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1.犬猿の仲
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「……佐々くん。
これ、やり直し、ね」
にっこりと笑う、銀縁眼鏡の奥の切れ長な目を睨みつけた。
――でも、奴の表情は少しも変わらない。
「なぜですか?
条件全部、クリアしてるはずですけど」
「んー?
わかんない?」
――そんなこともわかんないんだ、おかしいねー?
莫迦にしたようにくすくす笑う奴に、頬がかっと熱くなる。
「やり直せばいいんでしょ、やり直せば!」
「うん。
じゃあ、お願い。
……あ。
それ、明日までだけど大丈夫?」
――佐々くんには無理かなー?
そんな奴の心の声が聞こえてきて、思いっきり噛みついた。
「なめんなっ!
くそ課長!」
「佐々くん、口悪いねー」
くすくす笑う奴から書類をひったくり足音荒くデスクに向かう私に、みんな恐れおののいて道をあけてくれる。
どかっと乱暴に椅子に腰を下ろすと、一回大きく深呼吸。
これで完璧だと自分では思っているが、実際のところ、奴からやり直しを喰らって再提出した奴の方が評価が高かったりするので、あまり反論できない。
……気持ち、切り替え完了。
よしっ。
顔を上げるとずり落ちていた眼鏡の位置をなおし、云われたやり直しを始めた。
蔵田課長と私は、犬猿の仲。
水と油。
……まあ、そんな感じ。
奴は口を開くと、私を小莫迦にした発言しかしてこない。
私もすぐに、売り言葉に買い言葉、で返してしまうし。
だいたい、ふたりとも眼鏡だが、奴が細い銀縁ハーフリムの、オーバルタイプに対し、私はプラスチックの、赤スクエア。
そこからあってない。
どうしてそこまで反りがあわないのかわからないが、……そんな私たちふたりには秘密がある。
その月の最終金曜日。
仕事が終わると私は、近くの大型書店をうろうろしていた。
別に買いた本がある、とかでもなく。
なにか探してる、とかでもなく。
ブブブッ。
鞄の中で震えた携帯を慌てて取り出す。
“どこ?”
“コミックスコーナーです。
でも、そっち行きますよ”
“じゃあ、洋書コーナー”
“了解です”
云われた場所に行くと、私を見つけたその人――蔵田課長はくすりと笑った。
「また少女まんが?」
「いいでしょ、別に」
「僕にはなにが面白いんだか、さっぱり理解できないけど」
呆れてる蔵田課長の手には、分厚い洋書。
別々に会計をすませて店を出る。
「それで?
今日はなに食べる?
最近、夏バテ気味だしさっぱり寿司とかがいいかな」
「え?
夏バテにはやっぱり肉でしょ、肉。
焼き肉がいいです」
「は?
この暑いのに焼き肉?」
「寿司とかじゃ元気出ませんって」
私よりあたま一個分、背の高い蔵田課長が見下ろしてくる。
負けじと私も手を腰に、睨み返した。
じーっと二枚のレンズを挟んで睨み合うと、しばらくして蔵田課長がはぁっと小さくため息をついた。
「……焼き肉、ね」
「さっさと行きますよ、さっさと。
おなか、ぺこぺこなんですから」
足早に歩き出した私に、蔵田課長が慌てて後を追いかけてきた。
これ、やり直し、ね」
にっこりと笑う、銀縁眼鏡の奥の切れ長な目を睨みつけた。
――でも、奴の表情は少しも変わらない。
「なぜですか?
条件全部、クリアしてるはずですけど」
「んー?
わかんない?」
――そんなこともわかんないんだ、おかしいねー?
莫迦にしたようにくすくす笑う奴に、頬がかっと熱くなる。
「やり直せばいいんでしょ、やり直せば!」
「うん。
じゃあ、お願い。
……あ。
それ、明日までだけど大丈夫?」
――佐々くんには無理かなー?
そんな奴の心の声が聞こえてきて、思いっきり噛みついた。
「なめんなっ!
くそ課長!」
「佐々くん、口悪いねー」
くすくす笑う奴から書類をひったくり足音荒くデスクに向かう私に、みんな恐れおののいて道をあけてくれる。
どかっと乱暴に椅子に腰を下ろすと、一回大きく深呼吸。
これで完璧だと自分では思っているが、実際のところ、奴からやり直しを喰らって再提出した奴の方が評価が高かったりするので、あまり反論できない。
……気持ち、切り替え完了。
よしっ。
顔を上げるとずり落ちていた眼鏡の位置をなおし、云われたやり直しを始めた。
蔵田課長と私は、犬猿の仲。
水と油。
……まあ、そんな感じ。
奴は口を開くと、私を小莫迦にした発言しかしてこない。
私もすぐに、売り言葉に買い言葉、で返してしまうし。
だいたい、ふたりとも眼鏡だが、奴が細い銀縁ハーフリムの、オーバルタイプに対し、私はプラスチックの、赤スクエア。
そこからあってない。
どうしてそこまで反りがあわないのかわからないが、……そんな私たちふたりには秘密がある。
その月の最終金曜日。
仕事が終わると私は、近くの大型書店をうろうろしていた。
別に買いた本がある、とかでもなく。
なにか探してる、とかでもなく。
ブブブッ。
鞄の中で震えた携帯を慌てて取り出す。
“どこ?”
“コミックスコーナーです。
でも、そっち行きますよ”
“じゃあ、洋書コーナー”
“了解です”
云われた場所に行くと、私を見つけたその人――蔵田課長はくすりと笑った。
「また少女まんが?」
「いいでしょ、別に」
「僕にはなにが面白いんだか、さっぱり理解できないけど」
呆れてる蔵田課長の手には、分厚い洋書。
別々に会計をすませて店を出る。
「それで?
今日はなに食べる?
最近、夏バテ気味だしさっぱり寿司とかがいいかな」
「え?
夏バテにはやっぱり肉でしょ、肉。
焼き肉がいいです」
「は?
この暑いのに焼き肉?」
「寿司とかじゃ元気出ませんって」
私よりあたま一個分、背の高い蔵田課長が見下ろしてくる。
負けじと私も手を腰に、睨み返した。
じーっと二枚のレンズを挟んで睨み合うと、しばらくして蔵田課長がはぁっと小さくため息をついた。
「……焼き肉、ね」
「さっさと行きますよ、さっさと。
おなか、ぺこぺこなんですから」
足早に歩き出した私に、蔵田課長が慌てて後を追いかけてきた。
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