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5.夢の中で(2)
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また場面が変わり、今度は重厚な造りをした会議室の中にいるようだった。会議には、社長である陽介の父と、副社長である陽介の母、専務取締役である陽介、それに常務取締役兼商品開発部長という肩書を持つ麗が出席している。
典型的な同族会社だが、陽介の父の会社は、業界でも大手の部類に入る化粧品会社。つまるところヘッドハンティングされたのだ。
最初は、大島産の椿油を原料としたヘアケア製品で名を馳せていたのだが、時代の変遷とともに、化粧品業界に手を出した老舗なのだ。
皮膚科医監修で作られた化粧品は、人気を博し、発売日に合わせ、各店で、行列ができるほどまでになっている。
アレルギーなどのパッチテストに、皮膚医学会のデータが流用されることもあり、その備えは万全ともいえる。
また、次の場面になった。
今度は、麗の元の勤務先の病院で、医者から「おめでとうございます」と言われている。どうやら身ごもった模様。まさにうららにとって、幸せの絶頂なのだろう。しかしその幸せも長くは続かなかった。
次の場面で、悲しみに暮れている。陽介が乗った飛行機が墜落してしまったという一報が入る。
生まれてきた子供たちは、二卵性双生児の男女の赤ん坊を抱きかかえながら涙を流し続けている。
そして、次の場面に切り替わった時には、大きく成長した子供たちの結婚式の様子。陽介の父は、まだ現役の社長をしている。
一人は経営者として育てられ、大学院でMBAの学位を取る。もう一人は、医者になり、将来、麗の代わりに研究開発に勤しむことになるだろう。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
「んんっ……」
イネスの足音だろうか、パタパタと走っていく音が遠ざかり、やがて複数のドタドタという足音に代わっていく。
「旦那様、お嬢様が目覚められたみたいなのです」
「まことか!?医者を呼べ」
「スカーレットちゃん、大丈夫?何か、食べる?」
お母様に似た声が聞こえてくる。
ベッドの周りにたくさんの使用人や家族がスカーレットの顔を覗き込んでいる気配がするが、スカーレットの意識はあるものの、カラダがいうことを聞かないでいる。
スカーレットの意識は、というと、天井付近から、自分自身を見下ろしているような感じと言えば、わかるだろうか?
いわゆる幽体離脱の姿で、ひょっとしたら、このまま死んでしまうのかも?と思いながら、部屋のあちこちを飛んでいると、何やら窓の外に見たことがある気配がする。
窓際に近づくと、それは先ほどまで見ていた愛しい旦那様、椿陽介の姿だった。
スカーレットは思わず「あ!」と叫ぶところを必死に抑える。
陽介の姿は、スカーレットに近づき、
「すまない。僕が死んでしまったせいで、うららにこんな苦労を掛けてしまった」
「どうゆうこと?」
「必ず、君を迎えに行くから、少しの間、辛抱してくれ。姿は変わっても、僕は陽介の魂を持ち続けるから、君も皮膚科医としての本分を忘れないでくれ」
陽介の魂は一陣の風と共に去っていく。
なんなのよ、今のは。あれは、夢だったわけではないの?ひょっとしたら、スカーレットが死に戻る前の前世、つまり前々世の記憶を夢で見たのかもしれない。
そうでなければ合点がいかないし、つじつまが合わない。医者というのは、身近な科学者で科学的説明がつかないものは、基本的に信用しない。しかし、長い夢がまったくのデタラメだとも言い切れない部分が確かにある。さきほどの陽介の姿がその証拠と言えるだろう。自分で見たもの感じたことも、物的証拠ではないが、かなり近い印象があるのも事実なのだ。
この短い間に、前世と前々世の記憶、というか人生を体験した感覚は、説明つかない出来事であることは間違いがない。
その時、スカーレットは、急速にカラダが落下していることに気づく。危ない!どいて!叫びたいが叫べない。不思議な感覚で、頭がボーっとして、くらくらするめまいを感じたと思ったら、
「「お嬢様っ!!」」
「「スカーレットっ!!」」
同時に複数の声が頭上に降り注がれ、ようやく重い瞼を開けることができた。
「おはようございます」
「はぁーっ。よかった。スカーレットは3日も眠りから覚めなかったのよ。もう心配したわ」
「えっ!」
スカーレット自身は、ずいぶん長い夢を見ていたという感覚しかない。どちらかと言えば、まだ寝足りないと思っているのに、使用人に寄って集って、お風呂場に連れて行かれ、入浴させられる羽目になってしまった。
「お誕生日パーティでのお疲れが出たのでしょう。もう、どこも悪いところはございません。滋養のある物を召し上がって、2~3日もすれば、元通り回復されますよ」
無責任なことを医者は言う。
前々世、スカーレットが医者だったなんて、まだ信じられない。
でも3日間の昏倒で得たものは、聖女の力とこれから起こりうる近未来の出来事が不思議とわかるようになったことは幸いで、おかげで、学園でロベルトが待ち伏せしているスポットが先にわかり、うまく回避して、ロベルトと顔を合わせることなく過ごせたことだ。
