○と□~丸い課長と四角い私~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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2.月一定例会

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「で?
今月は元気そうだね」

「まあ。
誰かさんが無理難題押しつけてくる以外は、別に。
……すみませーん、生ひとつ」

ジョッキを一気に空けて、追加注文。

蔵田課長とふたりで入ったのは、半個室の焼き肉店。
云っておくがこれはデートではないし、私と蔵田課長は付き合ってない。

仕事の一環、なのだ。

「まあ、先月みたいにヘロヘロなのも困るけど。
元気が有り余ってる君もめんどくさいからイヤ」

「うるさいですねー。
……あ、上……特上カルビ、追加で」

「……人の金だと思って」

「えー?
なんですかー?
聞こえませーん」

思いっきり笑顔で返してやったら、またはぁっと小さくため息つかれた。

「ま、いいけどね」

ハーフリムの、銀縁眼鏡の奥の瞳が優しく笑ってどきりとした。
いつもの、小莫迦にした笑いとは違う顔。
この日だけはときどき、そういう顔を見せてくるからたちが悪い。


蔵田課長とこうして毎月一回、社外ミーティングと称して食事をするようになって半年ほどになる。

最初は、密かに嫌がらせを受けてたとき。

そのころやってた仕事が、たまたまうまくいって。
珍しく、部長から褒められちゃったりして。
自分では調子に乗ってるつもりはなかったけれど、まわりにはそう見えてたみたい。

それで、嫌がらせを受けるようになった。

いつも明るく元気に振る舞っているけど、ほんとの私は人見知りで引っ込み思案。
相談できる友達なんて皆無だし、きっといたとしてもやっぱり、ひとりで抱え込んじゃってたと思う。


その日も、押しつけられた仕事のために、ひとりで残業してた。

……もうやだな。
会社、辞めちゃおうかな。

「なんだ、まだ仕事してたの」

「……すみませんね、仕事が遅くて」

いつも通りの嫌みな声に、反射的に言葉を返す。
出張から帰ってきた声の主は自分のデスクに行くと、そのまま無言で仕事を始めた。
一時間程たって自分の仕事が終わり、帰ろうとしたとき。

「終わったんだ。
なら、食事に行くよ」

「は?
なんで私が、蔵田課長と?」

「社外ミーティングだよ、社外ミーティング。
ほら、さっさと行くよ」

「え?
は?」

訳わかんなくて困惑している私の腕を掴むと、蔵田課長はさっさと歩き出した。


つれてこられたところは個室の居酒屋だった。
まだパニクってる私を無視して蔵田課長は注文をし、気がついたときには目の前にビールのジョッキがおかれていた。

「とりあえず、飲もう」

「……」

……やっぱり意味、わかんないんですけど。

無言で睨んでいる私に、はぁっと小さくため息をつくと、蔵田課長は自分のジョッキに口を付けた。

「別に酔わせてどうこうとか考えてないよ。
そこまで女に飢えてないし。
ただ、酒が入った方が、話しやすいこともあるよね」

「……余計なお世話です」

蔵田課長の意図することに気がつき、ジョッキに口を付ける。

それからあとはふたりともずっと無言で、ちびちびビールを飲んで、出てきた料理をつまんでた。

やっと一杯空いたころ、目の前が滲んで見えた。

「……別につらいとか、思ってないですし」

「うん」

「……ひとりでだって、大丈夫だし」

「うん」

「……別に全然、気にしてないし」

「君のそういう強がってるとこ、嫌いじゃないけど。
たまには息抜きしないと、壊れちゃうよ?」

気がついたら。
蔵田課長が隣に座ってた。
そっと涙がたまった眼鏡をはずされたと思ったら、ぎゅっと抱きしめてきた。

「……セクハラ、です」

「そう?」

自分の言葉とは裏腹に、涙がどんどんあふれてくる。
嗚咽を漏らしている私に、蔵田課長はなにも云わない。

しばらく泣いてすっきりして。
そっと身体を離す。

「落ち着いたみたいだね」

「……ありがとう、ございました」

「うん」

いままで見たことない、優しい笑顔にどきりとした。
妙に鼓動が早いけど……これはきっと、酔ってるから。
そう片づけて、忘れることにした。


それから。
蔵田課長はちょくちょく、私を社外ミーティングだと云っては食事に誘い出し、私も次第に、そこでは愚痴や弱音を吐き出すようになっていった。

そのうち毎月最終金曜日が定例になり、書店で待ち合わせてる。

ちなみに泣いたのは、あとにも先にもあれ一回きりだ。
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