アイドルですがピュアな恋をしています。~お付き合い始めました~

雪 いつき

文字の大きさ
18 / 26

遊園地4

しおりを挟む

 電車移動はさすがにリスクが高いかと、隼音しゅんは車で来ていた。

「ごめんね、送って貰っちゃって」
「いえ、花楓かえでさんと二人きりにもなりたかったので」
「……かっこいいなあ」
「惚れ直しました?」
「うん。惚れ直しました」

 ふふ、と笑う。俺もです、と返すと花楓はキョトンとした顔をした。
 車内では今日の話で盛り上がった。お化け屋敷の事、食べ物の事、ミラーハウスで隼音が頭をぶつけた事は出来れば忘れて欲しかったが、花楓が楽しそうに話すからまあいいかと思えた。

 気付かれないよう、少し遠回りをした。それでももうすぐ家に着いてしまう。


「帰りたくないなあ……」

 ポロリと、花楓の口から言葉が零れ落ちた。

「……あっ、えっと、変な意味じゃなくてね……?」
「俺も、帰したくないです」

 信号待ちになり、隼音は花楓の手をそっと握った。
 明日は花楓は休み。だが隼音は朝から仕事がある。花楓に出逢ってから、普通の大学生だったら……と思った事が何度もあった。
 だが、どちらも捨てられないのだ。

 信号が変わり、隼音は花楓から手を離した。そのまま脇道に入り、店の近くのパーキングに車を停めた。
 あれから会話は止まったまま。花楓も、何を言って良いか分からないという顔だ。


「今度、俺の家に来ませんか?」
「え?」
「月末の店休日は、俺も午後からですけどオフなんです。もし花楓さんの予定が空いていたら、ですけど」
「俺も午後からなら空いてるけど……いいの?」
「勿論です」
「……他の人に見られたら」
「大丈夫です。対策は考えてあります」

 隼音にいつもの緩さはない。髪色も服装も違い、何だか違う人のように見えた。

「花楓さんを傷付ける事はしません。でも……たくさん、触れてしまうかもしれません。花楓さんのこと、たくさん、抱き締めたいです」

 手を握り真っ直ぐに見つめられる。その瞳は一心に想いを伝えてきて、だが何処か緊張した色を滲ませていて……いつもの彼だ、とふと体から力が抜けた。

「俺も、隼音君のこといっぱい抱き締めたいよ」

 花楓が笑顔を見せると、隼音はパッと顔を輝かせた。

「じゃあ、当日迎えに行きますね」

 その声はいつもの緩さを含んでいて、やっぱりまだ可愛い隼音君の方がおちつくなあ、と思うのだった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

楽な片恋

藍川 東
BL
 蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。  ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。  それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……  早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。  ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。  平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。  高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。  優一朗のひとことさえなければ…………

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

まさか「好き」とは思うまい

和泉臨音
BL
仕事に忙殺され思考を停止した俺の心は何故かコンビニ店員の悪態に癒やされてしまった。彼が接客してくれる一時のおかげで激務を乗り切ることもできて、なんだかんだと気づけばお付き合いすることになり…… 態度の悪いコンビニ店員大学生(ツンギレ)×お人好しのリーマン(マイペース)の牛歩な恋の物語 *2023/11/01 本編(全44話)完結しました。以降は番外編を投稿予定です。

アイドルですがピュアな恋をしています。

雪 いつき
BL
人気アイドルユニットに所属する見た目はクールな隼音(しゅん)は、たまたま入ったケーキ屋のパティシエ、花楓(かえで)に恋をしてしまった。 気のせいかも、と通い続けること数ヶ月。やはりこれは恋だった。 見た目はクール、中身はフレンドリーな隼音は、持ち前の緩さで花楓との距離を縮めていく。じわりじわりと周囲を巻き込みながら。 二十歳イケメンアイドル×年上パティシエのピュアな恋のお話。

死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!

時雨
BL
「駆け落ちの供をしてほしい」 すべては真面目な王子エリアスの、この一言から始まった。 王子に”国を捨てても一緒になりたい人がいる”と打ち明けられた、護衛騎士ランベルト。 発表されたばかりの公爵家令嬢との婚約はなんだったのか!?混乱する騎士の気持ちなど関係ない。 国境へ向かう二人を追う影……騎士ランベルトは追手の剣に倒れた。 後悔と共に途切れた騎士の意識は、死亡した時から三年も前の騎士団の寮で目覚める。 ――二人に追手を放った犯人は、一体誰だったのか? 容疑者が浮かんでは消える。そもそも犯人が三年先まで何もしてこない保証はない。 怪しいのは、王位を争う第一王子?裏切られた公爵令嬢?…正体不明の駆け落ち相手? 今度こそ王子エリアスを護るため、過去の記憶よりも積極的に王子に関わるランベルト。 急に距離を縮める騎士を、はじめは警戒するエリアス。ランベルトの昔と変わらぬ態度に、徐々にその警戒も解けていって…? 過去にない行動で変わっていく事象。動き出す影。 ランベルトは今度こそエリアスを護りきれるのか!? 負けず嫌いで頑固で堅実、第二王子(年下) × 面倒見の良い、気の長い一途騎士(年上)のお話です。 ------------------------------------------------------------------- 主人公は頑な、王子も頑固なので、ゆるい気持ちで見守っていただけると幸いです。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

処理中です...