アイドルですがピュアな恋をしています。~お付き合い始めました~

雪 いつき

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隼音と雛

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 翌日、ミーティングルームに着くと、ひながクッキーを食べていた。テーブルの上に置かれたクッキーは綺麗な紙に包まれ、既製品ではなく手作りのように見える。

「あれ? それって」
鷹尾たかおさんからお土産にって貰ったんだ」

 やはり彼だった。雛の知り合いで甘い物が好きだと知っているのは彼か花楓かえでくらいだ。
 ふーん、と言いながら雛の向かいに座り、クッキーを見る。


「……えっ、なんでっ?」
「二人が遊園地行く日にお茶しませんか、ってメール貰って」

 連絡先の交換はしなかったが、渡した名刺には個人のメールアドレスを載せていた。プライベートな内容で使用する事を謝罪した上でのメールに、雛は更に好感を持った。社交辞令ではなく積極的に交流を持とうとする姿勢にも。

「雛が交流を深めている……」

 個人的な付き合いは、自分からはほぼしない雛が。

「色々言わなくても察してくれるし、目立つのが苦手なら俺を利用するメリットもないし、俺がいない時に隼音しゅんの監視も頼めるし、色々とちょうどいいなって思って」

 そう言ってクッキーを齧る。カタカタとノートパソコンのキーを打つ音。隼音は小さく笑った。


「なるほどー」
「……」
「利害の一致ってやつだね、雛サン」
「隼音にもあげようと思ったけど、やめた」
「えっ、ごめんなさい、クッキーください」

 ごめん、と手を合わせると、雛は仕方ないなあと隼音の手にクッキーを乗せた。

 雛は誰かと仲良くする事に理由を付けたがる。花楓は例外だったが、鷹尾は雛にとって“仲良くしたいけれど何となく恥ずかしい”のと、“仲良くする仕方が分からない”と言ったところだろう。

 からかってはみたが、利害を考えず仲良くする術を知らない雛を、鷹尾が変えてくれるのなら積極的に応援したい。


「隼音の方はどうだったの?」
「デート、最高に幸せでした。誕生日プレゼントも貰ったんだ。見て見てー」

 シャツの下に隠していたネックレスを見せる。

 首輪……?
 雛はそう思ってしまった。だが、花楓にそんな意図はない筈で。多分、あるとしたら、無意識。花楓は独占欲が強そうだと感じていたが、その通りかもしれない。
 ……いや、旅の守護の絵だから本当に純粋な思いで選んだだけで、こちらが邪推しただけかも。雛は一瞬でそんな思いを巡らせた。

「良かったね。隼音が付けそうなデザインだし、花楓さん一生懸命考えてくれたのかな」
「だよね? 花楓さんの想いが詰まったプレゼントー、毎日付けられるアクセサリー、最高だよね。花楓さん大好き」

 チュッ、とペンダントトップにキスをする隼音に雛は肩を竦めた。
 整った顔で絵になる事をされても、もはや兄弟のように近しくなった雛はときめかない。惚気は家でやってください。そう言ってクッキーを噛った。

「今度は俺の家でデートなんだー」
「……隼音の、家で?」
「あっ、だ、大丈夫です、花楓さんには後ろの席に乗って貰うし、別々に車を降りるので」

 今のは失言だった。隼音は慌てた。


 隼音のマンションには地下駐車場がある。入るには警備員のいる前を通過する際に、一度停まってカードキーを翳す必要がある。
 守秘義務が徹底されている為、警備員の口から漏れる事はそうないだろうが、そこからエレベーター乗り場まで、そしてエレベーター内や各階のホールまで監視カメラがあるのだ。一緒に居る場面の映像証拠は残したくない。

 エレベーターはカードキーを端末に翳した階にしか止まらず、エレベーターホールから部屋まで行く間にもカードキー施錠の扉がある。つまり、そこを通過すれば安心という事。

 花楓には、車から部屋まで“自宅です”という顔で行って貰うつもりだ。
 先日の花楓の堂々とした演技力を見て、大丈夫だと思ったのだ。

 隼音の説明を聞き雛は一応納得した顔を見せる。隼音がホッとしたのも束の間、キッと厳しい顔をした。


「隼音。下心は?」
「……俺に、そんな余裕あると思う?」
「…………なんか、ごめん」
「謝られるとそれはそれで心がつらい」

 甲斐性なし、と言われているようで。

「うん、まあ、下心があったところで、二人は恋人同士だし? 俺が怒るのも違うんだけどね?」
「優しくされると余計につらいです」
「えっと、隼音、頑張って!」
「どうせ俺は甲斐性なしだよ! でも花楓さんの事大事にしたいし俺の心臓がもたないしもう少し時間をください!」

 うっ、と机に突っ伏してしまった隼音が、少し憐れになってしまった。


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