子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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最終章 極悪上司と結婚指環

3.生意気な子供

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お昼は京塚主任、杏里ちゃんと一緒にコンビニへお弁当を買いにいった。
私も少しだけ遅れて一階に降りた、瞬間。

「な、なんなの、この子供!」

甲高い叫び声が聞こえてきて、その方向に目が向く。
そこでは振りあげられた手がいまにも、杏里ちゃんに振り下ろされようとしていた。

「杏里ちゃん!」

無我夢中で駆け、杏里ちゃんと目の前に立つ女の間に滑り込む。
杏里ちゃんを庇って抱き締めると同時に、バッシーン、と派手な音と共に、頬へ衝撃が走った。

「あ゛?
ちょっと人が目を離した隙に、なにやってんだ?
あ゛あ゛?」

「ひぃっ!」

すぐに京塚主任が凄む声と共に、女性の小さな悲鳴が聞こえてくる。

「大丈夫、杏里ちゃん?」

怖がらせないように精一杯笑って、腕の中の彼女を見た。

「あ、杏里は別に、これくらい……。
って、あなたの方が大変なのに、なんでヘラヘラ笑ってるのよ!」

「いたっ」

彼女の手が私の頬に触れ、遅れて痛みが襲ってくる。
背後では女性が必死に、挽回を狙っていた。

「だ、だって、その子が、どうせパパ狙いで私のことは可愛いとかちっとも思ってないでしょ、なんて言うから……」

そうだ、そうだ、と一緒にいたふたりほどが頷きあっているようだけど。

……ああ、杏里ちゃん。
そこは私に見せた、キラキラ外面モードをしとくもんだよ……。

「事実、そうだろうが。
杏里に手を上げるとか」

「そ、それは……!」

杏里ちゃんにも非はあるが、そこを流すのが大人ってもん。
それを、手を上げた彼女に、なにか言う資格なんてない。

はぁーっ、とため息をつく音がし、目の前に手が差し出された。

「立てるか?」

「あ、はい」

差し出された手――京塚主任の手を借りて、立ち上がる。

「すまんな。
副社長に声かけられて、杏里もアイツらに可愛がられてるみたいだから大丈夫だと思ったんだが」

「ひぃっ」

じろっ、と眼光鋭く彼に睨まれ、そーっと退散しようとしていた彼女たちから悲鳴が上がった。

「こい。
その頬、冷やさなきゃだろ。
冷却シート、買ってやる。
ついでに、昼メシもな」

京塚主任は右手に杏里ちゃん、左手に私の手を掴み、歩きだす。

「あの、でも」

「いいから」

笑った京塚主任は、私の手を離してくれそうにない。
これって、前の状態に戻れた?
頬は痛いけれど、自然と笑顔になっていた。

コンビニで冷却シートとお弁当を買い、会社に戻る。

「わるかったな、ほんと」

「いえ。
杏里ちゃんが無事なら全然」

今日は下野課長が杏里ちゃんに開放してくれた、会議室でお昼を食べることになった。
お弁当を開ける前に、京塚主任が赤くなった頬に冷却シートを貼ってくれる。

「痛くないか」

「お姉ちゃん、痛い?」

京塚主任どころか、杏里ちゃんまで心配そうに私を見ていた。

「いえ、全然」

強がって、笑ってみせる。
まだじんじんと鈍く痛んでいるけれど、京塚主任と普通にしゃべれるんだったら、こんなもの。

「ほら、食べましょう?
杏里ちゃんもお腹、空いてるでしょ?」

「そうだな」

僅かに京塚主任が笑い、ほっとした。
これにいつまでも彼が、罪悪感を持ってほしくない。

京塚主任はパスタとサラダにさらにパンだった。
前から思っていたけど、よく食べる。
反対に杏里ちゃんは、おにぎり一個とホットスナックコーナーにある唐揚げもねだって買ってもらっていた。

「……あげる」

爪楊枝に差した唐揚げをひとつ、杏里ちゃんが私のお弁当へ入れてくれる。

「いいの?」

「あ、杏里の代わりに、叩かれてくれたから。
べ、別に杏里はひとりでも、なんとかなったけど!」

顔を真っ赤にして、ぷいっと杏里ちゃんがそっぽを向く。

「ありがとう」

結局のとこ、杏里ちゃんはパパさえ絡まなければツンデレで可愛いのだ。

「そうか。
じゃあ俺は、このパンを……」

さらに私に前に、自分のパンを京塚主任は置いてくるけれど。

「もう入りませんって!
それに、お昼ごはん、買ってくれたじゃないですかー!」

「そうか?」

ニヤリ、と彼がわざとらしく右頬を歪め、杏里ちゃんも私も笑っていた。

「トイレに行ってくる!」

食事のあと、勢いよく杏里ちゃんが椅子から飛び降りる。

「ひとりで大丈夫?」

「大丈夫に決まってる!」

思わず声をかけたけど、ぷーっとふくれて杏里ちゃんは部屋を出ていった。

「あの……。
大丈夫、なんですかね」

会社内だから誘拐なんかの危険はないと思いたいが、さっきのこともある。

「あー、……悪いが、見てきてくれるか?」

少し考えた京塚主任に、片手で拝まれた。
そういうのは、嬉しい。

「わかりました!」

ゴミをまとめた袋の口を閉め、杏里ちゃんを追った。
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