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最終章 極悪上司と結婚指環
8.……こういうの、憧れる
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応接コーナーで下野課長は待っていた。
ドアの閉まる部屋ではなくオープンなスペースにしたのは、私への配慮だろう。
「西山くんは星谷くんと両想いで同意だ、と主張していたけど、本当?」
控えめに、下野課長が訊いてくる。
「そんなことは絶対にありません」
「でも声をかけてくれたり、弁当をわざわざ作ってきてくれたから、と彼は」
改めて訊いても、西山さんの妄想は酷すぎる。
情けをかけた、私のせいでもあるけれど。
「今回の失敗で落ち込んでいる彼が可哀想で、同情してあげただけです。
それに仮に両想いだったとしても、会社で嫌がる私にあんなことをしようとする男なんて願い下げです」
「だよねー」
はぁっ、と苦笑いで下野課長はため息を落とした。
「星谷くんは喜んでた、とか西山くんは言ってるけど、星谷くんは完全に怯えていたって京塚主任の証言もあるしねー」
あれのどこで、喜んでいたとか言えるの!?
怖い、怖い。
思い込みって。
「わかった。
彼には厳しい処罰を受けてもらうし、もう星谷くんと関わらせないようにするから。
まあもっとも、あの件があるからもう、会社にいられないかもしれないけどねー」
ゆるーく笑っているわりに、下野課長はとんでもないことを言っている。
もしかしてこの人、絶対に怒らせちゃいけない人なんじゃ……?
精神的に負担が大きいだろうから、午後の仕事はいいから帰れ、と言われたけれどさせてもらった。
京塚主任と杏里ちゃんのおかげで恐怖はなくなったとはいえ、まだひとりきりになるのは怖い。
「お疲れさまでしたー」
「おつかれっしたー」
今日も、京塚主任と一緒に会社を出た。
「じゃあ。
杏里ちゃん、またね」
手を振ってわかれようとしたものの。
「なに言ってんだ?
お前も一緒に来んの」
タクシーを停め、その中に杏里ちゃん共々、私を京塚主任は放り込んだ。
「まだひとりになるのは怖ぇんだろうが」
「……」
見抜かれてた、明るく振る舞っていたのに。
彼は杏里ちゃんと暮らす自分の家に、私を連れていってくれた。
「晩メシはたいしたもん、できんぞ」
「あ、私が……!」
ソファーから立ち上がろうとしたが、肩を押して座らせた。
「オマエは今日、疲れてるからいいの。
杏里とふたりでテレビでも観てろ」
ぽん、と手にリモコンまで渡された。
「……はい」
「よしっ!」
京塚主任がキッチンに立ってごそごそとはじめる。
仕方なくポチッとテレビをつけた。
「お姉ちゃん!
お化粧、やり方教えて!!」
すぐに杏里ちゃんが、今日渡したメイク道具を広げだす。
「杏里。
星谷さんにお礼は言ったのか?」
「言ったもん!
ほら、早く杏里にお化粧して!」
杏里ちゃんと京塚主任のやりとりが微笑ましくてつい、笑ってしまう。
「わかった。
まずはねー」
子供サイズの化粧道具は使いにくいが、それでも杏里ちゃんにメイクを施していく。
杏里ちゃんは期待を隠しきれない顔で、待っている。
それをキッチンから京塚主任は料理をしながら眺めていた。
……ああ、いいな。
こういうの。
でも、これは今日のことで傷ついている私へのご褒美的なあれであって。
「できたぞー」
京塚主任がダイニングテーブルの上に並べたのは、……肉もやしラーメンだった。
「……つかぬ事をおうかがいしますが。
もしかして毎日、こんな食事なんですか?」
「えっ、あっ」
京塚主任にしては珍しく、視線が泳ぐ。
「そーだよ。
それか、お弁当」
もう慣れているのか、杏里ちゃんがちゅるんとラーメンを啜った。
「ダメですよ、杏里ちゃんは育ち盛りなんだから。
よかったら私が食事を……」
作りになんてでしゃばりだよね。
なんて思ったんだけど。
「……たまに、で、いいから作りに来てくれないか」
「えっ、あっ」
想定外の京塚主任からの答えに、戸惑ってしまう。
「……はい。
私でよかったら」
「……うん」
それっきり黙って、京塚主任はラーメンを食べている。
私も黙々と箸を動かす。
無言の大人ふたりと違い、杏里ちゃんはニヤニヤ笑ってるんだけど、なんでだろう?
