極度の怖がりな俺、ド派手な先輩とルームシェアが決まる

雪 いつき

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12. おはよう

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「おはよう」
「ん……おはよう、ございま……んえっ!?」

 目を開けたら、すぐ近くに聖凪せなさんの顔があった。
 辺りは明るくて、朝が来たのだと分かる。寝起きからこんなにかっこいいってどういうこと?

「えっ、あのっ?」
「寝惚けてる。可愛い」

 どんな少女漫画だよ……!
 素でそんな台詞が出る男が、世の中にどれだけいるだろう。

明良あきらがあのまま寝ちゃったから、俺も一緒に寝させて貰ったよ。途中で起きて、暗い中ひとりだったら泣くだろうし」
「泣きませんけどっ、ありがとうございますっ」
「素直でいいね」

 ポンポンと俺の頭を撫でて、聖凪さんは起き上がった。

「俺、二限からだからもうすぐ出るけど、一人で平気?」
「はい。……聖凪さんを充電したので大丈夫です」
「充電式か。じゃあ、なくなる前にまた充電においで」

 聖凪さんは楽しそうに笑って、もう一度俺の頭を撫でてから部屋を出て行った。


「……これって、普通のルームシェアの距離じゃないな?」

 ルームシェアが初めての俺でも分かる。特に男同士なら、一緒のベッドで起きた朝に、こんなに優しいというか甘い雰囲気にはならない。
 そもそも相手が怖がっているからといって抱き締めてくれないだろうし、抱き合っても寝ないし、『寝惚けてる。可愛い』なんて言わない。

「聖凪さんの距離感ってどうなってるんだろ……」

 先輩後輩の距離感でもない。俺が知らないだけで、他の後輩の頭もポンポンしてるのかな?
 そう考えて、妙にモヤモヤした。聖凪さんが俺以外を撫でるのは、なんだか嫉妬しちゃうな……。嫉妬するくらい甘やかして貰ってるからだけど。


 俺もベッドを下りて、顔を洗おうと洗面所に向かう。すると浴室からシャワーの音がした。

「聖凪さん、朝ごはん食べる時間ありますか? ちょっとしたものですけど作るので」
「いいの? 手間じゃなかったら、お願い」

 返事を受けて、キッチンに向かう。俺を宥めてくれたせいで遅くなってしまったんだから、せめて朝ごはんくらいは作りたい。

 二限からなら、ゆっくり食べても間に合うはず。でもできるだけサッと食べられる方がいいだろうし、少なすぎても足りないだろうし。
 米は炊いてないからパンを焼いて、お湯を沸かしてる間に、卵を割る。

「玉子焼き、出汁巻きと甘いの、どっち派かな」

 これって、目玉焼きに何をかけるのかと同じくらい派閥があると思っている。地域差もあるだろうし……。
 少し考えて、どっちも作ろうと決めた。聖凪さんが食べない方を俺が食べればいい。


 一種類目の卵をフライパンに流してすぐにお箸で素早く混ぜて、表面がまだ半熟くらいの時にくるくると巻いていく。
 その卵に弱火で中まで火が通るのを待っている間に、湧いたお湯に鶏ガラスープを入れて、塩コショウで味を調えた。味噌汁でも良かったけど、パンには味噌汁よりスープの方が合うよな。

 最後に乾燥ワカメを入れて、溶き卵を細く流す。後は余熱で固まるから、火を止めた。
 玉子焼きをフライパンから下ろして、キッチンペーパーでサッと拭いてから二種類目の卵を流した。同じように火が通るのを待っている間に、焼けた玉子焼きを包丁で切る。

「パンも焼けたし……バナナヨーグルト作ろうかな」

 バナナを小さく切って、ヨーグルトと混ぜるだけだ。そういえば、つい気になって買ってたチョコソースがあった。これをかけてみよう。

 料理は、関東の大学を考え始めた高校入学の頃からやってるから、簡単なものだけどわりと手際よく出来るつもりだ。ただ自分用の料理ばかりだから、オシャレなのはレパートリーがないんだよね。


「え、すご。ホテルの朝食だ」

 料理をテーブルに並べ終えたタイミングで、聖凪さんがシャワーから戻って来た。

「褒めすぎですよ。でもありがとうございます」
「いや、本当にすごいって。写真撮っていい?」
「いいですけど、なんか恥ずかしいです」
「恥ずかしがることないって。今度ロアたちに自慢しよう」

 これで自慢になるのかな? と思ったけど、聖凪さんが楽しそうだからいっか。

「玉子焼き、出汁巻きと甘いのはどっちがいいですか?」
「え、二種類あるとか本当すごい。どっちも美味そう」
「じゃあ半分ずつにしましょうか」

 まだ使っていないお箸で、お皿の上の玉子焼きを半分ずつ交換した。

「……美味すぎて泣きそう」
「お口に合って良かったです」
「大袈裟じゃなくて、美味い。うちは洋食中心で、こういう実家の味みたいなのなかったのに……なんか懐かしい味がしてホッとする」

 玉子焼きを大事そうに食べてくれる。スープも味わうように飲んでくれた。


「ばあちゃんに教わった煮物とか肉じゃがも作れますけど、どっちか夜に作りましょうか? 俺、今日はバイトもないですし」
「まじで? いいの?」
「はい。両方でもいいんですけど味の感じが被っちゃうので、どっちがいいですか?」
「…………肉じゃが」

 いっぱい悩んでから発する『肉じゃが』が可愛くて、なんだか胸がぎゅっとなった。


 その晩。当然のように牛肉を使ったら、「豚肉じゃない……」と驚きと共に感動された。
 もしかしたらこれも、人によっては目玉焼きに何をかけるか問題と同じ論争が起こるのかもしれない。そして俺も、肉じゃがに豚肉を使うという新たなレシピを獲得した。


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