ある日、人気俳優の弟になりました。2

雪 いつき

文字の大きさ
38 / 39

番外編:Halloween

しおりを挟む

 橘 優斗たちばな ゆうとには、二人の恋人がいる。

 母親の再婚相手の息子で、大企業の御曹司であり、人気若手俳優でもある橘 直柾たちばな なおまさ

 高校時代から優斗がお世話になっている先輩で、芸能人顔負けの男前であり、文武両道の竹之内 隆晴たけのうち りゅうせい


 ――どう考えても、贅沢すぎる……。


 二人と恋人になって、一ヶ月が過ぎた。
 優斗は今日もまた、あの二人が恋人という事実に打ち震えている。


 身も心も彼らのものになったあの日を思い出すだけで、大声で叫んで転がりたい気持ちになる。
 元々格好良かった二人だが、あの日はあまりにも……そう。映研サークルの女の子たちが言っていた、“雄みがすごい”という言葉がしっくりきた。

 だから、それからしばらく二人の顔をまともに見られなかった。
 間近で見ようものなら、あの時の二人を思い出して、逃げ出してしまうから。


 優斗に逃げられた二人も、それぞれに考えた。
 考えた末に直柾はあるものを用意して、優斗の住む実家のマンションを訪れていた。


「優くん、Happy Halloween」
「えっ、直柾さん、おかえりなさ……狼だっ」

 思わず駆け寄った優斗は、キラキラした瞳で直柾を見つめた。直柾の頭上には、尖った耳が。腰にはふわふわの尻尾が下がっている。

「ちゃんと狼男だと分かって貰えて嬉しいよ」

 逃げられないことに安堵した直柾は、優斗の手を取り、ソファに促す。

「耳も尻尾も、勿論俺も、優くんだけのものだよ」

 うずうずしている優斗の手に尻尾を乗せると、両手でそっと包み込まれた。頬ずりしてもいいよ、と言ってみたら、本当に可愛い姿を見せてくれるから、直柾は笑顔のままで静かに身悶える。


「狼男の仮装は、優くんにしか見せてないんだ」
「えっ、嬉しいです。直柾さん、雑誌では吸血鬼と王子様と海賊してましたよね。そっちもかっこよかったです」

 先日発売された三社の雑誌では、直柾がメインのハロウィン特集が組まれていた。
 勿論即買いしたし、思わずSNSでも検索したところ、ずらりと並ぶ「血を吸われたい」「求婚されたい」「略奪されたい」の文字。

 ――分かる……って思ってしまった……。

 見る側にそう思わせる表情、目線、色気。実力派俳優の本気を見た。


「嬉しいな。優くんは、どれが一番好きだった?」
「えっと…………吸血鬼です」

 一つだけ人外の仮装なのに、それが一番似合っていた。人間離れした美形だからだろうか。

 最近の直柾は髪を明るめのアッシュゴールドにしているし、雑誌では赤いカラーコンタクトをしていた。もしかしたら本当に吸血鬼ではないかと疑いたくなるほどだった。

 ――……本物だったら、吸われてもいいな。

 そう思ってしまうくらいに直柾のことが好きなのに、本人には殆ど伝えられていない。

 ――好きって素直に伝えるの、難しい……。

 そんなことを考えていると、ふいに顔の上に影が落ちた。


「ひッ……ちょっ、直柾さんっ、何するんですかっ」
「ごめんね。優くんが美味しそうで、つい」

 つい、じゃない。
 つい、で首筋を噛まないでほしい。
 血を吸われる前に心臓が止まってしまう。

「本物の吸血鬼なら、優くんの血を吸って俺の一部に出来たのに……」

 指先で首筋を撫でられ、また小さな声が零れてしまう。

「でも俺は優くんの物だから、やっぱり俺の一部を優くんにたくさんあげたいな」
「っ……」
「たくさん、食べてくれていいよ?」
「あのっ、それはっ」


 俺が食べられる方では!?


 服の隙間から直柾の手が滑り込んだ瞬間、タイミングよく玄関のチャイムが鳴った。

「だっ、誰か来ましたね!?」

 バッと起き上がり、直柾を押し返して慌てて玄関へと向かう。

 ――流されるところだった……!

 いつ両親が帰ってくるとも知れないリビングで、本当に危ないところだった。
 雑誌の吸血鬼は本当に格好良かったし、握らされたもふもふの魅力にも抗えなかった。もしここが家でなければ……受け入れた、のに……。

 そんなことを考えてしまい熱くなった顔をパタパタと手で扇ぎながら、玄関の鍵を開ける。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

【完結】我が兄は生徒会長である!

tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。 名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。 そんな彼には「推し」がいる。 それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。 実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。 終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。 本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。 (番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…

彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜?? ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。 みんなから嫌われるはずの悪役。  そ・れ・な・の・に… どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?! もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣) そんなオレの物語が今始まる___。 ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️

刺されて始まる恋もある

神山おが屑
BL
ストーカーに困るイケメン大学生城田雪人に恋人のフリを頼まれた大学生黒川月兎、そんな雪人とデートの振りして食事に行っていたらストーカーに刺されて病院送り罪悪感からか毎日お見舞いに来る雪人、罪悪感からか毎日大学でも心配してくる雪人、罪悪感からかやたら世話をしてくる雪人、まるで本当の恋人のような距離感に戸惑う月兎そんなふたりの刺されて始まる恋の話。

アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。

天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!? 学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。 ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。 智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。 「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」 無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。 住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!

処理中です...