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第3章 極悪上司と運動会
4.家族……とか、ない、ない
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土曜は早く起きるつもりだったのに前日のダメージでなかなか寝付けず、さらに二度寝タイムに入ってしまって、起きたのは昼過ぎだった。
「……寝過ぎた!」
慌てて起きて準備を済ませ、買い物に出掛ける。
時期的にどこも運動会なのか、同じような買い物をしている人たちについ、笑ってしまう。
「これで大丈夫なはずだけど……」
メモどおりに漏れなく買い物をしたし、問題はないはずなんだけど。
……なんか、大事なことを忘れている気がするのはなんでだろう?
「ま、いいっか!」
気を取り直し、下ごしらえをはじめた。
日曜は一応、六時に起きた。
京塚主任からは前倒しになることがあるから、十一時頃に来てほしいと言われている。
なにかトラブルが起きたら困るから、早く起きるにこしたことはない。
「さてと」
冷めるのに時間がかかる、唐揚げから揚げていく。
だし巻き玉子に、チーチクとキューチク、彩りのパプリカを添えたハンバーグの照り焼き。
杏里ちゃんは枝豆が好きだって言っていたから忘れずに。
ウィンナーを炒め、カボチャサラダを作る。
おにぎりは子供でも食べやすいように小さめ丸おにぎりで。
「できたー!
……じゃない!」
ここまできて、重大なミスに気づいた。
我が家には……お重がないのだ。
「代わりになるお弁当箱!
ってこんなに大きいの、タッパでもない!」
棚中を探している間に、時間は過ぎていく。
時計を見たら九時を回っていた。
冷静になるのよ、桐子。
焦ったってなにも解決しない。
「あ、そうだ!」
駅ビルに百円ショップが入っているのを思いだした。
ダメ元でそこにあるかもしれない。
なんていったって、なんでも揃う百均なんだから。
それになかったときは同じ建物にスーパーも入っている。
最悪そこで、使い捨て弁当パックを買えばいい。
「ぐずぐずしている暇はない!」
慌てて準備を済ませて家を出る。
開店は十時だから、いまから行けばちょうどいいはず。
速攻で買い物を済ませて帰り、お弁当を詰めたらギリギリ、十時半には出られる!
保育園の最寄り駅に着くのが十一時になるだろうから、京塚主任には連絡入れないとだけど。
開店と同時に百均へ飛び込んだ。
「あった!
さすが、百均!」
百均なのに五百円は意味不明だが、ちょうどいいお重をゲットして大急ぎで家に帰る。
こういうとき、足の遅い自分が恨めしい。
「あとは、詰めて……」
ぜーぜーと荒い息のまま、お弁当を詰めた。
さらに今度は包むものがなくて冷や汗を掻いたが、手持ちの手ぬぐいとリボンで固定できたのでいいことにする。
ホームに降りたらちょうど、着いた電車のドアが開くところだった。
「ギリギリセーフ」
電車に乗ってようやく、ほっと息をつく。
携帯を出して京塚主任へ、少し遅れそうだとLINEを入れた。
すぐに少し押しているからゆっくりでいいと返ってきて、安心した。
「それにしても入れ物を忘れるなんて……」
うっかり過ぎて笑えない。
でも杏里ちゃん、喜んでくれるかな。
それに遅くなったとはいえ、運動会にお弁当を届けるなんてなんか……家族っぽい。
「いやいや。
ないし」
自分で自分にツッコミを入れながらも、にやける顔を止められなかった。
電車を降り、京塚主任の書いてくれた地図を片手に保育園近くのグラウンドへ向かう。
園庭が狭いから、運動会はそこでおこなうらしい。
でも、入り口で足が止まった。
運動会なんて園児とその家族のものなのに、ただの会社の部下がお邪魔していいんだろうか。
さっき、あんなに高揚していた気分はみるみる萎えていく。
「……お弁当だけ差し入れて、帰ろ」
とぼとぼと中に入り、京塚主任を探す。
「星谷!」
この辺り、と見当をつけた辺りできょろきょろしていたら、私を見つけた京塚主任が手を上げた。
「悪いな、わざわざ」
周囲の人に断りつつ、彼の元へ向かう。
初めて見る私服の彼はTシャツにジーンズと、ラフな格好だった。
まあ、運動会なんだからお洒落してもしょうがないけど。
「すみません、遅くなって」
「いや、いい。
こっちが迷惑かけてるんだし」
私に座るように促し、近くの保冷バッグに手をかけた。
「あの、これ、お弁当です。
じゃあ、私は」
「……は?」
バッグの中からペットボトルのお茶を掴んだまま、彼が止まる。
「なんで帰るんだ?」
半ば放り投げるようにお茶を渡され、慌てて受け取った。
「でも、部外者の私なんてお邪魔なんじゃ……」
「なんで、部外者なんだ?
杏里のために弁当を作ってきてくれた時点で、オマエはもう関係者だ」
不機嫌にそれだけいい、彼はそっぽを向いてしまった。
けれど、私から見える耳は、僅かに赤くなっている。
「……ありがとうございます」
ペットボトルを開け、からからになっていた喉にお茶を流し込む。
京塚主任も黙ってお茶を飲んでいた。
「杏里ちゃん、あと、出番は……?」
グラウンドでは子供たちがダンスを踊っている。
なんだかとても、微笑ましい。
「あとは午後からの親子ダンスだけだな」
彼が、プログラムを見せてくれる。
杏里ちゃんは五歳で、年長さんのところに丸がついていた。
「かけっこ、間に合わなかったのが残念です……」
そのために、少し早く起きたのに。
京塚主任ご自慢の勇姿を拝めなかったなんて。
「一番だったぞ、もちろん」
にひひひっ、と嬉しそうに彼が笑う。
一緒に応援できなかったなんて、ますます残念だなー。
「……寝過ぎた!」
慌てて起きて準備を済ませ、買い物に出掛ける。
時期的にどこも運動会なのか、同じような買い物をしている人たちについ、笑ってしまう。
「これで大丈夫なはずだけど……」
メモどおりに漏れなく買い物をしたし、問題はないはずなんだけど。
……なんか、大事なことを忘れている気がするのはなんでだろう?
