ある日、人気俳優の弟になりました。2

雪 いつき

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もういいか?

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 あまりにも良い雰囲気になってしまった。
 今まで黙って見守っていた隆晴りゅうせいは眉間の皺を深くする。
 誰だって好きな相手が他の男と長々とキスなんてしていれば殺意くらい湧くだろう。自分でも良く耐えた方だと思う。

「もういいか?」

 不機嫌さを抑えきれずに言うと、優斗ゆうとはビクリと肩を震わせた。

「っ、はいっ、すみませんっ」

 直柾なおまさに抱き締められたまま、ハッとして隆晴の方を振り返る。
 だが、隆晴を見るなり、カァ……と頬を染めゆるゆると視線を反らした。

「優斗?」
「……すみません……今から先輩と、舌…………何でもないです」

 言葉にする事ではなかった。キュッと唇を引き結ぶ。
 何故今“先輩”として見てしまったのだろう。恥ずかしさが増してしまった。それに、その“先輩”ともっと先のキスをすると思うと……。

 直柾の服を掴み耳まで真っ赤にする優斗に、隆晴は片手で顔を覆い俯いた。そして指の隙間から直柾に視線だけを向ける。

「……止まらなかったら」
「分かってるよ。頑張って」

 どう考えてもお互い憎いライバルの筈なのに、妙な連帯感が生まれた。


 深く息を吐き、優斗の肩を掴む。

「優斗、こっち見ろ」
「っ……隆晴、さん……」

 体はこちらを向いたが視線は伏せたまま。可愛いな、と思うがそろそろ我慢も限界だ。
 顎を掴み、上向かせて射抜くように視線を合わせる。

「いいか?」
「はいっ……どうぞっ」

 ギュッと目を閉じた。

「お前、緊張しすぎ」
「すみませ、っう……?」

 むにっと両頬を引っ張られ、思わず目を開けた。キョトンとする優斗の頬をむにむにと摘まみ、愉しげな顔をする。
 あれ? と思っている間に顔に影が落ちて。

「んむっ、んっ」

 カプリと噛み付くようにキスをされ、最初から違う! とツッコミを入れそうになった。
 まだ片方の頬を緩く揉まれながら、ひとまず目を閉じる。
 酷く緊張してしまったが、隆晴は恋人になっても優斗の扱いは変わらないと言っていた事を思い出す。

 変わらない…………わけがなかった。

「ふ、ぅっ……っ」

 舌が滑り込み、ぬるりとした生暖かい感触にビクリと震える。舌先で上顎を擽られ、ゾクゾクと背筋が震えた。

 ぢゅ、と音がして舌を吸われる。その舌を甘噛みされ、舌先で擽られ、また噛まれて。

「ん……、んうっ!? んーーっ!!」

 離されたかと思えば、また唇を塞がれた。それもぴったりと隙間なく塞がれ、咥内を舌が遠慮なしに這い回る。

 息が出来ない。
 息が、苦し……。

「ふぁっ、んっ、ンンッ……!」

 一瞬舌が空気に触れ、すぐにまた唇を塞がれた。

「ん、んっ、んぅ」

 上顎を舌先で擽られるとびくびくと体が震え、隆晴の服を掴む手がパタリと下に落ちる。


 そこで、直柾が隆晴を優斗から引き離した。

「気持ちは分かるけど、優くんが死んじゃう」

 止まらない気持ちは痛い程分かる。ずっとキスしていたい気持ちも、優斗の声をずっと聞いていたい気持ちも。
 他の男とキスしているというのに、優斗の顔を見ていたくて直柾も止めに入るのが遅くなってしまった。

「……悪い」

 はふはふと息をしながらもたれ掛かる優斗を抱き締め、隆晴は深く息を吐く。危うく場所も忘れて押し倒すところだった。

「…………しぬ、かと……」

 ぽそりと呟き、優斗は唇ではなく心臓を押さえる。あれ? と直柾は真顔になった。優くんはちょっと強引な方が好きなのかな?
 それなら抑える必要はないのかな、とジッと優斗を見つめた。

 だが、顔を真っ赤にして涙目でぐったりしている姿を見ると……今はまだ駄目かな、と愛しげに目を細め、そっと髪を撫でた。

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