3 / 6
3.新人教育
しおりを挟む
春になり。
新人指導を任された私だったけれど。
……その新人が問題児で。
「佐々くん。
西田くん、は?」
「……無断欠勤、です」
「また」
「また」
蔵田課長とふたりで顔を見合わせると、同時に大きなため息が落ちた。
新卒で入ってきた西田という男は、週に三度しか出てこない。
月曜日は出てくるものの、ミスなんかを注意というか、指摘しただけで火曜日は無断欠勤。
出てきた水曜日にそれを注意すると、木曜日にまた欠勤。
で、金曜日に出てくるものの、はっきり云ってそこにいるだけ。
蔵田課長や下部部長は使い物にならない、厄介者を押しつけられたって嘆いていればいいが、私にはもっと厄介な問題がある。
ブブブッ。
マナーにしていた携帯が、ポケットの中で震えて飛び上がる。
おそるおそる画面を見ると……西田“ママ”。
「……はい」
『佐々さん?
マーくんが部屋から出てこないんですけど。
あなたまた、マーくんを酷く叱ったんじゃないの?』
……はぁーっ。
電話の向こうから聞こえてくる、キンキン声にため息をつく。
西田くんが出社してようとしてまいと、一時間に一度くらいの頻度で、西田ママはこうやって電話をかけてくる。
ちなみに就業時間外でも、西田ママの気さえ向けば常に。
無視してでない、そういう手もあるが、一度それを実行したら二時間後には会社に乗り込まれ、追い返すのが大変だった。
『マーくんは褒めて延びる子なんです。
なのに、あなたみたいに頭ごなしにすぐ、怒鳴る人がいるから』
云っておくが、怒鳴ったことなんて一度もない。
ただ、
「人が話してるときはちゃんと聞こうね」
とか
「わからないときはそのままにしておかないで、聞いてね」
とか。
もう、小学生に注意するみたいなことを、それこそやんわりと注意してるだけ。
じゃないとすぐに泣きだして、まわりの視線が痛いから。
『とにかく。
すぐに来て、マーくんに謝ってちょうだい。
いい?
わかった?』
云いたいことだけ云ってぶちっと切れた電話に、盛大にため息をついて引き出しから頭痛薬を出して飲む。
消費が激しいため、内容量が多いのじゃないとすぐに空になる。
またため息をついたら、蔵田課長がちょいちょいと手招きしてた。
「西田さん、なんて?」
「毎度の通り、すぐに来てマーくんに謝って、です」
「君にそんなことが云えるなんて、西田さんも結構、だね」
「……そう、ですね」
いつも通りの私を小莫迦にする発言にも、いまは返す気力がない。
そんな私になぜか、蔵田課長の顔がわずかに曇った。
「無視、してなさい」
「……そのつもり、です」
まわりから注がれる、同情の視線が痛い。
こんなに面倒で、すぐにでもクビにできる理由があるのに、会社は西田くんを辞めさせることができない。
一番大口の取引先の、会長の孫だから。
社会勉強させるためってうちの会社に入ってきたけれど。
実際のところは厄介払いだったんじゃないかって気がしないでもない。
西田くんと西田ママのせいで私の業務は完全に滞り、残業は連日続いた。
おかげで評価も下がってる。
下部部長の西田をなんとかしろって無言のプレッシャーもすごいし、完全に八方塞がり。
昼夜を問わない、西田ママの電話のせいもあるが、よく眠れなくなってた。
携帯が振動するだけで、心臓が早鐘のようになりだすし。
私の方が真剣に、会社を辞めようか、なんて考え始めてた。
新人指導を任された私だったけれど。
……その新人が問題児で。
「佐々くん。
西田くん、は?」
「……無断欠勤、です」
「また」
「また」
蔵田課長とふたりで顔を見合わせると、同時に大きなため息が落ちた。
新卒で入ってきた西田という男は、週に三度しか出てこない。
月曜日は出てくるものの、ミスなんかを注意というか、指摘しただけで火曜日は無断欠勤。
出てきた水曜日にそれを注意すると、木曜日にまた欠勤。
で、金曜日に出てくるものの、はっきり云ってそこにいるだけ。
蔵田課長や下部部長は使い物にならない、厄介者を押しつけられたって嘆いていればいいが、私にはもっと厄介な問題がある。
ブブブッ。
マナーにしていた携帯が、ポケットの中で震えて飛び上がる。
おそるおそる画面を見ると……西田“ママ”。
「……はい」
『佐々さん?
マーくんが部屋から出てこないんですけど。
あなたまた、マーくんを酷く叱ったんじゃないの?』
……はぁーっ。
電話の向こうから聞こえてくる、キンキン声にため息をつく。
西田くんが出社してようとしてまいと、一時間に一度くらいの頻度で、西田ママはこうやって電話をかけてくる。
ちなみに就業時間外でも、西田ママの気さえ向けば常に。
無視してでない、そういう手もあるが、一度それを実行したら二時間後には会社に乗り込まれ、追い返すのが大変だった。
『マーくんは褒めて延びる子なんです。
なのに、あなたみたいに頭ごなしにすぐ、怒鳴る人がいるから』
云っておくが、怒鳴ったことなんて一度もない。
ただ、
「人が話してるときはちゃんと聞こうね」
とか
「わからないときはそのままにしておかないで、聞いてね」
とか。
もう、小学生に注意するみたいなことを、それこそやんわりと注意してるだけ。
じゃないとすぐに泣きだして、まわりの視線が痛いから。
『とにかく。
すぐに来て、マーくんに謝ってちょうだい。
いい?