聖女の力を得たことは、当分の間、誰にも言わず心に秘めておくことにした。もし、王家の耳にでも入れば、また前世と同じ過ちの繰り返しになるから。
典型的な同族会社だが、陽介の父の会社は、業界でも大手の部類に入る化粧品会社。つまるところヘッドハンティングされたのだ。
最初は、大島産の椿油を原料としたヘアケア製品で名を馳せていたのだが、時代の変遷とともに、化粧品業界に手を出した老舗なのだ。
皮膚科医監修で作られた化粧品は、人気を博し、発売日に合わせ、各店で、行列ができるほどまでになっている。
アレルギーなどのパッチテストに、皮膚医学会のデータが流用されることもあり、その備えは万全ともいえる。
また、次の場面になった。
今度は、麗の元の勤務先の病院で、医者から「おめでとうございます」と言われている。どうやら身ごもった模様。まさにうららにとって、幸せの絶頂なのだろう。しかしその幸せも長くは続かなかった。
次の場面で、悲しみに暮れている。陽介が乗った飛行機が墜落してしまったという一報が入る。
生まれてきた子供たちは、二卵性双生児の男女の赤ん坊を抱きかかえながら涙を流し続けている。
そして、次の場面に切り替わった時には、大きく成長した子供たちの結婚式の様子。陽介の父は、まだ現役の社長をしている。
一人は経営者として育てられ、大学院でMBAの学位を取る。もう一人は、医者になり、将来、麗の代わりに研究開発に勤しむことになるだろう。
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「んんっ……」
イネスの足音だろうか、パタパタと走っていく音が遠ざかり、やがて複数のドタドタという足音に代わっていく。
「旦那様、お嬢様が目覚められたみたいなのです」
「まことか!?医者を呼べ」
「スカーレットちゃん、大丈夫?何か、食べる?」
お母様に似た声が聞こえてくる。
ベッドの周りにたくさんの使用人や家族がスカーレットの顔を覗き込んでいる気配がするが、スカーレットの意識はあるものの、カラダがいうことを聞かないでいる。
スカーレットの意識は、というと、天井付近から、自分自身を見下ろしているような感じと言えば、わかるだろうか?
いわゆる幽体離脱の姿で、ひょっとしたら、このまま死んでしまうのかも?と思いながら、部屋のあちこちを飛んでいると、何やら窓の外に見たことがある気配がする。
窓際に近づくと、それは先ほどまで見ていた愛しい旦那様、椿陽介の姿だった。
スカーレットは思わず「あ!」と叫ぶところを必死に抑える。
陽介の姿は、スカーレットに近づき、
「すまない。僕が死んでしまったせいで、うららにこんな苦労を掛けてしまった」
「どうゆうこと?」
「必ず、君を迎えに行くから、少しの間、辛抱してくれ。姿は変わっても、僕は陽介の魂を持ち続けるから、君も皮膚科医としての本分を忘れないでくれ」
陽介の魂は一陣の風と共に去っていく。
なんなのよ、今のは。あれは、夢だったわけではないの?ひょっとしたら、スカーレットが死に戻る前の前世、つまり前々世の記憶を夢で見たのかもしれない。
そうでなければ合点がいかないし、つじつまが合わない。医者というのは、身近な科学者で科学的説明がつかないものは、基本的に信用しない。しかし、長い夢がまったくのデタラメだとも言い切れない部分が確かにある。さきほどの陽介の姿がその証拠と言えるだろう。自分で見たもの感じたことも、物的証拠ではないが、かなり近い印象があるのも事実なのだ。
この短い間に、前世と前々世の記憶、というか人生を体験した感覚は、説明つかない出来事であることは間違いがない。
その時、スカーレットは、急速にカラダが落下していることに気づく。危ない!どいて!叫びたいが叫べない。不思議な感覚で、頭がボーっとして、くらくらするめまいを感じたと思ったら、
「「お嬢様っ!!」」
「「スカーレットっ!!」」
同時に複数の声が頭上に降り注がれ、ようやく重い瞼を開けることができた。
「おはようございます」
「はぁーっ。よかった。スカーレットは3日も眠りから覚めなかったのよ。もう心配したわ」
「えっ!」
スカーレット自身は、ずいぶん長い夢を見ていたという感覚しかない。どちらかと言えば、まだ寝足りないと思っているのに、使用人に寄って集って、お風呂場に連れて行かれ、入浴させられる羽目になってしまった。
「お誕生日パーティでのお疲れが出たのでしょう。もう、どこも悪いところはございません。滋養のある物を召し上がって、2~3日もすれば、元通り回復されますよ」
無責任なことを医者は言う。
前々世、スカーレットが医者だったなんて、まだ信じられない。
でも3日間の昏倒で得たものは、聖女の力とこれから起こりうる近未来の出来事が不思議とわかるようになったことは幸いで、おかげで、学園でロベルトが待ち伏せしているスポットが先にわかり、うまく回避して、ロベルトと顔を合わせることなく過ごせたことだ。
聖女の力を得たことは、当分の間、誰にも言わず心に秘めておくことにした。もし、王家の耳にでも入れば、また前世と同じ過ちの繰り返しになるから。
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