「ま、いいっか!」
気を取り直し、下ごしらえをはじめた。
日曜は一応、六時に起きた。
京塚主任からは前倒しになることがあるから、十一時頃に来てほしいと言われている。
なにかトラブルが起きたら困るから、早く起きるにこしたことはない。
「さてと」
冷めるのに時間がかかる、唐揚げから揚げていく。
だし巻き玉子に、チーチクとキューチク、彩りのパプリカを添えたハンバーグの照り焼き。
杏里ちゃんは枝豆が好きだって言っていたから忘れずに。
ウィンナーを炒め、カボチャサラダを作る。
おにぎりは子供でも食べやすいように小さめ丸おにぎりで。
「できたー!
……じゃない!」
ここまできて、重大なミスに気づいた。
我が家には……お重がないのだ。
「代わりになるお弁当箱!
ってこんなに大きいの、タッパでもない!」
棚中を探している間に、時間は過ぎていく。
時計を見たら九時を回っていた。
冷静になるのよ、桐子。
焦ったってなにも解決しない。
「あ、そうだ!」
駅ビルに百円ショップが入っているのを思いだした。
ダメ元でそこにあるかもしれない。
なんていったって、なんでも揃う百均なんだから。
それになかったときは同じ建物にスーパーも入っている。
最悪そこで、使い捨て弁当パックを買えばいい。
「ぐずぐずしている暇はない!」
慌てて準備を済ませて家を出る。
開店は十時だから、いまから行けばちょうどいいはず。
速攻で買い物を済ませて帰り、お弁当を詰めたらギリギリ、十時半には出られる!
保育園の最寄り駅に着くのが十一時になるだろうから、京塚主任には連絡入れないとだけど。
開店と同時に百均へ飛び込んだ。
「あった!
さすが、百均!」
百均なのに五百円は意味不明だが、ちょうどいいお重をゲットして大急ぎで家に帰る。
こういうとき、足の遅い自分が恨めしい。
「あとは、詰めて……」
ぜーぜーと荒い息のまま、お弁当を詰めた。
さらに今度は包むものがなくて冷や汗を掻いたが、手持ちの手ぬぐいとリボンで固定できたのでいいことにする。
ホームに降りたらちょうど、着いた電車のドアが開くところだった。
「ギリギリセーフ」
電車に乗ってようやく、ほっと息をつく。
携帯を出して京塚主任へ、少し遅れそうだとLINEを入れた。
すぐに少し押しているからゆっくりでいいと返ってきて、安心した。
「それにしても入れ物を忘れるなんて……」
うっかり過ぎて笑えない。
でも杏里ちゃん、喜んでくれるかな。
それに遅くなったとはいえ、運動会にお弁当を届けるなんてなんか……家族っぽい。
「いやいや。
ないし」
自分で自分にツッコミを入れながらも、にやける顔を止められなかった。
電車を降り、京塚主任の書いてくれた地図を片手に保育園近くのグラウンドへ向かう。
園庭が狭いから、運動会はそこでおこなうらしい。
でも、入り口で足が止まった。
運動会なんて園児とその家族のものなのに、ただの会社の部下がお邪魔していいんだろうか。
さっき、あんなに高揚していた気分はみるみる萎えていく。
「……お弁当だけ差し入れて、帰ろ」
とぼとぼと中に入り、京塚主任を探す。
「星谷!」
この辺り、と見当をつけた辺りできょろきょろしていたら、私を見つけた京塚主任が手を上げた。
「悪いな、わざわざ」
周囲の人に断りつつ、彼の元へ向かう。
初めて見る私服の彼はTシャツにジーンズと、ラフな格好だった。
まあ、運動会なんだからお洒落してもしょうがないけど。
「すみません、遅くなって」
「いや、いい。
こっちが迷惑かけてるんだし」
私に座るように促し、近くの保冷バッグに手をかけた。
「あの、これ、お弁当です。
じゃあ、私は」
「……は?」
バッグの中からペットボトルのお茶を掴んだまま、彼が止まる。
「なんで帰るんだ?」
半ば放り投げるようにお茶を渡され、慌てて受け取った。
「でも、部外者の私なんてお邪魔なんじゃ……」
「なんで、部外者なんだ?
杏里のために弁当を作ってきてくれた時点で、オマエはもう関係者だ」
不機嫌にそれだけいい、彼はそっぽを向いてしまった。
けれど、私から見える耳は、僅かに赤くなっている。
「……ありがとうございます」
ペットボトルを開け、からからになっていた喉にお茶を流し込む。
京塚主任も黙ってお茶を飲んでいた。
「杏里ちゃん、あと、出番は……?」
グラウンドでは子供たちがダンスを踊っている。
なんだかとても、微笑ましい。
「あとは午後からの親子ダンスだけだな」
彼が、プログラムを見せてくれる。
杏里ちゃんは五歳で、年長さんのところに丸がついていた。
「かけっこ、間に合わなかったのが残念です……」
そのために、少し早く起きたのに。
京塚主任ご自慢の勇姿を拝めなかったなんて。
「一番だったぞ、もちろん」
にひひひっ、と嬉しそうに彼が笑う。
一緒に応援できなかったなんて、ますます残念だなー。
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