ドアの閉まる部屋ではなくオープンなスペースにしたのは、私への配慮だろう。
「西山くんは星谷くんと両想いで同意だ、と主張していたけど、本当?」
控えめに、下野課長が訊いてくる。
「そんなことは絶対にありません」
「でも声をかけてくれたり、弁当をわざわざ作ってきてくれたから、と彼は」
改めて訊いても、西山さんの妄想は酷すぎる。
情けをかけた、私のせいでもあるけれど。
「今回の失敗で落ち込んでいる彼が可哀想で、同情してあげただけです。
それに仮に両想いだったとしても、会社で嫌がる私にあんなことをしようとする男なんて願い下げです」
「だよねー」
はぁっ、と苦笑いで下野課長はため息を落とした。
「星谷くんは喜んでた、とか西山くんは言ってるけど、星谷くんは完全に怯えていたって京塚主任の証言もあるしねー」
あれのどこで、喜んでいたとか言えるの!?
怖い、怖い。
思い込みって。
「わかった。
彼には厳しい処罰を受けてもらうし、もう星谷くんと関わらせないようにするから。
まあもっとも、あの件があるからもう、会社にいられないかもしれないけどねー」
ゆるーく笑っているわりに、下野課長はとんでもないことを言っている。
もしかしてこの人、絶対に怒らせちゃいけない人なんじゃ……?
精神的に負担が大きいだろうから、午後の仕事はいいから帰れ、と言われたけれどさせてもらった。
京塚主任と杏里ちゃんのおかげで恐怖はなくなったとはいえ、まだひとりきりになるのは怖い。
「お疲れさまでしたー」
「おつかれっしたー」
今日も、京塚主任と一緒に会社を出た。
「じゃあ。
杏里ちゃん、またね」
手を振ってわかれようとしたものの。
「なに言ってんだ?
お前も一緒に来んの」
タクシーを停め、その中に杏里ちゃん共々、私を京塚主任は放り込んだ。
「まだひとりになるのは怖ぇんだろうが」
「……」
見抜かれてた、明るく振る舞っていたのに。
彼は杏里ちゃんと暮らす自分の家に、私を連れていってくれた。
「晩メシはたいしたもん、できんぞ」
「あ、私が……!」
ソファーから立ち上がろうとしたが、肩を押して座らせた。
「オマエは今日、疲れてるからいいの。
杏里とふたりでテレビでも観てろ」
ぽん、と手にリモコンまで渡された。
「……はい」
「よしっ!」
京塚主任がキッチンに立ってごそごそとはじめる。
仕方なくポチッとテレビをつけた。
「お姉ちゃん!
お化粧、やり方教えて!!」
すぐに杏里ちゃんが、今日渡したメイク道具を広げだす。
「杏里。
星谷さんにお礼は言ったのか?」
「言ったもん!
ほら、早く杏里にお化粧して!」
杏里ちゃんと京塚主任のやりとりが微笑ましくてつい、笑ってしまう。
「わかった。
まずはねー」
子供サイズの化粧道具は使いにくいが、それでも杏里ちゃんにメイクを施していく。
杏里ちゃんは期待を隠しきれない顔で、待っている。
それをキッチンから京塚主任は料理をしながら眺めていた。
……ああ、いいな。
こういうの。
でも、これは今日のことで傷ついている私へのご褒美的なあれであって。
「できたぞー」
京塚主任がダイニングテーブルの上に並べたのは、……肉もやしラーメンだった。
「……つかぬ事をおうかがいしますが。
もしかして毎日、こんな食事なんですか?」
「えっ、あっ」
京塚主任にしては珍しく、視線が泳ぐ。
「そーだよ。
それか、お弁当」
もう慣れているのか、杏里ちゃんがちゅるんとラーメンを啜った。
「ダメですよ、杏里ちゃんは育ち盛りなんだから。
よかったら私が食事を……」
作りになんてでしゃばりだよね。
なんて思ったんだけど。
「……たまに、で、いいから作りに来てくれないか」
「えっ、あっ」
想定外の京塚主任からの答えに、戸惑ってしまう。
「……はい。
私でよかったら」
「……うん」
それっきり黙って、京塚主任はラーメンを食べている。
私も黙々と箸を動かす。
無言の大人ふたりと違い、杏里ちゃんはニヤニヤ笑ってるんだけど、なんでだろう?
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