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最終章 極悪上司と結婚指環
2.子連れ出勤
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お昼休みになっても京塚主任たちは戻ってこない。
そしてその頃になると、ぼちぼちと情報も入ってきだした。
取引先にテスト納入されたものが、全く先方の意向に沿わないものだったらしい。
しかも先方は何度も、変更を依頼していた。
それを、西山さんは開発に一切、伝えていなかったのだ。
結局、完成品といっていい最終テストで納入されたものは、先方の望みを全く叶えていないどころか、正反対のものだった。
さらに、彼が言っていた納期よりもかなり遅れてこれ、だ。
先方のぶち切れも納得できる。
そんなわけで社長も含めた上役たちで現在、会議をやっている。
開発部の人間は怒り心頭で西山吊せ、って感じみたいだけど同情はできない。
終業時間少し前になって、下野課長たちは戻ってきた。
集められた部内全員が、前に立つ下野課長を見つめる。
「話はもう聞いていると思うが……」
続く言葉を、全員がごくりとつばを飲んで待つ。
「こちらから破格値で、さらに最短納期でお納めすることで、先方にはご納得いただいた」
ご愁傷様、なんて言葉が聞こえてきているけど、開発部には気の毒だけどこちらには影響ないってことなのかな。
「一からヒアリングもし直す。
これはもう西山くんに任せておけないので、……三島くん、いいかな?」
「オレでいいんですか?」
指名を受けた三島さんが、人差し指で自分を差す。
「君しかいないんだから仕方ないだろう。
……と、いうわけで、他のものは彼のサポートを頼む。
明日から」
「えーっ、明日って土曜で休みですよ!」
三島さんの声で、その場がどっと沸いた。
「開発部は不眠不休だけど?」
「西山。
てめぇ、許さねぇぞ!」
少しくらい慰める気持ちがあるのか、三島さんがおどけるように西山さんを軽くこついたけれど。
「……えっ。
あ、すみません……」
西山さんは心ここにあらず、という感じでぼーっとしていた。
翌日の休日出勤、京塚主任は杏里ちゃんを連れてきた。
「すみません、子連れで」
「いいよ、いいよ。
こっちが無理を言ってるんだからね」
すまなそうに京塚主任は詫びているが、下野課長は全くかまわず、会議室を使うようにと指示を出していた。
「杏里ちゃん、ひとりで大丈夫ですかね」
ちらり、と会議室へ目を向ける。
「まー、ちょこちょこは覗くわ」
そう言いながら京塚主任は書類をくり、西山さんと件の取引先とのやりとりを洗い出している。
当面、三島さんはこの仕事に専念し、その間は他の人間が彼の仕事をやることになっている。
開発の方もこれに集中するから、他の納期等の社内打ち合わせに、ほとんどの人間がバタバタとしていた。
――ただ、ひとりを除いて。
「あのー、西山、さん?」
できあがった書類を渡しつつ、彼に声をかけてみる。
「あー、うん」
受け取った書類を机の上に置き、彼はなにをするわけでもなく、、ぼーっと机を見ていた。
「その。
……元気出して、くださいね」
当たり障りのないことを言って、自分の席に戻る。
昨日、散々皆に責められてショックを受けているのはわかるけど、原因は自分なわけなんだし。
少しでも挽回しようと思わないのかな。
席を立ったついでに、作ってきたお菓子を手に会議室を覗いてみた。
「杏里ちゃん。
お菓子、食べる……?」
ぱっと一瞬、顔を輝かせた彼女だけど、入ってきたのが私だとわかり、みるみる不機嫌になっていく。
「い、いらない。
別に」
と言いつつも、私が手に握る紙袋に視線は釘付けになっていた。
……えっと。
ここは杏里ちゃんのプライドが傷つかない、理由を作ってあげたらいいのかな?
「そっか、残念だな……。
杏里ちゃんが食べないのなら、これは捨てるしかないんだけど……」
はぁっ、と物憂げに、ため息をついてみせた、途端。
「捨てるなんてもったいない!」
彼女の手が、私から紙袋を奪った。
「ふーん、クッキー?
