、立場の差、すべてを越えて始まる予想外の恋の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる