ある日、人気俳優の弟になりました。2

雪 いつき

文字の大きさ
35 / 39

もういいか?

しおりを挟む

 あまりにも良い雰囲気になってしまった。
 今まで黙って見守っていた隆晴りゅうせいは眉間の皺を深くする。
 誰だって好きな相手が他の男と長々とキスなんてしていれば殺意くらい湧くだろう。自分でも良く耐えた方だと思う。

「もういいか?」

 不機嫌さを抑えきれずに言うと、優斗ゆうとはビクリと肩を震わせた。

「っ、はいっ、すみませんっ」

 直柾なおまさに抱き締められたまま、ハッとして隆晴の方を振り返る。
 だが、隆晴を見るなり、カァ……と頬を染めゆるゆると視線を反らした。

「優斗?」
「……すみません……今から先輩と、舌…………何でもないです」

 言葉にする事ではなかった。キュッと唇を引き結ぶ。
 何故今“先輩”として見てしまったのだろう。恥ずかしさが増してしまった。それに、その“先輩”ともっと先のキスをすると思うと……。

 直柾の服を掴み耳まで真っ赤にする優斗に、隆晴は片手で顔を覆い俯いた。そして指の隙間から直柾に視線だけを向ける。

「……止まらなかったら」
「分かってるよ。頑張って」

 どう考えてもお互い憎いライバルの筈なのに、妙な連帯感が生まれた。


 深く息を吐き、優斗の肩を掴む。

「優斗、こっち見ろ」
「っ……隆晴、さん……」

 体はこちらを向いたが視線は伏せたまま。可愛いな、と思うがそろそろ我慢も限界だ。
 顎を掴み、上向かせて射抜くように視線を合わせる。

「いいか?」
「はいっ……どうぞっ」

 ギュッと目を閉じた。

「お前、緊張しすぎ」
「すみませ、っう……?」

 むにっと両頬を引っ張られ、思わず目を開けた。キョトンとする優斗の頬をむにむにと摘まみ、愉しげな顔をする。
 あれ? と思っている間に顔に影が落ちて。

「んむっ、んっ」

 カプリと噛み付くようにキスをされ、最初から違う! とツッコミを入れそうになった。
 まだ片方の頬を緩く揉まれながら、ひとまず目を閉じる。
 酷く緊張してしまったが、隆晴は恋人になっても優斗の扱いは変わらないと言っていた事を思い出す。

 変わらない…………わけがなかった。

「ふ、ぅっ……っ」

 舌が滑り込み、ぬるりとした生暖かい感触にビクリと震える。舌先で上顎を擽られ、ゾクゾクと背筋が震えた。

 ぢゅ、と音がして舌を吸われる。その舌を甘噛みされ、舌先で擽られ、また噛まれて。

「ん……、んうっ!? んーーっ!!」

 離されたかと思えば、また唇を塞がれた。それもぴったりと隙間なく塞がれ、咥内を舌が遠慮なしに這い回る。

 息が出来ない。
 息が、苦し……。

「ふぁっ、んっ、ンンッ……!」

 一瞬舌が空気に触れ、すぐにまた唇を塞がれた。

「ん、んっ、んぅ」

 上顎を舌先で擽られるとびくびくと体が震え、隆晴の服を掴む手がパタリと下に落ちる。


 そこで、直柾が隆晴を優斗から引き離した。

「気持ちは分かるけど、優くんが死んじゃう」

 止まらない気持ちは痛い程分かる。ずっとキスしていたい気持ちも、優斗の声をずっと聞いていたい気持ちも。
 他の男とキスしているというのに、優斗の顔を見ていたくて直柾も止めに入るのが遅くなってしまった。

「……悪い」

 はふはふと息をしながらもたれ掛かる優斗を抱き締め、隆晴は深く息を吐く。危うく場所も忘れて押し倒すところだった。

「…………しぬ、かと……」

 ぽそりと呟き、優斗は唇ではなく心臓を押さえる。あれ? と直柾は真顔になった。優くんはちょっと強引な方が好きなのかな?
 それなら抑える必要はないのかな、とジッと優斗を見つめた。

 だが、顔を真っ赤にして涙目でぐったりしている姿を見ると……今はまだ駄目かな、と愛しげに目を細め、そっと髪を撫でた。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。

天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!? 学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。 ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。 智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。 「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」 無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。 住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

【完結】我が兄は生徒会長である!

tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。 名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。 そんな彼には「推し」がいる。 それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。 実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。 終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。 本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。 (番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

たとえば、俺が幸せになってもいいのなら

夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語――― 父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。 弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。 助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。

処理中です...