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番外編:Halloween2
しおりを挟む「あっ、先輩」
「Trick and Treat」
「っ!?」
啄むようなキスをされて、手には老舗の和菓子の箱を乗せられた。
――流れるようなトリックとトリート……。
思わず見上げると、またキスをされる。
「こっちは悪戯じゃなくて、恋人のキスな」
「っ……」
さらっと恋人らしいことを。
負けずにキスをして驚かせたいのに、残念ながら優斗にはまだそんな勇気はない。それに手玉に取れないうちは、返り討ちに遭うことが目に見えている。
「ん? 優斗、顔赤くないか?」
「赤くもなりますよ……」
直柾とのことがなかったとしても、今ので充分そうなる。
風邪かと思っていた隆晴は、嬉しそうに優斗の頭を撫でた。
「あの……どうぞ上がってください。今、直柾さんが来てくれてまして」
「は? あの人、一時間くらい前に生放送で見たけど」
それは優斗も見ていた。『ハロウィンに行きたいデートスポット特集』で、海にいた。
「多分、そこから直接来てくれたのかと」
「そりゃ、マネージャーも大変だな。……って、犬?」
「狼だよ」
リビングに入ると、狼の耳と尻尾はテーブルの上に置かれていた。
「狼男の俺は、優くんだけのものだからね。君には見せたくない」
「アンタはいつでも狼でしょ」
「君には言われたくないな」
顔を合わせた早々、静かな喧嘩が始まる。これは恋人になる前から変わらない光景だ。
「俺、お茶淹れて来ますね」
優斗も特に気にせず、そう言ってキッチンへと向かった。
せっかく隆晴から和菓子を貰ったのだから、この前買った少し高級なほうじ茶を淹れよう。三人で一緒に過ごせる時に飲もうと思っていたのだ。
待っててくださいね、と告げると、二人は優斗を追わずにおとなしくソファに座ってくれた。
「……優くんにも仮装して欲しかったけど」
愛らしく動く優斗をしばし眺めた後、直柾はぽつりと呟いた。
「定番のメイドやナースや魔女を見たいのに、着せるのが怖いよ……」
「手を出す前提で考えるからですよ」
「そういう君は、手を出さずにいられる?」
想像して、隆晴は口を噤んだ。
初めて優斗を抱いた日。優斗は可愛いだけなく、色気も出せるのだと知った。
優斗がするなら全身包帯のミイラ男でさえも愛しく、その包帯で何かしてしまいたい……とすら考えてしまう。今までそんな考えを抱いたこともないのにだ。
「優くんは俺の仮装を気に入ってくれてるから、今度、俺が白衣でも着てみようかな」
「直柾さん、お医者さんの仮装もするんですか?」
そのタイミングで、優斗が戻って来た。
「見たい?」
「見たいです」
「やめとけ。診察とか注射とか言ってセクハラされるぞ」
「恋人だからセクハラにはならないよね、優くん?」
「えっと……そうですね」
診察は触られるとして、注射って? 優斗は首を傾げる。
その疑問を正しく感じ取った二人は、教えるか教えまいか思案して、やめた。大人になったとはいえ、優斗にその考えはまだ早い。
「このほうじ茶、香ばしくて美味いな」
「ですよねっ。俺も試飲で気に入って、三人一緒の時に飲みたいと思って買ってきたんです」
「そっか。まじで美味いわ。ありがとな」
今までの煩悩が一瞬で浄化され、隆晴は優斗の頭をただ褒めるように撫でた。
「癪だけど、このわらび餅も美味しいよ」
「どうも」
「優くんが盛り付けてくれたからかな」
「アンタな……って言いたいけどそうでしょうね」
「わらび餅自体が美味しいんですよ……先輩、お土産ありがとうございます」
「優斗、名前」
「っ……隆晴さん、ありがとうございます」
「どういたしまして」
ふっと笑みを浮かべる隆晴から、思わず視線を逸らした。この表情、あの夜のことを少しだけ思い出してしまった。
美味しい和菓子と、美味しいお茶。
直柾も隆晴も、美味しいと言ってお茶のおかわりをした。そんなゆったりした時間の中、優斗はふと思う。
「ハロウィンといえば、俺、今まで仮装もハロウィンパーティーもしたことなくて。三人で仮装してお菓子を食べたり映画を観たりしてみたいです」
言葉にしてから、ハッとした。二人とも忙しい人なのに、こんなことを言ったら困らせてしまう。
「優くん、ハロウィン辺りでお休みの日はある?」
「っ……ハロウィン当日は一限だけで、その後の土日は休みです……」
申し訳なく思っていると、ちょっと待っててね、と言って直柾は部屋を出て行った。
そして。数分で戻って来た直柾は、輝く笑顔を浮かべていた。
「ハロウィン当日の夕方から丸一日、休みになったよ」
「えっ、お休みって、大丈夫なんですか?」
「俺個人の書類仕事だったから大丈夫。この前のホテルで、ハロウィンパーティーしようか」
「っ……本当にいいんですか?」
「勿論だよ」
遠慮がちな優斗を抱き締め、頬にキスをする。
「優くんは、何の仮装がしたい?」
