ある日、人気俳優の弟になりました。2

雪 いつき

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直柾と隆晴2

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「ってか、優斗ゆうとってもう……」
「だよねぇ」

 隆晴りゅうせいの言わんとする事に直柾なおまさも同意する。
 まだ優斗の中で答えは出ていないようだが、直柾たちにとっては状況は数ヶ月前よりも確実に良い方向に向かっている。
 優斗の想いを感じるから、これからもいくらでも待てそうだ。

「いつか別れる恋人じゃなくて、一生を背負おうとしてくれてるの、嬉しいよね」

 それこそ、プロポーズの答えを出すように。

「多分体がどうこうより、そっちで悩んでますよね。一生離れるつもりはないって言われてるみたいで俺は嬉しいですけど」
「だよね。優くんは独占欲が強いのかな?」

 ふふ、と心底嬉しそうに笑う。自分の命は優斗のものだと言う直柾は、束縛されたり嫉妬をされたい人間なのだろう。
 少し引いた隆晴も、優斗になら、と思い直す。束縛など他の人間からは絶対にごめんだが。

「俺、今の状況が結構気に入ってるんだよね。出来上がる前のジャムみたいで」

 ジャム? 隆晴は首を傾げた。

「甘い砂糖と甘酸っぱい果物が煮詰まる前の、まだむせ返るほどは甘くない優しい香りとか、もうすぐかな、って、わくわくする感じがね」
「……ちょっと良く分からないですけど、甘いってのは何となく分かります」

 そもそもジャムを作った事がないので上手く想像が出来ない。
 甘いのに甘ったる過ぎない時間が好きだと言いたいのだろうか、と隆晴は一応納得する事にした。

「君と一蓮托生なのは、ちょっとどこかのタイミングで遠慮したいなとは思うけどね」
「同感ですね。まあ、最終的には優斗は俺を選ぶと思いますけど」
「それはどうかな?」

 また火花を散らしてしまい、ハッとした。

「……でも、しばらくは休戦かな」
「……ですね」

 優斗は二人に仲良くして欲しいと思っている。確かに、好きな相手同士が喧嘩をしていたら悲しくなるだろう。

 二人としてはこんなやり取りも意外と悪くないと思っているのだが、いつかは自分だけを選んで欲しいとも思っている。
 ライバルで、戦友。そんな関係。


 料理を摘まみながら、直柾はドリンクメニューを見た。

「優くんは、カルーアミルクかな」
「ん? ああ、ぽいですね。カシスソーダとか」
「ピーチウーロンとか」
「グラスホッパーとか」
「ダージリンクーラーも好きそうだなぁ」

 二人して優斗が好きそうなカクテルを挙げていく。どれを飲んでも可愛い。

 優斗が成人したら、最初にお気に入りのバーに連れて行くか気軽に居酒屋からか、直柾は迷う。お酒デビューには隆晴より先に付き合いたい。

「……ピニャコラーダ、って言って欲しいな……」

 語呂が可愛い。
 可愛い。隆晴も無言で同意した。

「優くん、お酒を飲んだらどうなるかな」
「希望としては、甘えたになって欲しいですけど」
「可愛い……。膝の上に乗って欲しいな」
「……」
「何を想像してるのかな?」
「アンタも同じようなもんでしょ」

 呆れた顔で焼き銀杏を口に放る隆晴に、直柾は“まあね”と笑ってホッケをつついた。

「優くんのお肌、すべすべだったよ」
「休戦じゃなかったんですか?」
「自慢だけはしておこうかなって」
「その意地の悪さ、優斗の前でも見せてくださいよ」
「見せてるよ? 違う意地悪だけどね」

 クスリと笑う直柾に、頭なら叩いていいか? とわりと本気で考える。穏やかで真面目な王子様はどうした。
 画面の中より随分と人間らしいものだ、と生き生きとした直柾に溜め息をつく。

 結局そのまま二時間近く話し込み、ただの飲み会だったな? と二人は首を傾げながら帰路についたのだった。

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