悪役令嬢として断罪された聖女様は復讐する

青の雀

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 マリアベルーナが領主の館でスイーツに舌鼓を打っているとき、遅ればせながらサンフランシスコ王家の使者が、息せき切って領主の館に到着する。

 ヘミングウエイ様は、恐縮しきって、何度も頭を下げられていた。なんとなく申し訳ないような感じがして、マリアベルーナも一緒に謝る。

「いえいえ。聖女様はお気になさらずに、できたら我が王城へお越しくだされば幸甚と主が申しておりました」

 辺境伯に頭を下げさせて、自分はふんぞり返っている姿を見ると、この使者の言うとおり、王都へ出向く気にはなれない。

 人間だから、誰だって、間違いや失念を起こして当たり前。それなのに尊大な態度を見せつけられてしまうと興が冷めてしまう。

 不遜な態度で、マリアベルーナを怒らせてしまった使者は俯くが、反省していないことはありありとわかった。若くして出世を成し遂げたヘミングウエイ様のことが気に入らないのであろう。

 若いと言っても、25歳ぐらいに見える。使者は、どう見ても40歳代にしか見えないから、やはり妬んでいるということがわかる。

 マリアベルーナが領主の館に留まると聞いて、ホっとした表情を見せるも、ヘミングウエイ様を睨み続けていることに変わりがない。

 マリアベルーナが駄々をこねている原因は、ヘミングウエイ様にあるかのような発言に少々イラっとくる。

 ヘミングウエイ様こそ、いい迷惑だと思う。昨夜、たたき起こされ、王家に連絡し、早朝から村長宅と宿屋に出向き、国境を越えた聖女様を引きとめる大役を言いつけられ、それを失念してしまった。

 自分より、はるかに身分が低いものから責め立てられ、泣きたくなる気分を必死に抑えていらっしゃるのだから。

 マリアベルーナもアマリリス家にいた時、使用人から同じような理由で、責め立てられた経験があるので、ヘミングウエイ様の心情がよくわかる。

 それに官僚的な言い方にもカチンと来ている。だから、ここは頑としても動かないつもりでいるのだ。

 いくら狡猾な使者でも、他国の公爵令嬢が頑なに動かずにいたら、己は嫌でも軟化しなければならないことぐらいわかるというもの。

 ついに、ヘミングウエイ様に頭を下げて、「聖女様を説得してほしい」という言質を取れたから、しめたもの。

 渋々、重い腰を上げようとしたが、時刻は、まもなく正午になろうとしていたので、領主の館でお昼ご飯を頂くことになってしまった。

 食後に、再びデザートと称して、甘いフルーツパフェを頂いたら、もう動くことがイヤになってしまう。

 使者は仕方なく、今日の移動は諦めることにしたようだ。領主の館に部屋を用意してもらい、今夜はそこで泊まることになった。

 ヘミングウエイ様には、まだ妻子はいらっしゃらないご様子で、聖女様と一つ屋根は無粋だから、と、ご自分は辺境伯邸で休まれることになった。

 こういう紳士的な対応は、嬉しい。アマリリスでは、母の死後、急なお客様があると、マリアベルーナは部屋を追い出され、馬小屋で寝させられたものだから。考えてみれば、使用人には、きちんと個室があるのに、なぜ当主の娘というだけで、部屋を追い立てられたりしたのか、いまだに理由がわからない。

 今となっては、どうでもいいことだけど。

 翌朝、あの馬車で王都に行くかと思うと、気が重くなる。だけど、これ以上ヘミングウエイ様にお世話をかけることはできない。

「お世話になりました。また、いつかどこかで、お会いする日まで、どうかお元気でお過ごしください」

 二人は、笑顔で握手して別れを告げる。

 おそらくもう二度と会うことがないとわかっていても……。思えば、母の死後、マリアベルーナは諦めの人生を歩んできたと思う。

 母の生前は、アマリリスでも、それなりに公女として、大切に育てられてきた方だと思うが、その後の人生は悲惨そのもので。いつしか「諦める」ということを覚え、身に着くようになってしまった。

 だから、レオンハルトとの婚約破棄も、まただ……の気持ちが勝ってしまい、すぐに諦めることができた。

 家出したのも、諦めたからで、サンピエトロス修道院から脱走したのも、修道院の対応を諦めたからなのだ。

 今回も、本来ならヘミングウエイ家から「諦めて」出奔するところだったにもかかわらず、ヘミングウエイ様の対応が殊の外、良かったから「諦める」ことはなかった。

 もう一度、信じるに足る人物だと思えた。相変わらず、使者は慇懃で、使い物にならないことはわかっていたが、ひとまずヘミングウエイ様の顔を立てて、王都に出立することにしよう。

 馬車の扉が開かれ、最後までヘミングウエイ様がエスコートをしてくださる。

 ゆっくりと馬車が動き出したと思ったら、急にガタンと大きな音を立てて、止まったので、ビックリする。

 なんと!王家から早馬で王族と、騎士団が駆けつけてきたのだ。

 再度、領主の館に戻り、王族が休憩されることになった。

 その王族というのが、サンフランシスコ国の王太子殿下であり、あれほど偉そうな態度であった使者も、借りてきた猫のようにおとなしくなった。

 王太子殿下とヘミングウエイ様は、同級生らしく、懐かしそうに歓談されている。その姿を使者に見せつけられて、使者はますます萎縮していく。

 自分の態度を言いつけられるのでは?と内心ビクビクしていることが、手に取るようにわかる。

 年下だからと言って、バカにし、弱いものイジメをしていると、いつ、しっぺ返しされるかわからない。

 歓談されている間、マリアベルーナに料理長から、プリン・ア・ラ・モードの差し入れがあり、すっかりご満悦。

 プリンをぺろりと平らげた頃を見計らって、王太子殿下が口を開かれた。

「はじめまして。聖女様。私はこの国の王太子で、ベネディクト・サンフランシスコと申します。聖女様の母国ブランシェでは、聖女様の行方を探索しておられますが、聖女様はいかがなされたいのでしょうか?もし、帰国の意思があれば、国境線までお送りさせていただきますし、このままサンフランシスコに留まっていただいても構いません。それとも、ご希望がございましたら、他国まで、私がお送りします」

「もうブランシェ国に帰るつもりは、ございません」

「それでしたら、しばらく……いえ、いつまでも、サンフランシスコに留まっていただければ重畳にございます。この領主のヘミングウエイとは、学園の同級生でもありますが、従兄弟でもあります。ご不明のことがあれば、私なり、ヘミングウエイなりに、お申し付けくだされば、聖女様のご希望に添えるように手配させていただきます」

「ご丁寧に、恐れ入ります」

 25歳ぐらいだと思っていたヘミングウエイさんは、20歳で、マリアベルーナと2歳しか違わないことが分かった。

 レオンハルトより、ずいぶん大人びていて頼もしい限り。

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