泣き虫で小柄だった幼馴染が、メンタルつよめの大型犬になっていた話。

雪 いつき

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9. 秀兄ちゃん

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「はー、食べ過ぎたぁ」

 焼きそばとたこ焼きとフランクフルト、苺飴とブドウ飴とチョコバナナ。少し経てばまたお腹が空くだろうけど、短時間で一気に食べるとお腹がパンパンだ。

「先に写真撮ってて良かったね」
「本当にな」

 思わず苦笑する。きっとあれもこれも気になって買ってしまうから、先にイルミネーションの前で写真を撮ろうと理央りおが言った。本当にその通りだった。


 神社の端のベンチに座って、賑わう屋台の通りを眺める。雑踏から離れて眺めるお祭りも趣があっていいな。理央はさっき一緒に撮った写真をスクロールしながら、どれを待ち受けにしよう、と真剣に悩んでいた。


凰太朗おうたろう?」
「え? ……あっ、秀兄しゅうにいちゃんっ?」

 屋台の方から近付いて来た人物に、俺は驚きの声を上げる。
 秀兄ちゃんは二歳年上の幼馴染で、理央も含めて、時々一緒に遊んでいた。隣県の大学に進学してからは会っていなかったから、随分と久しぶりだ。

「髪色明るいのかっこいいー。帰って来てたんだね」
「同級生に誘われて、今日だけな。凰太朗もかっこよくなったな」
「えっ、そうかな? 秀兄ちゃんに褒められるの、なんかくすぐったい」

 昔から大人っぽい秀兄ちゃんに憧れていたから、かっこいいなんて褒め言葉を貰うとなんだかむずむずする。


「そっちは、凰太朗の友達?」
「やっぱり分からないよね。実は……こんなに大きくなったけど、理央です」
「理央? まじか。別人じゃん」
「ね。あんなに小さかったのにね」
「凰太朗の後ろをついて回ってた泣き虫が、こんなイケメンになるなんてなぁ」

 まじまじと見つめられて、理央はムッと不機嫌な顔をした。

「秀兄ちゃん。俺はもう子供じゃない」
「おー、反抗期か?」
「凰ちゃん以外にはそう」
「凰太朗大好きなとこは変わってないな」

 理央がツンとした態度を取っても、秀兄ちゃんは明るく笑う。昔から余裕があってかっこいいんだよな。


 その時、屋台の方から秀兄ちゃんを呼ぶ声がした。秀兄ちゃんの友達もオシャレな人ばかりだ。

「二人が相変わらず仲良いとこ見られて安心したわ。今度帰る時は連絡するな?」
「うん。楽しみにしてるよ」

 友達のところに向かう背中を見つめながら……俺もオシャレを勉強しよう、と決心した。

 秀兄ちゃんと理央と三人で遊ぶなら、今持っている服や鞄だと悪目立ちする。姉さんいわく、組み合わせが芋っぽいらしいんだよなぁ……。


「……凰ちゃん」
「ん? どうした?」
「……俺の方が秀兄ちゃんより年上に見える自信あるし、俺の方がかっこいい」

 拗ねた顔でそんなことを言う。もしかして理央、秀兄ちゃんに嫉妬か?

「そうだな。理央はかっこよくなったよ」

 俺には可愛くて仕方ないけど、黙って立っていると確かに秀兄ちゃんより年上に見える。でもこの拗ねた顔は、可愛いんだよな。

「凰ちゃんまで子供扱いするし」
「ごめんな。でも理央は可愛い弟みたいなものだから……」
「もう弟じゃないよ。凰ちゃんより背も高いし、手も、俺の方が大きい」

 理央が俺の手を握る。その手を持ち上げられて、指に……キスをされた。


「っ、理央っ?」
「凰ちゃん。好きだよ」
「は……」
「こういう意味で、好き」

 もう一度指にキスをして、反対の手で俺の唇に触れる。

「……凰太朗」
「っ……」

 それ以上、理央は何もしてこない。ただ、見つめられるだけ。

 触れた手を離させたいのに、身体が硬直したように指先すら動かせない。
 心臓が痛いほどに脈打つ。理央が言う好きの意味は……誤魔化しようがないほどに、恋を示していた。

 理央のことは、弟みたいにしか思えない。そう答えるべきなのに、本当にそれでいいのかと躊躇ってしまう。どうして、躊躇ってしまうんだろう……。


「……どんなに頑張っても、年齢だけは凰ちゃんを追い越せない。二年の差は、大きいよ……」

 理央は視線を落として、俺の手をぎゅっと握った。

「凰ちゃんが他の人のものになるって考えるだけで、死にたい」
「っ……」
「俺、凰ちゃんがいないと、生きていけないよ」

 力ない声。……そういえば岡本が、理央のことをヤンデレっぽいと言っていたことを思い出す。

 岡本は気付いていたのに、俺は、理央の昔の面影を追っていたのかもしれない。昔から変わらずに懐いてくれていると思い込んで、今の理央を見ていなかった。

「理央……」

 でも理央はまだ高一だし、これから色々な人に出逢って世界も広がる。結婚したいほどに好きな人に出逢うかもしれない。

 ……そんな説教染みたことを言っても納得するわけがないけど、それでも、そうなった時に俺を捨てられずに後悔するんじゃないか?


 そんな俺の心中を察したのか、理央は俺の両手を握って、まっすぐに見据える。

「凰ちゃん。次の模試で俺が二十位以内に入れたら、俺のこと真剣に考えて」

 理央の言葉に、思わず「二十……?」と呟いてしまった。

 うちの学校では、年に四回、全学年が一斉に模擬試験を受ける。全教科の総合で、各学年の二十位までの名前が廊下に貼り出される。

 でも……全教科だと、今の理央にはかなり厳しいんじゃないか……?

「それ以下だったら……次の模試まで、俺が真剣に凰ちゃんを口説くから」

 あまりにも真剣な顔。こうして見る今の理央は、胸がぎゅうっとなるほどにかっこいい。でも……。


「それって、同じことじゃないか?」

 真剣に口説かれるなら、真剣に考えるしかない。疑問を口にすると、理央はジッと俺を見据えて、突然項垂れた。

「……そうだね」

 俺、かっこわるい。

 そう呟く理央は……今の理央として見ても、やっぱり、いとおしかった。


「その条件、吞んだ。理央の成績が上がるのは俺も嬉しいしな」
「っ……本当に?」
「正直に言うと、俺は今の理央をちゃんと見ていなかったと思うんだ。だから、これからは……二十位以内に入ったら、今の理央をしっかりと見るよ」

 言い直すと、理央は少しだけ残念そうな顔をする。でもすぐに目元を緩めて、「絶対に二十位以内に入るから」と力を込めて言い切った。



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