○と□~丸い課長と四角い私~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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3.新人教育

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春になり。
新人指導を任された私だったけれど。

……その新人が問題児で。

「佐々くん。
西田くん、は?」

「……無断欠勤、です」

「また」

「また」

蔵田課長とふたりで顔を見合わせると、同時に大きなため息が落ちた。

新卒で入ってきた西田という男は、週に三度しか出てこない。

月曜日は出てくるものの、ミスなんかを注意というか、指摘しただけで火曜日は無断欠勤。
出てきた水曜日にそれを注意すると、木曜日にまた欠勤。
で、金曜日に出てくるものの、はっきり云ってそこにいるだけ。

蔵田課長や下部部長は使い物にならない、厄介者を押しつけられたって嘆いていればいいが、私にはもっと厄介な問題がある。


ブブブッ。

マナーにしていた携帯が、ポケットの中で震えて飛び上がる。
おそるおそる画面を見ると……西田“ママ”。

「……はい」

『佐々さん?
マーくんが部屋から出てこないんですけど。
あなたまた、マーくんを酷く叱ったんじゃないの?』

……はぁーっ。

電話の向こうから聞こえてくる、キンキン声にため息をつく。

西田くんが出社してようとしてまいと、一時間に一度くらいの頻度で、西田ママはこうやって電話をかけてくる。

ちなみに就業時間外でも、西田ママの気さえ向けば常に。

無視してでない、そういう手もあるが、一度それを実行したら二時間後には会社に乗り込まれ、追い返すのが大変だった。

『マーくんは褒めて延びる子なんです。
なのに、あなたみたいに頭ごなしにすぐ、怒鳴る人がいるから』

云っておくが、怒鳴ったことなんて一度もない。

ただ、
「人が話してるときはちゃんと聞こうね」
とか
「わからないときはそのままにしておかないで、聞いてね」
とか。

もう、小学生に注意するみたいなことを、それこそやんわりと注意してるだけ。
じゃないとすぐに泣きだして、まわりの視線が痛いから。

『とにかく。
すぐに来て、マーくんに謝ってちょうだい。
いい?
わかった?』

云いたいことだけ云ってぶちっと切れた電話に、盛大にため息をついて引き出しから頭痛薬を出して飲む。
消費が激しいため、内容量が多いのじゃないとすぐに空になる。

またため息をついたら、蔵田課長がちょいちょいと手招きしてた。

「西田さん、なんて?」

「毎度の通り、すぐに来てマーくんに謝って、です」

「君にそんなことが云えるなんて、西田さんも結構、だね」

「……そう、ですね」

いつも通りの私を小莫迦にする発言にも、いまは返す気力がない。
そんな私になぜか、蔵田課長の顔がわずかに曇った。

「無視、してなさい」

「……そのつもり、です」

まわりから注がれる、同情の視線が痛い。

こんなに面倒で、すぐにでもクビにできる理由があるのに、会社は西田くんを辞めさせることができない。

一番大口の取引先の、会長の孫だから。

社会勉強させるためってうちの会社に入ってきたけれど。
実際のところは厄介払いだったんじゃないかって気がしないでもない。


西田くんと西田ママのせいで私の業務は完全に滞り、残業は連日続いた。

おかげで評価も下がってる。

下部部長の西田をなんとかしろって無言のプレッシャーもすごいし、完全に八方塞がり。

昼夜を問わない、西田ママの電話のせいもあるが、よく眠れなくなってた。

携帯が振動するだけで、心臓が早鐘のようになりだすし。

私の方が真剣に、会社を辞めようか、なんて考え始めてた。
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