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8. お祭り
しおりを挟む「凰ちゃん……綺麗」
お祭りの当日。せっかくだから、浴衣を着てみた。そしたら理央からの褒め言葉は、綺麗、だった。
なんの変哲もない紺色の浴衣だけど、これのことかな? でも、そういえば、再会した時にも同じことを言われたなと思い出す。
「浴衣を着て来てくれたの、俺のため?」
「そうだよ。理央が喜ぶかなと思って」
「嬉しい。感激。凰ちゃん、大好き」
写真撮っていい? とソワソワする姿に、俺まで嬉しくなる。
……ん? 喜ぶかなって、俺、自意識過剰じゃないか?
でも実際に理央は喜んでくれたし、ちょっとくらい自意識過剰になってもいいのかもしれない。
まだ神社の入り口なのに、二人一緒の写真も撮った。理央がそれを待ち受け画面にしたいと言うから、いいよと言ったら、早速設定して嬉しそうに画面を見つめる。
その横顔が、本当に嬉しそうで……いとおしそうな表情をするから、俺の心臓はまた妙な感じに跳ねる。ドキドキするというか、きゅうっと締め付けられるような心地。
「……行こうか。焼きそば食べたいな」
「うん。屋台の焼きそばってどうしてあんなに美味しいんだろうね」
なんとなくソワソワしてしまって、理央に背を向けて屋台の方に向かう。理央は優しい声でそう言いながら、すぐに俺の隣まで追いついた。
「凰ちゃん、苺飴も好きそう」
「今の屋台って、林檎飴だけじゃなくて苺もあるのか」
「ブドウとか他の果物もあるよ」
「すごいなぁ。お祭りって、子供の頃に理央と行ったきりだから知らなかったよ」
「俺もだよ。今日のために、凰ちゃんの好きそうなところを色々調べたんだ」
「そっか。ありがとな」
いつも通りにお礼を言ったつもりなのに、妙にソワソワする。理央が俺のために調べてくれたことが、いつも以上に嬉しい。
ふと、待ち合わせ場所に着いた時のことを思い出す。
理央は、大学生くらいの綺麗な女性たちに囲まれていた。多分、彼女たちからナンパされていたんだろう。理央は大人っぽくて、すごくかっこいいから。ラフな格好でもモデルのように目立つことに改めて気付かされた。
クラスの女の子たちと一緒にいる時は微笑ましく思ったのに……きっとそれは、彼女たちが理央を自分のものにしようとしていなかったからだ。
「理央は俺のものじゃないのに……」
小さな呟きは、雑踏の中に消える。きっと聞こえても理央は、俺は凰ちゃんのものだよ、と答えるんだろう。でも、理央も、俺も、もう小さな子供じゃない。
「凰ちゃん、大丈夫?」
無意識に視線を落としていた俺の顔を、理央が心配そうに覗き込む。
理央もこんなに大きくなった。そのうち彼女が出来て、俺から離れて行くんだろう。その時は、寂しがらずに手を離してやらなきゃな……。
「大丈夫だよ。ちょっと眼鏡の汚れが気になっただけ」
そう言って誤魔化すと、理央は俺の手を取って道の端に移動する。人にぶつからないように俺の前に立ってくれるから、紳士だなぁ、と冗談めかして笑ってみせた。
特に汚れていない眼鏡を外して眼鏡拭きでレンズを拭くと、理央が俺の顔を覗き込んでくる。
「凰ちゃんの顔、好きだな……」
「っ……そうか?」
「うん。綺麗で、好き」
また綺麗だと言って、間近で俺の顔を見つめる。
「眼鏡をしてても綺麗でかっこいいけど、少しでも隠したい」
「……かっこいい理央に言われても」
「ありがとう、凰ちゃん」
俺は動揺したのに、理央は爽やかに笑って礼を言う。この五年で、心までイケメンになったな……。
「眼鏡をかけても好きだよ」
俺が眼鏡をかけると、そんなことを言って俺の手を取る。そのまま歩き出そうとするから、この歳で手を繋ぐのは……と戸惑ったものの、嬉しそうな理央の顔を見ると、何も言えなくなってしまった。
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