ある日、人気俳優の弟になりました。2

雪 いつき

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行動開始

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 そして、その翌日。隆晴りゅうせいは早速行動を起こした。

 授業が終わり、隆晴から連絡を受けた優斗ゆうとがいつもの空き教室へと向かうと、テーブルの上にミルクティが置かれていた。

 なるほど、と優斗は察する。隆晴の隣に座れという事で、少し長話になるという事だろう。
 ひとまず素直に座って、缶を手に取る。ありがたくいただいておこう。

「……あっ、季節限定の蜂蜜ミルクティ」

 これは某コンビニ限定で、まだ一度もお目にかかれた事がない。まさかここで出逢えるとは……!
 目をキラキラさせる優斗に、隆晴はそっと目元を緩める。

「たまたまあったからさ。そういうの、好きだろ?」
「はい、好きです」
「俺のことは?」
「好、っ……」

 つられて答えかけて、ハッとして唇を引き結んだ。

「引っかからなかったか」
「危なかったです……」

 危なかったって。隆晴は苦笑する。

「仕方なく言われるのは嫌じゃなかったんですか?」
「俺が言わせてんだからいいんだよ」
「なんですかそれ」
「ほら、その勢いでさ、言えよ」
「ちょっと今日は勢い出ないですね」

 久しぶりの完全塩対応だ。隆晴は愉しげに笑った。
 意識してガチガチになる優斗も可愛いが、昔からのこの空気感はやはり居心地が良い。

「恋人になっても何になっても、俺にとってお前はずっと可愛い後輩であることに変わりないんだろうな」

 独り言のように呟き、優斗の頭を撫でる。すると、優斗はピクリと反応して瞳を伏せた。

「……そうですよね。今までの関係が消えてなくなるわけじゃないんですよね」

 そう言って、瞳は伏せたままで嬉しそうに笑った。

 まさか、と隆晴は眉を寄せる。まさか、好きだと言わない理由の一つはこれか。

「消えねぇし、消えるどころか一つ増えるだけな? ってか、今でもお前の扱いそんな変わってねぇだろ」

 わしゃわしゃと頭を撫でると、優斗は明るい顔で“そうですね、すみません”と笑った。

 言えば以前のような関係には戻れないかもしれないと、最近そう思うようになっていた。それが、怖かったのだ。
 だから、先輩後輩じゃなくなる覚悟が出来たら言おうと思っていたのだが……。

「なんだか安心しました。えっと……言えそうな時に、言いますね」
「ああ、待ってる」

 憑き物が落ちたように晴れやかな顔をして、優斗は今度は少し恥ずかしそうに笑う。
 そして律儀にミルクティのお礼を言って缶を開け、いただきます、と口を付けた。

 美味しそうに頬を緩ませる優斗の顔を見ると、好きだとか言葉だとか、今はいいかという気持ちになる。
 優斗が幸せなら、それで。
 ただ、その幸せを与えるのはいつでも自分でありたかった。

 美味しいです、とニコニコと笑う優斗の甘そうな口に噛み付きたい気持ちを抑え、良かったな、と返す。
 こういう時は早く恋人になりたいと心底思う。恋人になった暁には、覚えとけよ、と心の中で呟いた。


 そこでふと、本来の目的を思い出した。

「優斗。ここ、どう思う?」

 隆晴がそう言って見せたのは、とある温泉旅館のホームページだ。

 ここから電車で一時間程で、自然に囲まれた場所。近くには海もある。料理は海の幸、山の幸の良いところ取りだ。
 部屋も広くて、更には各部屋に露天風呂も付いている。

「豪華ですね」
「そこ、どう?」
「ご飯も美味しそうだし、景色も綺麗で部屋も広くて、のんびり出来そうでいいですね。俺も一度行ってみたいです」

 優斗はそう言って隆晴にスマホを返した。

「いつなら行けそう?」
「………………えっ、俺ですか?」
「お前しかいないだろ」

 隆晴は愉しげに笑う。

「ご家族か彼女さんと行くのかと……、あっ……」
「恋人と行こうと思ってるけど?」

 スルリと手を握られ、指を絡められて優斗は視線を彷徨わせる。
 “彼女さん”と、もはや条件反射で言ってしまった事は隆晴にも分かっていた。

「すみません……」
「気にしてねぇけど、しばらくこのままな」

 眉を下げ申し訳なさそうに謝る優斗に、繋いだままの手を見せる。
 その指にチュッとキスをされ、優斗はプルプルと震えながらも堪えた。
 恋人候補仕様の隆晴は心臓に悪い。だが、大きな手に包まれるのは、嫌いではないのだ。

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