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最終章 極悪上司と結婚指環
7.お姉ちゃん、なら
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「パパ!
お姉ちゃん、どうしたの?」
椅子に座っても俯き、ひっく、ひっくとしゃくる私の手を、前に座った杏里ちゃんが心配そうに握ってくれる。
「な、なんでもない、の」
精一杯笑って誤魔化そうとした。
でも、上手く笑えない。
「星谷さんはちょっと、悪い奴に襲われたんだ」
ぽんぽん、と手があたまに触れる。
見上げたら、京塚主任と眼鏡越しに目があった。
目尻を下げて、黙って頷く。
それを見たら口から長く、溜まっていた恐怖と一緒に息が抜けていった。
「パパ、星谷さんを怖い目に遭わせた悪い奴を退治してくるから、杏里は星谷さんについててあげてくれるか」
「わかった」
私の手を握ったまま、神妙に杏里ちゃんがこくんとひとつ、頷いた。
「下野課長呼び戻すわ。
しばらくここから出るなよ?
またアイツが襲ってこねぇとは限らないからな。
……あ、食欲あるなら弁当食っとけ!」
一度、ドアを開けて外に出かかった彼だけど、振り返ってつけたし、今度こそ出ていった。
「大丈夫?」
「もう、平気」
僅かに笑って、杏里ちゃんを見る。
あんなに震えていた手は、杏里ちゃんの温かい手が握ってくれて、止まった。
恐怖でガチガチだった心も、京塚主任が溶かしてくれた。
「……パパ、本気で怒ってた。
あんなパパ、初めて見る」
「……え?」
ぼそぼそと、不安そうに杏里ちゃんが呟く。
それって、どういう意味なんだろう……?
「心配させてごめんね。
杏里ちゃん、お腹空いてるでしょ?
ごはんにしよう」
まだ胃は小さく縮こまって食欲なんてないけれど。
このまま彼女がごはんを食いっぱぐれるなんて可哀想だ。
「はぁっ」
お弁当を広げようとしてたら、杏里ちゃんが小さくため息をつく。
「あなたって本当、お人好しなのね」
「そう、かも」
苦笑いしたら、彼女がさらに呆れたように笑った。
こんな小さな子から指摘されるなんて、きっとそうなんだろう。
でもそれで、こんな事態を引き起こしたのは笑えないけど。
杏里ちゃんと一緒だったからか、お昼ごはんはなんとか食べられた。
「ごちそうさまでした、と」
あれから随分たつけれど、まだ京塚主任は戻ってこない。
「パパ、遅いねー」
「そうね」
短くそう言って椅子から降りた杏里ちゃんは、私の前に立った。
「あなた」
「はい?」
視線をあわせたいのか、私の隣の椅子に靴を脱いで上がり、杏里ちゃんが立つ。
「あっ、ちょっ、危ない……」
はらはらしている私とは違い、椅子の上から彼女は真っ直ぐに私を見下ろした。
「あなた、本当に頼りないわ。
だから杏里、決めたの。
あなたが立派な大人になれるまで見守ろうって」
杏里ちゃんはドヤッ、って感じだけど。
「ああ、うん……。
ありがとう……」
立派な大人のつもりの私としては、複雑です。
「パパと仲良くすることも特別に許すわ。
ママは認めないけど……!」
「えっ、危ないっ!」
ビシッと私を指さした杏里ちゃんの身体が反動で揺れ、慌てて支えた。
「セ、セーフ……。
とりあえず、降りよ?
ね?」
「……そうね」
さすがに、落ちそうになったのは恥ずかしかったのか、顔を赤くして彼女は素直に降りてくれた。
「と、とにかく。
特別にパパと仲良くすることを許してあげる。
ママは絶対ママだけだけど、お、お姉ちゃんくらいなら……」
「そっか。
ありがとー!」
下を向いてもじもじとしている彼女に抱きつく。
お姉ちゃん、でも嬉しい。
拒否されないのなら。
――コンコン。
ノックの音でびくっ、と身体が固まる。
杏里ちゃんも感じ取っているのか、ぎゅっと手を握ってくれた。
「星谷、いいか」
でも、顔を出したのは京塚主任で、ほっと息をつく。
「あっ、はい」
「下野課長が話を聞きたいってよ。
……大丈夫、か」
眼鏡の下で彼の眉が寄る。
「大丈夫ですよ。
杏里ちゃんがいっぱい、励ましてくれましたから」
「なら、いいが」
あきらかに彼の顔が安堵のものになった。
そんなに心配してくれているってだけで、嬉しい。
お姉ちゃん、どうしたの?」
椅子に座っても俯き、ひっく、ひっくとしゃくる私の手を、前に座った杏里ちゃんが心配そうに握ってくれる。
「な、なんでもない、の」
精一杯笑って誤魔化そうとした。
でも、上手く笑えない。
「星谷さんはちょっと、悪い奴に襲われたんだ」
ぽんぽん、と手があたまに触れる。
見上げたら、京塚主任と眼鏡越しに目があった。
目尻を下げて、黙って頷く。
それを見たら口から長く、溜まっていた恐怖と一緒に息が抜けていった。
「パパ、星谷さんを怖い目に遭わせた悪い奴を退治してくるから、杏里は星谷さんについててあげてくれるか」
「わかった」
私の手を握ったまま、神妙に杏里ちゃんがこくんとひとつ、頷いた。
「下野課長呼び戻すわ。
しばらくここから出るなよ?