わかった?』
云いたいことだけ云ってぶちっと切れた電話に、盛大にため息をついて引き出しから頭痛薬を出して飲む。
消費が激しいため、内容量が多いのじゃないとすぐに空になる。
またため息をついたら、蔵田課長がちょいちょいと手招きしてた。
「西田さん、なんて?」
「毎度の通り、すぐに来てマーくんに謝って、です」
「君にそんなことが云えるなんて、西田さんも結構、だね」
「……そう、ですね」
いつも通りの私を小莫迦にする発言にも、いまは返す気力がない。
そんな私になぜか、蔵田課長の顔がわずかに曇った。
「無視、してなさい」
「……そのつもり、です」
まわりから注がれる、同情の視線が痛い。
こんなに面倒で、すぐにでもクビにできる理由があるのに、会社は西田くんを辞めさせることができない。
一番大口の取引先の、会長の孫だから。
社会勉強させるためってうちの会社に入ってきたけれど。
実際のところは厄介払いだったんじゃないかって気がしないでもない。
西田くんと西田ママのせいで私の業務は完全に滞り、残業は連日続いた。
おかげで評価も下がってる。
下部部長の西田をなんとかしろって無言のプレッシャーもすごいし、完全に八方塞がり。
昼夜を問わない、西田ママの電話のせいもあるが、よく眠れなくなってた。
携帯が振動するだけで、心臓が早鐘のようになりだすし。
私の方が真剣に、会社を辞めようか、なんて考え始めてた。
11
あなたにおすすめの小説
可愛い女性の作られ方
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
風邪をひいて倒れた日。
起きたらなぜか、七つ年下の部下が家に。
なんだかわからないまま看病され。
「優里。
おやすみなさい」
額に落ちた唇。
いったいどういうコトデスカー!?
篠崎優里
32歳
独身
3人編成の小さな班の班長さん
周囲から中身がおっさん、といわれる人
自分も女を捨てている
×
加久田貴尋
25歳
篠崎さんの部下
有能
仕事、できる
もしかして、ハンター……?
7つも年下のハンターに狙われ、どうなる!?
******
2014年に書いた作品を都合により、ほとんど手をつけずにアップしたものになります。
いろいろあれな部分も多いですが、目をつぶっていただけると嬉しいです。
チョコレートは澤田
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「食えば?」
突然、目の前に差し出された板チョコに驚いた。
同僚にきつく当たられ、つらくてトイレで泣いて出てきたところ。
戸惑ってる私を無視して、黒縁眼鏡の男、澤田さんは私にさらに板チョコを押しつけた。
……この日から。
私が泣くといつも、澤田さんは板チョコを差し出してくる。
彼は一体、なにがしたいんだろう……?
19時、駅前~俺様上司の振り回しラブ!?~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
【19時、駅前。片桐】
その日、机の上に貼られていた付箋に戸惑った。
片桐っていうのは隣の課の俺様課長、片桐課長のことでいいんだと思う。
でも私と片桐課長には、同じ営業部にいるってこと以外、なにも接点がない。
なのに、この呼び出しは一体、なんですか……?
笹岡花重
24歳、食品卸会社営業部勤務。
真面目で頑張り屋さん。
嫌と言えない性格。
あとは平凡な女子。
×
片桐樹馬
29歳、食品卸会社勤務。
3課課長兼部長代理
高身長・高学歴・高収入と昔の三高を満たす男。
もちろん、仕事できる。
ただし、俺様。
俺様片桐課長に振り回され、私はどうなっちゃうの……!?
濃厚接触、したい
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
とうとう我が社でもテレワークがはじまったのはいいんだけど。
いつも無表情、きっと表情筋を前世に忘れてきた課長が。
課長がー!!
このギャップ萌え、どうしてくれよう……?
******
2020/04/30 公開
******
表紙画像 Photo by Henry & Co. on Unsplash
甘い失恋
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
私は今日、2年間務めた派遣先の会社の契約を終えた。
重い荷物を抱えエレベーターを待っていたら、上司の梅原課長が持ってくれた。
ふたりっきりのエレベター、彼の後ろ姿を見ながらふと思う。
ああ、私は――。
可愛い上司
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
case1 先生の場合
私が助手についている、大学の教授は可愛い。
だからみんなに先生がどんなに可愛いか力説するんだけど、全然わかってもらえない。
なんで、なんだろ?
case2 課長の場合
うちの課長はいわゆるできる男って奴だ。
さらにはイケメン。
完璧すぎてたまに、同じ人間か疑いたくなる。
でもそんな彼には秘密があったのだ……。
マニアにはたまらない?
可愛い上司2タイプ。
あなたはどちらが好みですか……?
昨日、彼を振りました。
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「三峰が、好きだ」
四つ年上の同僚、荒木さんに告白された。
でも、いままでの関係でいたかった私は彼を――振ってしまった。
なのに、翌日。
眼鏡をかけてきた荒木さんに胸がきゅんと音を立てる。
いやいや、相手は昨日、振った相手なんですが――!!
三峰未來
24歳
会社員
恋愛はちょっぴり苦手。
恋愛未満の関係に甘えていたいタイプ
×
荒木尚尊
28歳
会社員
面倒見のいい男
嫌われるくらいなら、恋人になれなくてもいい?
昨日振った人を好きになるとかあるのかな……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる