ある日、人気俳優の弟になりました。2

雪 いつき

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これからのこと

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 隆晴りゅうせいに抱き抱えられ、直柾なおまさに髪を撫でられ、優斗ゆうとはそっと息を吐く。

 ――……キスでも、こんな……。

 あまりに予想外だった。キスでこれなら、その先はどうなってしまうのだろう。
 ふと想像してしまい、慌てて思考を散らせた。

「優くん。俺も今みたいなキスしてもいい?」
「えっ、駄目ですっ」
「え?」

 直柾は目を瞬かせる。こんなに強く断られるのは初めてだ。

「あっ、えっと、その、駄目じゃなくて…………お手柔らかにお願いします……なんだか、変になりそうなので……」

 ンッ、と直柾と、直接的には関係がなかった隆晴も同時に色々なものを堪えた。無意識に煽ってくると常々思っていたが、ここまでとは。

「うん。じゃあ、少し休んでからにしようか」

 直柾はあまりにも爽やかに、キラキラと輝く見事な笑みを浮かべた。

「優くんが落ち着いてから、ね?」

 隆晴に抱きつくようにもたれ掛かったままの優斗の顔を上向かせ、チュッと唇に触れるだけのキスをした。
 変になったら困るものね、と言いながら、そんな事になったら直柾も困ってしまう。冷静なふりにも限界があるのだ。


「っ……落ち着かないです」

 優斗は手のひらで口元を覆い、視線を伏せた。
 これからは髪や頬だけでなく、こうして唇にもキスをされるようになるのかと気付いてしまい……落ち着くわけがない。

 嫌ではないが、キス自体も今日が初めてで……。
 いや、この歳でファーストキスというのもどうかと思うが、今までそんな余裕も機会もなかったのだから仕方ないだろう。誰ともなく心の中で言い訳をした。

 それより、そのキスの相手がこんなに贅沢で良いのだろうか。
 チラリを隆晴を見上げると、啄むようなキスをされる。違う。そうじゃない。


「このまま連れ帰りたいけど、君は家に入れたくないしなぁ……」

 直柾がぼやくように言った。そして隆晴へとチラリと視線を向け、ふう、と溜め息をつく。

「俺としても優斗の最初がアンタの家なんて嫌ですよ」

 苦虫を噛み潰したような顔をして、ふと真顔になる。

「自分が先に、とかしないんですね」
「それはさすがに卑怯かなと思ってね。今更でもあるし、何より優くんが気に病みそう」
「まあ、俺もそう思います」

 今後の事はともかく、キスと“それ”の最初は三人一緒が良いだろう。後々優斗が気にしそうだから。

「また日を改めて、かな」
「ですね」

 そんな会話をする二人。優斗は今回は勘違いをせず、正しく理解した。

「あの、大丈夫です。俺、ちゃんと心の準備も出来てるので」

 出来ているというか、今出来た。
 優斗が体を起こすと、直柾と隆晴は顔を見合わせ複雑な顔をした。

「優くん、今日は疲れてるでしょう?」
「大丈夫です」

 と言っても直柾は首を縦に振らない。

「また今度にしようね。きっと、とても体力を使うから。ね?」

 よしよし、と頭を撫でる。
 大丈夫です、ともう一度言おうとして、ハッとして口を噤んだ。

 体力。
 つまり、二人と同時に、だから。

「…………そ、うですね……」

 使う体力も二倍、という事。
 今更だが、こんな顔も声も体格も筋肉も良すぎる二人とだなんて、生きて帰れるだろうか。
 いや、でも、心の準備は出来て……うん、まだ猶予が出来たわけだから何とか……。

 悶々と悩む優斗を“可愛いな”と見つめる隆晴と、真剣にスマホを見据える直柾。

「優くん、明後日はお休み?」
「え? はい」
「じゃあ、明日の夕方、迎えに来てもいいかな。俺の気に入ってるホテルがあるんだ。そこで夕飯を食べて、一緒に泊まろう?」
「え……、は……はい……」

