アイドルですがピュアな恋をしています。~お付き合い始めました~

雪 いつき

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遊園地3

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 日が落ちて、二人は観覧車の列に並んだ。
 一周十五分の大観覧車だ。ライトアップされた園内や街の夜景も見られる事で、カップルの姿が目立つ。だが、さすがブーム。男二人組の姿もちらほらと見受けられた。

 ゴンドラに乗り込み、少し上がったところで窓の外に夜景が広がった。

「わあ、綺麗だね」
「綺麗ですね」

 それを見て目を輝かせる花楓かえでさんが。隼音しゅんは眼鏡を外し、そっと花楓を見つめた。だがすぐに気付かれてしまう。

「隼音君、俺じゃなくて外を見よう?」
「すみません。花楓さんが綺麗で、つい。でも、花楓さんと同じ景色を共有出来るって素敵ですね」

 花楓はグッと言葉を詰める。隼音の口からは今日も恥ずかしい台詞がスラスラと出てくる。


「花楓さん。一番上に着いたら、キスしますね」
「うん。…………うん!?」

 照れたり焦ったりする花楓にクスリと笑い、頂上付近にいる間だけは他のゴンドラや地上からも中が見えないのだと言った。
 更に、この遊園地の観覧車でキスをしたカップルは永遠に結ばれるという。

「そ、そんなの、どうして宣言しちゃうかな……」
「頂上からの景色を一瞬遮ることになるので、先に謝っておこうかと思いまして」
「……本音は?」

 これも本当の事だろうが、裏がある気がする。

「あれ、バレちゃいました?」
「隼音君がいじわるな時は何となく分かるようになってきたよ」

 頬を膨らませる花楓が可愛くて仕方ない。そんなだからいじわるしたくなるのだ。

「いえ、ちょっとですね、照れたり慌てたりする花楓さんが見たくて」
「……ばか」

 恥ずかしそうに、隼音の頬を両手でペチッと叩く。そのまま少し考え、むにっと頬を伸ばしてから手を離した。

「え、なんです、今の可愛いの」
「隼音君の方がリスみたいで可愛かったよ」
「リスという例えがもう可愛いです」

 真顔で言う隼音に、可愛いなんて言うの隼音君くらいだよ、と花楓はまた照れながらも拗ねた顔をした。



 頂上が近付き、隼音が花楓の頬に手を添える。

「……あの、花楓さん」
「ごめん……。髪の色が違うから、隼音君じゃないみたいで」

 咄嗟に隼音の口を手のひらで押さえてしまった。
 今まであまり気にならなかったのに、キスされるとなると急に意識してしまう。
 花楓は隼音の目をジッと見つめた。彼の目はいつも真っ直ぐで、一緒に居る時はいつもよそ見せずに花楓の姿だけを映してくれる。そんな彼の事が……。

「好き、だよ」

 隼音の口から手を離し、ふわりと笑う。

「んっ……」

 唇を暖かなもので塞がれ、そっと目を閉じる。柔らかで心地好い感触は、数秒で離れてしまった。
 目を開ければ、間近に隼音の瞳が映る。

「ん、っ」

 チュッと今度は花楓からキスをした。約束の誕生日プレゼントだ。本当はもう少し長くしてあげたかったのだが、頂上を過ぎてしまった。
 花楓が首に回していた手を離すと、チャリ、と音がした。隼音の首元には……。


「え……?」
「お誕生日、おめでとう。ごめんね、やっぱり何か形に残る物も渡したくて」

 首元に触れると、銀色の鎖の先に、コイン型のペンダントトップが下がっていた。そこに彫られた絵には、旅を守護するという意味があるらしい。

「隼音君、お仕事で色々なところに行くから、お守りになればいいなって思って」

 ドラマの彼氏役がやりそうなシーン、と隼音は脳内で叫ぶ。花楓さん、かっこいい。今日は大事なところで全部持っていかれている気がする。
 何より、このプレゼントを選んでくれた理由が嬉しかった。

「花楓さんの想いが込められたお守り……、大切にします。ありがとうございます……花楓さん、大好きです」

 ギュッとペンダントトップを握り、もう片手で花楓の手を握る。そして口元に寄せ、その指にキスをした。

「っ……、喜んで貰えて、良かっ…………」

 にっこりと笑おうとして、花楓は顔を覆った。まるでドラマのワンシーンだ。

 隼音君、かっこいい……。
 本人に言えばきっと喜ぶのに、声が出ない。それなのに、花楓の心中を全て知ったように隼音は優しい声で“ありがとうございます”と言った。



 そのまま見つめ合っているうちに地上が近付いて来た。
 景色、全然見られなかった。二人は一度外を眺め、無言で顔を見合わせた。そして、クスリと笑う。

「花楓さん。もう一回並びましょう?」
「ふふ、そうだね」

 今度はちゃんと同じ風景を見られるように。
 それでもまた、頂上ではキスをしてしまうのだろう。声には出さずに同じ事を思い、そっと笑い合った。


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