「俺は……直柾さんのを見た後で申し訳ないですが、海賊がいいです。あの帽子と眼帯をしてみたくて」
「優くんが海賊……愛しい……」
何を想像したのか、愛しい、とまた呟いて優斗に頬ずりをした。
「俺のは優斗が決めてくれ」
「えっ、いいんですか? じゃあ、警官でお願いします。あのゲームの。絶対かっこいいです」
まだ恋人ではなかった頃、隆晴と二人でプレイした、ゾンビを倒しながら脱出するゲームのことだ。
「仮装ってか、コスプレじゃねぇか。まあいいけど」
「ありがとうございますっ」
「優くん、俺は?」
「直柾さんはお医者さんでお願いします」
「優斗、中の服が手術着のやつか?」
「はい、実は……あのゲームの研究員が、直柾さんに似合いそうだなと思って……」
髪色も、海外っぽいイケメンなところも、雰囲気も似ている。
ただ……マッドサイエンティストなのだが。
「優くんのためなら、何でもするよ? でも、俺だけそのゲームを知らないのは寂しいな」
「直柾さん……」
「要点をまとめた実況動画、アンタのスマホに送りました」
「……優くんから教えて貰おうと思ってたのに」
連絡先教えるんじゃなかった、と愚痴る。だが、優斗が隆晴といる時に何かあったら困るから、消せない。
「優斗は、医療班するか?」
「やってみたいですっ」
隆晴はすぐさま検索し、公式サイトの通販ページから三人分の服を注文した。以前に、服まで出してるのか、と驚いたため覚えていた。
「じゃあ、優くんの海賊は俺が用意するね。他にも優くんに着て欲しい服を持っていくよ」
「ありがとうございます。すごく楽しみです」
ぱっと笑顔になる優斗に、直柾は嬉しそうに微笑んだ。
――こんなに幸せでいいのかな……。
どちらも大好きで、どちらかだけを選べなかった。二人はそれでいいと言ってくれた。優斗が選んだならと。
二人に恋人として抱かれた後、あまりにも幸せで、あまりにも大切に愛されて、本当に二人の愛情を独り占めしていいのかと悩んだこともあった。
この関係が悪い方に変わってしまうかもしれないと怯えたこともあった。
それでも。
「優斗に変なもの着せないでくださいよ?」
「可愛いものしか着せないよ。でも俺の優くんだから、君には見せたくないな」
「アンタのじゃなくて俺のですから」
「というか、そもそも君は学校で会えるんだから、俺がいる時は遠慮して帰ってくれないかな?」
「うわ、その顔、全世界に見せてやりてぇ」
隆晴を睨み冷たく言い放つ直柾と、笑い飛ばす隆晴。二人とも、お互いに対して以前よりも遠慮がなくなった。
――悪い方に、変わらなかったな……。
言い合う二人は言葉だけは刺々しいものの、優斗にはどこか楽しそうに見える。それが嬉しい。
――全世界に見せたら、新たなファンの人が増えそうだけど……。
でも……この楽しそうな直柾は、今はまだ自分たちだけのものにしていたい。
優斗は、言い合う二人の手をぎゅっと握った。
「優斗?」
「優くん?」
「……俺は、二人の、恋……」
恋人、です。
そう言うだけなのに、右と左から見つめられると何も言えなくなってしまう。
「……すみません。ハロウィンの日に、頑張ります」
ハロウィンはもうすぐそこなのに、それまでに頑張れるだろうか。
でも……嬉しそうな二人を見ると、好きを伝えることも、それ以上のことも、恥ずかしがらずに頑張ろうと思える。
せっかくハロウィンで仮装するのだから、非日常の雰囲気に勇気を貰えるかもしれない。
悪戯だと言って、二人が望むことを出来るかもしれない。
頑張ろう、と、思っていたのに……。
――とんでもないハロウィンになった……。
目の前には、とんでもない男前警官と、とんでもない美と危うさの研究員。
医療班の服を着ている自分がもはや重傷者。優斗は小さく震える。
「優斗、来い」
「優くん。おいで」
着替えを終えてバスルームから顔を出すと、二人に手を差し伸べられる。ホラーゲームなのに乙女ゲーム。優斗はそっと扉を閉めた。
――あの二人に、好きって言うの……?
それ以上もするなんて、悪戯なんて……。
もう一度扉を開けてみたものの、なけなしの勇気はあっけなく消え去ってしまった。
Happy Halloween!
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お読みいただきありがとうございました☺️
ばーば様、ご感想ありがとうございました!
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完結おめでとうございます✨とっても綺麗な終わり方ですね!!2人の溺愛っぷりがとってもかわいく面白かったです!この作品が大好きです♡♡これからも頑張ってください!
ありがとうございます!嬉しいお言葉をたくさんいただけて、最後まで書いて良かった……と泣きそうです……!
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