 コクリと頷いた。
 明後日。こんなにすぐだとは思わなかった。

 直柾が隆晴を見ると、大丈夫だと頷く。そこで直柾は一度リビングから出て行った。


「優斗」
「っ! はい!」
「お前、緊張しすぎ」
「うっ、だって、仕方ないじゃないですか」

 口を尖らせる優斗に、隆晴は小さく笑う。

「やめたくなってねぇか?」
「え?」
「恋人」
「ならないですよ?」
「そっか。ありがとな」
「いえ、俺の方こそ」

 優斗は首を傾げる。何があったわけでもないのに、やめたいなど思う筈がない。
 隆晴の問う意味が分からずキョトンとしていると、強い腕に引き寄せられギュウッと抱き締められた。

「後悔はさせねぇから」
「っ……はい。えっと、俺も、頑張ります」

 恋人で良かったと思われるように。
 愛想を尽かされないように。
 優斗からも抱きつくと、触れた背からトクトクと鼓動が伝わってくる。いつもより少し、速い。
 それが自分の所為かもと思うと嬉しくて、スリ……と頬を擦り寄せてみた。

 隆晴の背がピクリと震え、ますます抱きすくめられて……そこでガチャリとドアが開いた。


「……この雰囲気、何かな?」

 入ってきた直柾は、眉を寄せた。
 少し離れただけでこんな甘ったるい雰囲気。押し倒すなり何なりしていた方が堂々と割って入れたのに。
 もしかして優斗は隆晴の方が好きなのかと、そう口にしてしまいそうで、ドアの前で立ち止まったまま二人を見つめる。

 ――捨てられた犬みたい……。

 優斗には垂れた犬耳の幻覚が見えた。こうなってしまえばもう可愛いしかない。

「ただ話してただけですよ。えっと、直柾さんもどうぞ」

 隆晴から離れ、直柾に両手を広げて笑ってみせた。

「優くんっ」

 パッと顔を輝かせ、優斗に飛び付くように抱きつく。腕いっぱいに抱き締め頬を擦り寄せる直柾は、やはり優斗にはとても可愛く見えた。

 あまりにもチョロい。直柾も。優斗も。
 隆晴は二人を見つめ、そっと溜め息をついた。この二人、意外と似た者同士かもしれない。

「そうだ。ホテル、予約したよ」
「えっ、もうですかっ?」
「部屋がなくなる前にね」

 直柾は爽やかに笑った。
 隆晴の時もだったが、行動力が有りすぎる。

「ネットには載ってない部屋でね、一度優くんを連れて行きたいと思っていたんだ」

 嬉しそうに笑う直柾の言葉で、優斗は察した。
 大企業の御曹司で人気俳優様の御用達の部屋。絶対に自分には相応しくない部屋だ、と。
 そんな場所、何もなくても緊張してしまう。どうしよう。申し訳ないが今回ばかりは部屋を変えて貰おう。

「ありがとうございます。楽しみです」

 ……とは、言えなかった。直柾があまりにワクワクした顔で見つめてくるから。
 優斗が笑顔で答えると、直柾はますます嬉しそうな顔で優斗を抱き締めた。

「その次は俺が気に入ってるとこに連れてくわ」

 ポンと優斗の頭を撫でる。

「今度は二人きりで、な?」
「ちょっと待って、それは許さないよ」
「明後日以降は自由ですよね」
「そんな事言ってない」
「え、ちょっ、喧嘩しないでくださいっ」

 突然火花を散らし始める二人の間に慌てて割って入った。

 恋人になって、変わったようで、変わらない。その事にホッとする。
 ずっと一緒に、ずっと仲良くいられたら。それが一番の望みだから。

 二人にギュウギュウと抱き締められながら、幸せだな……と二人の服をギュッと握った。

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