食べ物を粗末にするのはよくないから、私が食べてあげる」
おおっ。
さすが、京塚主任。
教育がよくされている。
紙袋に手を突っ込み、彼女はぼりぼりとクッキーを食べだした。
「悔しいけど、あなた。
料理だけは上手なのよね」
なんていっぱしのことを言いながら。
憎まれ口だとわかっていながら、それが微笑ましく感じてしまうのはおかしいのかな。
「ありがとう」
「べ、別に、褒めてなんかないんだからね!」
顔を真っ赤にしてそっぽを向く杏里ちゃんはやっぱり、可愛いな。
席に戻ったら、京塚主任と目があった。
「すまんな、なんか」
「いえ」
これくらい、頼ってほしい。
……なんて言ったらきっと、また壁を作られてしまうんだろうな。
そしてその頃になると、ぼちぼちと情報も入ってきだした。
取引先にテスト納入されたものが、全く先方の意向に沿わないものだったらしい。
しかも先方は何度も、変更を依頼していた。
それを、西山さんは開発に一切、伝えていなかったのだ。
結局、完成品といっていい最終テストで納入されたものは、先方の望みを全く叶えていないどころか、正反対のものだった。
さらに、彼が言っていた納期よりもかなり遅れてこれ、だ。
先方のぶち切れも納得できる。
そんなわけで社長も含めた上役たちで現在、会議をやっている。
開発部の人間は怒り心頭で西山吊せ、って感じみたいだけど同情はできない。
終業時間少し前になって、下野課長たちは戻ってきた。
集められた部内全員が、前に立つ下野課長を見つめる。
「話はもう聞いていると思うが……」
続く言葉を、全員がごくりとつばを飲んで待つ。
「こちらから破格値で、さらに最短納期でお納めすることで、先方にはご納得いただいた」
ご愁傷様、なんて言葉が聞こえてきているけど、開発部には気の毒だけどこちらには影響ないってことなのかな。
「一からヒアリングもし直す。
これはもう西山くんに任せておけないので、……三島くん、いいかな?」
「オレでいいんですか?」
指名を受けた三島さんが、人差し指で自分を差す。
「君しかいないんだから仕方ないだろう。
……と、いうわけで、他のものは彼のサポートを頼む。
明日から」
「えーっ、明日って土曜で休みですよ!」
三島さんの声で、その場がどっと沸いた。
「開発部は不眠不休だけど?」
「西山。
てめぇ、許さねぇぞ!」
少しくらい慰める気持ちがあるのか、三島さんがおどけるように西山さんを軽くこついたけれど。
「……えっ。
あ、すみません……」
西山さんは心ここにあらず、という感じでぼーっとしていた。
翌日の休日出勤、京塚主任は杏里ちゃんを連れてきた。
「すみません、子連れで」
「いいよ、いいよ。
こっちが無理を言ってるんだからね」
すまなそうに京塚主任は詫びているが、下野課長は全くかまわず、会議室を使うようにと指示を出していた。
「杏里ちゃん、ひとりで大丈夫ですかね」
ちらり、と会議室へ目を向ける。
「まー、ちょこちょこは覗くわ」
そう言いながら京塚主任は書類をくり、西山さんと件の取引先とのやりとりを洗い出している。
当面、三島さんはこの仕事に専念し、その間は他の人間が彼の仕事をやることになっている。
開発の方もこれに集中するから、他の納期等の社内打ち合わせに、ほとんどの人間がバタバタとしていた。
――ただ、ひとりを除いて。
「あのー、西山、さん?」
できあがった書類を渡しつつ、彼に声をかけてみる。
「あー、うん」
受け取った書類を机の上に置き、彼はなにをするわけでもなく、、ぼーっと机を見ていた。
「その。
……元気出して、くださいね」
当たり障りのないことを言って、自分の席に戻る。
昨日、散々皆に責められてショックを受けているのはわかるけど、原因は自分なわけなんだし。
少しでも挽回しようと思わないのかな。
席を立ったついでに、作ってきたお菓子を手に会議室を覗いてみた。
「杏里ちゃん。
お菓子、食べる……?」
ぱっと一瞬、顔を輝かせた彼女だけど、入ってきたのが私だとわかり、みるみる不機嫌になっていく。
「い、いらない。
別に」
と言いつつも、私が手に握る紙袋に視線は釘付けになっていた。
……えっと。
ここは杏里ちゃんのプライドが傷つかない、理由を作ってあげたらいいのかな?
「そっか、残念だな……。
杏里ちゃんが食べないのなら、これは捨てるしかないんだけど……」
はぁっ、と物憂げに、ため息をついてみせた、途端。
「捨てるなんてもったいない!」
彼女の手が、私から紙袋を奪った。
「ふーん、クッキー?
食べ物を粗末にするのはよくないから、私が食べてあげる」
おおっ。
さすが、京塚主任。
教育がよくされている。
紙袋に手を突っ込み、彼女はぼりぼりとクッキーを食べだした。
「悔しいけど、あなた。
料理だけは上手なのよね」
なんていっぱしのことを言いながら。
憎まれ口だとわかっていながら、それが微笑ましく感じてしまうのはおかしいのかな。
「ありがとう」
「べ、別に、褒めてなんかないんだからね!」
顔を真っ赤にしてそっぽを向く杏里ちゃんはやっぱり、可愛いな。
席に戻ったら、京塚主任と目があった。
「すまんな、なんか」
「いえ」
これくらい、頼ってほしい。
……なんて言ったらきっと、また壁を作られてしまうんだろうな。
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