またアイツが襲ってこねぇとは限らないからな。
……あ、食欲あるなら弁当食っとけ!」
一度、ドアを開けて外に出かかった彼だけど、振り返ってつけたし、今度こそ出ていった。
「大丈夫?」
「もう、平気」
僅かに笑って、杏里ちゃんを見る。
あんなに震えていた手は、杏里ちゃんの温かい手が握ってくれて、止まった。
恐怖でガチガチだった心も、京塚主任が溶かしてくれた。
「……パパ、本気で怒ってた。
あんなパパ、初めて見る」
「……え?」
ぼそぼそと、不安そうに杏里ちゃんが呟く。
それって、どういう意味なんだろう……?
「心配させてごめんね。
杏里ちゃん、お腹空いてるでしょ?
ごはんにしよう」
まだ胃は小さく縮こまって食欲なんてないけれど。
このまま彼女がごはんを食いっぱぐれるなんて可哀想だ。
「はぁっ」
お弁当を広げようとしてたら、杏里ちゃんが小さくため息をつく。
「あなたって本当、お人好しなのね」
「そう、かも」
苦笑いしたら、彼女がさらに呆れたように笑った。
こんな小さな子から指摘されるなんて、きっとそうなんだろう。
でもそれで、こんな事態を引き起こしたのは笑えないけど。
杏里ちゃんと一緒だったからか、お昼ごはんはなんとか食べられた。
「ごちそうさまでした、と」
あれから随分たつけれど、まだ京塚主任は戻ってこない。
「パパ、遅いねー」
「そうね」
短くそう言って椅子から降りた杏里ちゃんは、私の前に立った。
「あなた」
「はい?」
視線をあわせたいのか、私の隣の椅子に靴を脱いで上がり、杏里ちゃんが立つ。
「あっ、ちょっ、危ない……」
はらはらしている私とは違い、椅子の上から彼女は真っ直ぐに私を見下ろした。
「あなた、本当に頼りないわ。
だから杏里、決めたの。
あなたが立派な大人になれるまで見守ろうって」
杏里ちゃんはドヤッ、って感じだけど。
「ああ、うん……。
ありがとう……」
立派な大人のつもりの私としては、複雑です。
「パパと仲良くすることも特別に許すわ。
ママは認めないけど……!」
「えっ、危ないっ!」
ビシッと私を指さした杏里ちゃんの身体が反動で揺れ、慌てて支えた。
「セ、セーフ……。
とりあえず、降りよ?
ね?」
「……そうね」
さすがに、落ちそうになったのは恥ずかしかったのか、顔を赤くして彼女は素直に降りてくれた。
「と、とにかく。
特別にパパと仲良くすることを許してあげる。
ママは絶対ママだけだけど、お、お姉ちゃんくらいなら……」
「そっか。
ありがとー!」
下を向いてもじもじとしている彼女に抱きつく。
お姉ちゃん、でも嬉しい。
拒否されないのなら。
――コンコン。
ノックの音でびくっ、と身体が固まる。
杏里ちゃんも感じ取っているのか、ぎゅっと手を握ってくれた。
「星谷、いいか」
でも、顔を出したのは京塚主任で、ほっと息をつく。
「あっ、はい」
「下野課長が話を聞きたいってよ。
……大丈夫、か」
眼鏡の下で彼の眉が寄る。
「大丈夫ですよ。
杏里ちゃんがいっぱい、励ましてくれましたから」
「なら、いいが」
あきらかに彼の顔が安堵のものになった。
そんなに心配してくれているってだけで、嬉しい。
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